8 疲弊
◯ 8 疲弊
「今回の襲撃事件は、冥界の力を見る為のものだったよ」
レイが『みかんなカフェ』の二階テラスで寛ぎながら少し遅い昼食を食べている。ベーグルサンド擬きだ。アストリューの海で取れる実を粉にした小麦粉擬きで作った物だ。僕は料理を運んだままそこで話を聞いた。
死神達と共同であの変なオブジェの魔術と刻印を調べ、背景を探るとそんなことが分かったらしい。
「じゃあ、探りにきてたの?」
「総戦力を見たかったらしいんだ。本当は雑魚程度の悪神達もあの刻印の繋がりを持つことで力が増すからね。彼らは本気でこの作戦でパンソブドーム世界に、ラジエムジー世界、ベオドリーン世界に葉恵泉世界とを落とす気はなかったってことだね。実行犯はこれで落とせたらラッキーぐらいで挑んでたみたいだよ」
レイは溜息をついて首を横に振っていた。言外に何してくれてるんだ、というのがひしひしと伝わる。
「そんなノリで世界をめちゃくちゃにしてたんだ」
「そうなんだよ。大迷惑だよ。それに実際にギリギリだったしね……。事前にあれを仕込むのだってかなりの手間なはずなんだ。多分半分以上は本気で潰しに来てたはずだよ」
「そうだよね。何処か一つでも手に入れようとしてたと思うよ僕も」
都市に集まっていた悪神達も最後迄しつこく攻撃していたし、逃げるのもギリギリ迄粘っていた。
「現場にいたらそういう事は雰囲気で伝わるよね……。相対してなくてもアキなら相手の気を感じただけでも大まかなことは感じ取ってるみたいだし」
「あの邪気輸送刻印術は他の世界にも沢山あったの?」
勝手にネーミングしてみたが伝わったようだ。
「一つの世界に百は用意されてたよ。多分、長い時間を掛けて作ってるはずなんだ。それとも一瞬であれを作れるとかは無いよね」
「さあ……」
どうなんだろう? それでもあれを設置するのは骨が折れそうだ。
「異世界間管理組合の管理している世界の評価の平均は上がってるけど、こうやって襲われると世界再生からやら無いとダメだからね……」
「ターシジュン管理組合の人は下層世界の集合だって言ってたよ……」
嫌なことを思い出したので愚痴る。
「そんなの嘘に決まってる。ただの質の違いだよ。単に自分達が優位だと思ってる馬鹿だよ」
レイも僕の台詞を聞いてムッとしている。
「そうだね。僕もそう思ったから言った人を相手にしなかったよ」
「それで良いよ。何? 死神の組合にでもいたの?」
「うん。合同訓練中になんか馬鹿にされたから無視したよ。最初は良く分からなかったけど、聞いていて腹が立ったから」
掛け持ちをしているのを聞いて、わざわざ嫌みを言いにきた人がいたのだ。失礼しちゃうよ。
「ああ、何処にでもいる嫌みな奴だね。後ろにある組織の力を自分の力と勘違いしてるんだ。ああいうのがいると組織の質が落ちて見えるから嫌だよね。ターシジュン管理組合はそうは悪い奴は揃ってないみたいだよ。ボクの取引相手は良い奴が多いからね。まああそこは大手だから色々な考えの人がいて当たり前だけど」
レイの相手をするなら向こうも幹部クラスの人だろう。纏める人物がいい人ならまだマシな組織だと思える。
「そうなんだ。じゃあ、割と良い方の組織なんだね」
「何処にでも下っ端になるとそういう些細なことで上下関係を作りたがるからね。気にしなくて良いよ。言ってる奴も新人だと思うよ」
「そうだね、一々気にしてたらダメだね」
うちの管理組合の新人も上下関係に悩んでいる人が多い。どう決着を付けるのかはその人次第だ。レイは最近、仕事で外の組織との交渉に出ている。出世したみたいで張り切っているのが分かる。
ブランダ商会はまだしつこく残っているが殆ど力はなく、負債に喘いでいみたいだ。というか後処理のみが残っているらしい。実質、破綻して組織としては終ってしまい、人も残っていないみたいだ。
うちの管理組合も少なからず被害は出たけれど、早めに手を打てていたので大打撃とはならなかったようだ。
僕達の給料らやら待遇にも影響するから、こういったことは知っておいた方が良い。レイはサンドを食べ終わって満足そうな顔で仕事に戻って行った。出世の影響で最近はガリェンツリーの仕事は余りやっていなくて、アイリージュデットさんに任せているみたいだ。
ガリェンツリー人界もカジュラ、ヴォレシタンさん、シュウ達が揃って頑張ってくれているので問題は抑えられている。僕は時々その報告を聞くくらいだ。時々は下に降りて宝箱用の素材を集めたり、ダンジョンの暴走を止めに入ったり、街中に売られている物をチェックして宝箱の中身を検討している。
最初に比べると随分落ち着いた活動になった。神界も部屋三つから少しだけだけど広げた。