58 選択肢
◯ 58 選択肢
皆がテストに受かったというメールを見て、良かったと胸を撫で下ろした。アンデッド協会に繋を取ってもらい、ホラー街のテーマパークの見学をアンデッドにやらせても良いかを相談してみた。
「スームブッドさん、お久しぶりです」
「これはこれはアキさん。お聞きしましたぞ、アンデッドの教育を始めるとか」
帽子を取って挨拶してくれた。
「ええと、そうなんです。ここのアンデッド達は人族や獣人族には余り受け入れられてないですし、一般にはまだ誤解があると言うか……」
「ええ、分かります! 我々の歴史はその認識との戦いです。ですが、協会で働いている我々の同士達の目からは充分良好かと……その、かなり羨ましいぐらいの待遇だと言わせて頂きます」
「そうなんだ?」
意外だ。
「出来ましたら、我々もここに拠点を構えさせて頂けましたら、アンデッドの教育方面に協力をさせて頂きますが、如何でしょうか?」
何か話が大きいぞ?
「えーと、そこまでになると僕だけだと決められないから、ちょっと待って下さい」
僕はこの話を神界の皆に送った。会議を開いてから返事をすると伝えて欲しいとメッセージが来た。
「会議を開いてから検討するそうです」
「おお、検討して頂けるのですね!!」
嬉しそうに笑っているスームブッドさんは、もう許可が下りた様な顔をしている。
「そうだね。魔族の事もあるし。瘴気に耐えれるアンデッド達がいれば、友好関係も築きやすいと思うし……」
その修行は必須みたいな事を聞いた。
「それは吉報ですな」
「まだ決定じゃないよ? ハイドーリアさんもどうなるか分からないし、地獄の気だってまだまだとんでもないからね」
「確かにそうですね。しかし、ホラー街の見学は少し待った方が良いかと思います。あの習慣がつくと抜け出せませんからな。ここの住民達との良好な関係は、是非このまま伸ばして頂いた方が我々としては有り難いのです」
「そうなの?」
「やはり、あれは自虐的な気持ちも多少はありますからね……。気が付いてない者が多いですが、恐怖の対象であると言うのは中々乗り越えられるものではないのです。あのように人との触れ合いがあり、ビジネスまで出来るというのは中々ないのです。それも魔族とだけではなくエルフとも関係があるなどと、かなり特殊ですよ、ここの環境は。このまま伸ばして行きましょう!! 我々はその為にみかん界に拠点を入れたいのですから」
情熱的に語ってくれたスームブッドさんは、僕の手を握ってどうかお願いしますと懇願し始めた。
「そっか、カジュラ達が長い年月をかけて築き上げた関係だからね。大事にした方が良いんならそれも会議に出しとくよ」
「ありがとうございます!」
魔族とともにアンデッド達も少し受け入れを頼むかもしれないと、こそっと言われたがまあこの際同じだろう。
この話し合いをフィトォラと一緒にまとめて会議に出す事にした。レイともう一度カジュラ達の教育を話し合う必要が出来た。
次の日の午後、会議が開かれた。
「次は昨日のアンデッド教会の申し入れだね?」
レイが確認をしてきた。
「うんと、それに関してだけど、カジュラ達の教育をもう一度組み立てる必要が出てきたみたいなんだ」
そう前置きして、スームブッドさんのいう住民との良好さを伸ばして欲しいという言葉を伝えた。
「エルフとも交遊があるのが珍しいのか?」
マシュさんは大事なのがそこか、と変な顔をしていた。
「そう言ってたよ。恐怖の対象であると認識して、自虐的な感情を持たなくて良いから理想的だって」
「当人でないと分からない繊細なところだね」
レイが考え深げに頷いている。
「テーマパークの連中を見慣れているからな。それを言ったら、余計な先入観無しに受け入れてもらえるのは冥界ぐらいだな」
「アキだって自分もゴーストのくせに怖がってたからね」
意地悪く言われてしまった。確かに恐怖を持つ方も乗り越えないとならない部分がある。
「う……」
未だにホラーゲームはダメですが……。
「良いよ。もうちょっと慎重にこれは進める方針で行こう。アンデッド協会に関しても約束はまだ出来ないから、教育に関しての要望をまとめて送ってもらうよ。拠点に関してはそうだね、日本からの客の罰もあるから協力してもらえるなら、地上界の教育の要望も融通すると条件を出そうか」
「一石二鳥か?」
「脅かすのが趣味でない人でも、あそこを囲うだけでも十分いけるよ。薬作りもはかどるし、彼らも恐怖で出してる気を貰えるしね」
「そういう取引なら問題ないだろう。ちゃんと法に則った罰として、あそこで働くという取り決めがあるんだしな。言うなれば恐怖を煽っていい合法的な場所だ」
マシュさんが悪い顔になっている。でも、要望とは逆の事をみかんの中間界では協力をしてもらうんだ。ちょっと心苦しいかも。
「董佳様には報告しなくていいの?」
「一応話は通しとくよ。それにはアンデッド協会の協力も取れてからだね。気を少し貰うからには、死神の組合との話も入れないとダメだね。監視員がいないと許可は降りないよ」
「ホラー街もそうだったね」
