5 要請
◯ 5 要請
死神の組合から出動要請が来た。初めてのことだ。緊急の増要員なので訓練をしていたギダ隊との出動だ。ガリェンツリーの迄は行かないけれど、悪神達が固まっているのが発見されたのだそうだ。応援要請なので、急いで行く。
「マリーさん、ポース!」
「来たな! 二度目の戦闘だ。気合い入れろよ、アッキ?」
「うん。戦闘服も着たし、大丈夫だよ」
ナミリルさんの作ってくれた服を来て出動だ。術の跳ね返しをさせる魔結晶を、魔法力BOでパワーアップさせて服にその力を付加したので、不意打ちにも強くなっている。管理組合から死神の組合に指定された場所、パンソブドーム世界に向かった。
神界は血の臭いが充満していた。突然の侵略に戸惑っている間に随分侵攻を許してしまったそうだが、最後の砦は守りきったらしい。そこで冥界に応援要請をして、なんとか神界を取り戻せたが、随分な被害が出たのは容易に分かった。ここの雰囲気はなんだか古い中国大陸的な感じだ。そんな映画を思い出す作りだ。
そんな神界の一角で作戦を聞いた。下界は乱戦状態で、悪神の拠点があちこちにある。聖域の守りと、そこを拠点に探りを入れながらあちこちに潜んでいる悪神を排除しているみたいだった。随分大変そうだ。
新たに見つかった悪神達の拠点がセンシュースーという国の都市に見つかったのでそれを叩きに向かう。それに僕達も参加することになった。死神も百人単位で向かうので、それのフォローが仕事だ。
「俺達は都に結界が張られた後、都市から出てくる悪神を結界を維持しつつ北で待ち伏せる。他のチームとで三交代でやるから、そうきつくない仕事だ」
「了解」
全員が答えて真夜中の現地に向かうことになった。他のチームは既に向かったそうで最後が僕達のチームだ。現地に着き次第顔合わせが行われて、結界の作成に入る。その後は結界を維持するチームと見張りのチーム、休憩のチームと別れると説明された。
現地に着くと既に混戦状態だった。説明された結界は腰砕けで、作戦は変更になった。下手に入って混乱をさせるよりは住民を逃がしている都市兵を手伝い、悪神がこっちにせめて来たら応戦するものになった。
十分後、悪神の一人が戦線を離脱してこっちに走ってきたので、ギダ隊が囲んで戦闘不能にした。そのまま軽く尋問して作戦の漏れを確認した。どうやら悪神達は結界の阻止に来たみたいだ。その後も外の人達を狙って出てきた悪神、邪神を捕まえて行った。
「ソーマ隊がいるのを確認した。マントの効果が切れたままだ。不利になっているから、応援に向かう。アキは手当を」
「了解」
どうやら、同じ様な管理組合の特殊部隊がいたみたいだ。隣でナッツさんがベールを半分外してソーマ隊に連絡を入れている。
紀夜媛のおかげで、僕のベールは有効範囲がぐっと伸びた。ニ、三キロ圏内なら離れても問題なくなっている。時間も半日は戦闘可能だ。
北門を通って中に入り、戦闘状態の場所から少し距離を取りながら僕とマリーさんは進んだ。スフォラも少し緊張しているみたいだ。スフォラなら何時もの訓練通りやれば十分強いよ、と伝えた。僕はスフォラ本体に入ったままだから、全く心配していない。
少し落ち着いたのか、スフォラからも大丈夫の答えが返ってきた。僕がスフォラ本体に入っている間は僕の姿をスフォラは取っている。周りが混乱しない為だ。
ソーマ隊の六人がボローさんに連れられて来た。ギダ隊のキャンプ用に僕が作って以前渡した収納スペースの中に入って手当をした。ベッドがあったり、予備の武器やら色々と揃っている。そんなに酷い怪我をしている人は少なかったけれど、マント無しだとやっぱり不利になるのか、疲労が少し見えた。
「癒し手がいるのは有り難い。こんな混戦状態だと、戦線離脱が難しくてな。マントの提供の死神が一番疲労が酷い」
ソーマ隊長が苦笑いしていた。
