4 交流
◯ 4 交流
ガリェンツリーで宝箱の中身をガリルに渡してスフォラと予定を立てていたら、日本の冥界の死神である志朗さんからメッセージがあった。地獄型ダンジョンの訓練施設についての質問だった。
そういえばこないだ会った時に董佳様に話したら、何か検討するわ、とか言ってた気がする。参加申し込みだろうか? 僕は余り詳しくはないが、管理組合からでも、死神の組合からでも申し込みは可能だ。サポートも同じだし、費用も同じで入口の見学だけもある。そんな説明の書かれたパンフレットをデータで送って返事を書いた。訓練はこっちの時間で二週間待ちだから予約は余裕を持っていれた方がいいと送った。
その後、送ったパンフレットを見て会議が開かれたと報告があった。こっちに見学に来ることは決まっているので予約させてもらうが、順番を決めるのに揉めているらしい。何処の部署が先に行くのかで面子がどうだとか言って決まらないらしい。……日本のお役所らしいのんびりした感じが窺える。そんなことよりも安全性を考えて欲しいところだ。
「日本の冥界から正式に見学の申し込みがあったよ」
マリーさんに報告した。
「そうなの〜? あそこは地獄も大人しそうだから、苦労するかもしれないわよ〜」
カフェの新メニューを開発中のマリーさんは、味見をしながら話している。
「昔からの精鋭部隊から来るって言ってたよ。そこがダメなら訓練し直しの根性を叩き直すって言ってたし、大丈夫じゃないかな?」
「どうだか怪しいわね。まあ、ダンジョン初体験組だから、サポートは厚めに付けとくわ〜」
「そうだね」
少し前に、紀夜媛に防護を張ってもらってから、地獄型のダンジョンの入口まで見に行ったことがある。そこに着くまでに大量の魔物に襲われて気分が滅入った。世界樹の枯れた姿を見るのは忍びない気分だった。
その枯れた世界樹の洞から本格的な地獄型ダンジョンが始まる。
周りはダンジョン化してはいるけど、普通のフィールド内の危険度MAXのダンジョンに精神攻撃が入る程度だと説明された。されたけど、それ以上な気がした。
地獄へ続くダンジョンなんて僕には入口にいるだけで気分が悪かったし、あの洞に入ろうなんてこれっぽちも思わない。
ハイドーリアさんはダンジョンの入口近くで魔物を狩っていた。入口に立つことすら出来なかったのが、やっとそこ迄になったのだと聞いている。長い修行が始まったばかりだ。ハイドーリアさんはまだ悪神の範疇かというとどうやら違うみたいだ。自身で冥界の再生プログラムに入る決心をしたというので、紹介だけはやった。
魔族の受け入れはまだこの段階では保証出来ないが、チャレンジすることになる。あのツタの魔物が今ある第五フィールドの瘴気よりも濃い瘴気の方が良く増えるのだ。うちではもう、それは資源になっているので、保護するというか育てる必要が出ている。つまり、地獄の気を冥界から少し受け入れる方針だ。流れ的にはそうなった。ここの世界は切っても切れない縁があるのだろう。悪魔があれだけいた場所だ。仕方ない。
完全に人族、妖精族、獣人族とは棲み分けが必要になるが、なんとか上手く回るようにして行かないとならない。最悪は勇者外交も考えておく必要がある。
まあまだ先なので、気楽に行こうと思う。二つのフィールドの地獄型ダンジョンも一つは残してこのままダンジョン攻略訓練の続行が決定しているしね。
「ポイントは大分返せるようになったよ」
「マシュ達が頑張ってるものね〜」
「うん。ここのダンジョン経営もうまくいってるし、アイリージュデットさんもここの地獄の気をレイと一緒に動かして宝箱を置いてくれてるからなんとかなってるけど、マシュさん達の技術革新がすごいことになってるから、それもすごく助かってるよ」
魔結晶と魔法力BOを組み合わせた端末での、新しい転移方法での移動が可能になった。
「そうなのよ。すごく便利よ〜、転移が得意な人でも先が完璧に安全かどうか分かる人は少ないのよ。それこそアキちゃんの繊細な気を探るくらいのことが出来ないとダメなの」