「資格のある死神が来ないとダメだけど、うちは死神がいない時なんてないし、ここに来たい死神は多いから話はすぐに通るよ。多分、その資格を持ってる死神もアンデッドだよ」
それで会議は終った。
確かにレイの言う通りだ。みかんの中間界は死神の組合にとっても、重要施設の一つになっている。冥界との行き来が盛んだし、死神達もここの生産品を買い求めにやってくるのだから。
こうやって、みかんの中間界を歩いてみれば分かる。
異世界間管理組合が細々とした生産品を、まとめて取り扱う大店舗を最近オープンさせた。外観は二階建ての大きな店舗だ。見た目も高級感溢れるデパートな感じで、ショーウインドゥには立体映像のモデルがかっこ良くポーズをとったりターンして衣装の後ろ姿を見せてくれたりしている。
組合も主力商品を売り込めると、かなり力を入れているみたいだ。なんせ、金に糸目を付けない死神達の戦闘服へのこだわりに驚いていたのだ。そこにしっかりと目を付けて商売を始める辺りはさすがだと思う。
『みかんなカフェ』からは、アストリューの聖域で取れたハーブや野菜、果物を使った癒しのクッキー、サンドイッチをここに卸している。蜂の妖精から貰った蜂蜜入りのキャンディーなども人気がある。どれもリモンジュースをつけて出せば、直ぐに売り切れる人気商品だ。
カフェに入れない人に外でも商品を置きませんか? と懐柔されて置き始めたが、良い稼ぎになっている。
どうやら地獄型のダンジョンでも、状態異常に掛かりにくいという報告が届いている。薬と併用すればかなりの効果があって、地獄型ダンジョンデビューしたばかりの新人の間ではお守り代わりになっているそうだ。
アンデッド用には最近アンデッド達とやり始めた実験が上手くいけば、良い物が出来るはずだった。地上界の月の癒しの神殿の神域を見て、アンデッド協会の人がこの中で育つ薬草があるからと、みかんの中間界に同じ物を作って実験を是非に、と依頼されたのでマシュさんと相談して実験の為の場所を作ったのだ。
でも、育てるのならアストリューの聖域に作った方が効果は高いと思うので、庭と森との境目にも作って実験し始めた。周りの光の浄化に闇の力を馴染ませるのに苦労したけど、中々良い感じに出来上がっている。
裏通りに入って進むと『みかんの町 生産向上レンタル施設』が見えてきた。メイン通りを外れるとこういった生産施設が目立つ。マシュさん達のみかんの研究所はひと際異彩を放っている。
最近は、ナミリルさんも自分の作品をここで作って、宝箱にも入れる服作りも協力してくれてるし、マリーさんと情報交換して楽しそうだ。レンタル施設は場所と道具貸しは常に予約で埋まっている。職人の卵には嬉しい施設だ。
僕もここで宝箱の内職をやっている。まあ実は獣守と僕の生産場所を作る時に、これは施設レンタルにしようとレイの鶴の一声で決まったのだ。人員がもっと増えた時の為に備えるという目的だったが、意外と需要が多かったというおまけがついてきた。嬉しいことである。
「アキ、会議が終わったんですか? お帰りなさい」
ダラシィーがカフェで迎えてくれた。警備の見回りに行く準備をしている。
「うん……」
「どうしましたか?」
僕は少しモヤモヤとしている事を話した。アンデッドが怖がられるのを利用したやり方はどうなのかを聞いてもらった。
「仕事としてなら割り切る人も多のではないかと」
入れてくれたハーブティーを飲みながら、ダラシィーを見た。
「でも嫌がってる人もいるし……」
「今日も嬉々として楽しんで追いかけっこをなさってましたが……好きだと言う人に仕事して頂いてはどうでしょうか?」
……それもそうか。嫌がってる人にやらせるのは心苦しいが、楽しんでいるのなら問題はない。
「そうだね。皆が嫌がってるんじゃないよね」
ホラー街のテーマパークの人達もそんな感じだった。あれが辛いという人はやらなくていいと思う。
「はい。乗り越えている人も多いと思います。やりすぎないように気を使っている場面を見てます」
「そうなんだ」
そんなすごい人もいるんだ。
「はい。仕事として誇りを持ってやってる方がいるのです」
「そっか。嫌がっていると、一概には言えないね」
役目のように感じている人もいるってことかもしれない。それでもアンデッドとしてちゃんと周りから認められている世界は必要だと思う。自尊心を持てるのは大事だ。
これも一つの選択肢として考えるべきかもしれない。自分はどの道を行くのか、二つの道があるのならそれにこした事はない。地上界での表の仕事を喜ぶ人もいれば、人を驚かす、もしくは楽しませる(?)のが好きなのか。これは本人にしか分からないし選べない。多分、地上界の例は少ないのだろう。その事を教えてくれたのは、あれを守りたかったのかもしれない。僕もそれには賛成だ。
「何か分かった気がするよ。聞いてくれてありがとう」
お礼に抱きしめてからダラシィーの頭を撫でた。いや、ご褒美を貰ったのはこっちかもしれない。フサフサだ……。
「では、見回りに行ってきます」
「うん、気をつけていってらっしゃい」