「そうみたいですね。ナッツさんが交代でやる提案をしたのでなんとかなると思うんですけど。そちらのマントはどのくらい持つのですか?」
「二時間半だ」
「もう一チームの方は分かりますか?」
「四時間と聞いている。戦闘が始まってそのくらい経つからそろそろだろう」
「分かりました。復活はどのくらいで出来るんですか?」
「半日は掛かるが、癒し手がいるなら別だ」
僕はギダ隊長にその話を伝えた。直ぐにもう一チームが入ってきた。こっちも六人のチームでガドン隊長が率いている。早速回復と治療を始めた。
「最悪は我々でなんとかやることになるが、この面子だとそれもありだな」
「確かに。ギダ隊がいるのも助かるな。あそこは経験が多いからな」
ソーマ隊長とガドン隊長はそんな話をしていた。確かに一番最初からこのマントの分離緊急要員をやっているから経験は多い。
「作戦が漏れたことは神界に連絡を入れたので、ここも対処されて更に応援が来るかもしれませんよ?」
「そうか。来れると良いが……確か他の世界も何か応援要請が入っているのを聞いたからな」
「何か他に狙いがあるのか?」
「そうかも知れないな」
それは知らなかったな……。意外とギリギリの人数なのかもしれない。
「確かガリェンツリーを叩いてから、向こうの勢力ががた落ちして随分経つ。また何か企んでの同時侵攻と見ていいかもしれないな」
それで人手不足なんだ。僕に迄、緊急戦闘要員として声が掛かるはずだ。死神の方の回復をしっかりとやって、時間が来たのでギダ隊とソーマ隊が入れ替わった。
「お疲れさま、皆」
「他と連絡は取れたのか?」
ガドン隊長がギダ隊長に聞いた。
「ああ、なんとかな。神界経由だと、西が危ないそうだ。都市の結界は諦めて、このままやるしかない。死人が増えるが……どうしようもないからな」
「応援は来そうか?」
「無理だろう。まずはガドン隊に西に向かってもらうことになる」
「しかし、ここはどうする」
「北北西の位置に一旦拠点を作る。それからこっちの状況を変える作戦準備に入る」
ギダ隊長は京都のように碁盤の目のテリージュン都市の地図を図面に出して、作戦を練り出した。都市計画の時の古い地図を重ねながら、要所を抑えつつ現在の状況を重ね、何を狙っているのかをあぶり出す。見れば昔の都市から発展して、随分広がっているのが分かる。全体で見れば縦横十キロは広がっているんじゃないだろうか。北と西を抑えれば他は死神達がなんとか出来るはずなので、その作戦になった。
「ここでの悪神達の狙いは、ここに我々を引きつけておきたいだけなのは分かっている。深追いせずに逃げてはまた襲ってきているからな。他に何かやっているのだろうが、ここを早く終らせればそれも崩せるはずだ。今のところ、奴らが狙いそうな場所はここの北都市の地の守りの要だ。死神が守っているが、奴らが潜伏するならここら辺りと思われる。我々は先手を打つ」
ギダ隊長は正確な場所を探して叩くつもりらしい。
「了解」
「我々はここの住民の避難所の周りを徹底的に調べる。潜んでいそうな場所はここだと思われる。拠点が出来次第、我々は奴らの潜伏先を探しに出る」
隣でもガドン隊長は西の地図を睨んで場所を指し示している。
「見つけた方から順に叩いて行く。皆はそれ迄体力温存と、北の戦線維持をして貰う」
壊れた屋敷の半地下のある場所に僕は十人くらい入れる大きさに闇のベールを広げ、亜空間を付けて出入りを限定した。亜空間のベールはこのくらいの大きさなら、四時間くらいは維持出来るし、修行でなんとか特定の人だけ入れるようにしたので大丈夫だ。魔力紋迄は分からないけれど、気に触れると何となく人物が判断出来るので、それで選り分けをしている。勿論、僕達や、死神に悪意を持っている者も入れない。
ビアラマ隊が外に出て、ソーマ隊と交代した。
朝になって北区の戦闘は落ち着いていて、見回りをするくらいになっている。そんな中、ガドン隊が西に向かって走って行った。