「うん、死神の組合も注目してるみたいで、色々と聞かれたよ」
「まだそこは聞いてないわ〜」
「あー、あれは結局は僕の闇のベールの亜空間みたいなのを、転移先に先に作ってそこに飛ぶ形になるんだ。人がいても通り抜けるし、亜空間は五分くらいは保てるから、その間に人や、物がない場所に移動すれば大丈夫だし、敵がいてもいきなりやられるとかないから」
「亜空間を先に転移先に作ってから、飛ぶって事ね?」
「うん。敵の近くにいきなり飛ぶのは本当はお勧めしないよ。『スフォラー』と同期させて、亜空間越しに周辺の確認が出来るから転移する前にポイントも一キロ圏内ならすぐにずらせるし、それで対応するといいんだって。もうすぐ試験が終わるから、次は僕達が実験体になると思うよ?」
転移先を大まかに決定出来て、細かくは現地で動ける……便利だと思う。『スフォラー』のオプションにも付けられる。試作は腕輪型の制御装置に魔結晶が嵌っていた。
「分かったわ〜。体験すれば分かるものね」
「そうだね。言われるだけだと良く分からないよね」
マシュさんもこれ迄の空間制御の技術を詰め込んだと言っていた。まだ出来立ての技術だし、試験段階だから少し値段が高い目だが、大量に作るようになったら値段が下がるはずだ。マシュさんは死神の組合に売る気満々だったし。
自分自身でちゃんと転移の出来る人は、要らないと思う。でも、それが出来る人は限られている。神様でも出来る人と出来ない人で別れる。
管理組合の転移装置は自分で飛べる人は転移装置の負担が減るので、一回の転移の値段が下がる。貧乏なうちの世界では転移装置に関しては僕が一番負担をかけている……。マリーさんは見える範囲になら転移は出来るらしい。でも、地平線より向こうに飛ぶのにはサポートが必要なのだとか。まあ、音速を超えて移動出来る人に転移は必要なのかは僕には良く分からない。
「アキちゃんも自分で転移が出来ると、便利よ〜」
「うん。頑張ってはいるけど、ニメートルしか移動してないんだ」
「……それは歩いた方が早いわよ? エネルギーの無駄よ〜」
眉を下げてマリーさんはこっちを見ている。
「紫月にも言われたよ。歩いた方がそれだと早いって」
「まあ、その内に遠くにも飛べるわ〜。一応は出来てるんですもの、それに、アキちゃんなら感覚とか気を広げてる場所なら瞬時に移動出来そうな気がするのよねぇ」
「……それは試してないよ」
そんな方法もあったか……。行き詰まったら色んな人に聞くのが良いのかもしれない。
「あら〜、出来るわよ、絶対よ〜」
そんな訳で試すことにした。みかんの中間界に移動して訓練場を借りた。感覚を上げて世界に繋げる……あ、何か分かったかも。
空間に滑り込む感じで着地点を繋げると同時に自身をそこに繋げば、移動していた。一瞬のことだ。これならみかんの中間界の中なら何処でも行ける。
「出来た?」
「魔法を忘れてるわよ〜」
マリーさんが遠くで両手を振って指摘してきた。
「あ……」
そうか、間違ってたか……でも、こつは掴んだかもしれない。
「もう一回よ〜」
もう一度、魔力を使って飛んでみる。ああ、そうか。魔力素ってそういう事か。魔法の力も回ってるんだ。転移という大きな力を使うと何となく分かった。世界を構成する一つなんだ。自分の世界だから良く分かる。
自分の使う自分の中の魔力。外にある魔力素。現象を起こす力への変換は魔法として存在する。それが順番に回っている。世界に影響を与えすぎないようにちゃんと考えられて作っているんだ。だから魔法を使ってするんだね?
うん、やっと分かった。魔力素を捉えて気に乗せた魔力で魔法へと念を込めて発動させれば、連続で転移出来た。完了した魔法を魔力素に戻すのも忘れないでやっておく。
「なんかこつを掴んだよ」
「そうみたいね〜、それだけ出来れば魔法も得意って言えるわよ〜」
「本当? 良かった」
満足のいく結果が出せてよかった。後は外の世界でもどのくらい出来るかだ。魔法、魔力素も伝って行けば世界を感じることが出来る。世界に繋ぐのが直接の念話とするなら、魔法は言葉としてあるんだ。