46 勝負
◯ 46 勝負
「あ、シュウ。来てたんだね」
宿の小さなロビーでチャーリーが受付をしている間に、カジュラに到着の連絡を入れていたらシュウが宿の二階から下りてきた。
「アキ? ……ゴーストなのか?」
「あ、そっか。うん。そんな感じだよ」
半透明の体を見て、シュウは辛そうな顔をした。来ると聞いてなかったし、封印も頑丈にする必要がなくなったので、人の姿を取ってなかったのは僕が悪い。
「何時からだよ」
シュウが悲しげに聞いてきた。異世界間管理組合のマーケットで、二回目に会った時にはゴーストをやっていたからね……。その説明を今更ながらした。
「だからあんなにアンデッドが保護されるって言ってたのか」
呆れた顔で確かめられたので、誤摩化し笑いで視線をそらしておいた。
「う、うん。まあそうだね。それに種族はもう、アンデッドって訳じゃないよ?」
体が出来上がってるからゴーストとはもう言わない。精霊の一種に入れられている。流れる血は水っぽい赤色なのはカシガナのせいだろうか? まあ紫月が美味しそうに飲んでるから良いけど。
ゴーストではない説明もしているけど、シュウは首を傾げていた。まあね、ここでは精霊は今はいないから判断出来ないのだろう。
「良いんだ。幽霊でも精霊でも霊に近い存在だしね。そっち系のものだって思ってよ」
人間の体にはほど遠い。半透明な体は肉体というよりは霊的存在に近い証拠だそうだ。
「そうか、まあ良いよ、アキはアキだしな」
良く分からないなりにも何か納得したらしい。
「え、と、今日は来るって聞いてなかったけど……?」
結果的にはこれでアキとしての人界での活動は、この姿で統一出来そうだ。
「ああ、ここの様子も見ておきたかったからな。修行だよ。大所帯になるけど他のメンバーも来てる。ルルさん達にみっちりしごかれてるし、腕の見せ所だしな」
チャーリーが宿の受付を済ませて戻って来た。宿の案内係が付いて来ている。冒険者にはサービスがかなり良い。
宿の部屋自体に癒しの術の効果が掛かっているし、ダンジョンに入る人の為に簡易の転移装置まで貸し出しがある。負傷したら世界樹の教会の出張治療所に飛ばされて、無事に探索が終れば冒険者組合に帰ってくる場所も設置されている。その内に、ダンジョンの奥に転移場所を作って管理する予定だ。
ダンジョン入口からその転移場所まで到達出来たら、次はそこから探索開始が出来る仕組みにする予定だ。
ダンジョン用のお得便利グッズ一式なんかもある。まあ、その使い心地を調べるのが、今回の最大の視察になった。フィトォラとの関係が浅い僕を奥に連れて行くのは難しいみたいだから仕方ない。
あの、恐ろしい戦闘訓練付きサバイバル中に考えたレンタルが、ここで発揮されている。簡易の結界装置、魔法のカバン類まで全部レンタル出来る。さすがに薬類などの消耗品は販売だけだ。
冒険者のランクに応じて借りれるグッズが違ってくるが、そこはまあサービス内容が変わるのは誰も文句言わない。そういうものだと皆は納得してくれている。
冒険者としてのランク上げも方式が変わった。必ず、試験があってそれを合格しないとレベルが上がらない。ちなみに前はなかったという筆記試験もある。
シュウもランク試験には手こずっているみたいで、その話をしたら険しい顔をしている。
「ランクは一つ星で初級、二つで初中級、三つで中級、四つは中上級、五つで上級者だからな。六つは特級で、七つは英雄級で誰も持ってない。結構厳しいって噂だぞ?」
「あ、うん」
「俺様は七つ星だ!! それ以外はいらねぇな」
「ポース。いきなりそれは無理だよ」
今回はポースも来ている。クシュリーがポースと一緒に冒険者組合から帰ってきて、後ろから話し掛けてきているので振り返った。明日のダンジョン入りをカジュラと予約したみたいで、後ろにはカジュラとクーノスさんが付いて来ていた。
「ここのダンジョンはレベルが高いから、星一つじゃ入口までしか無理だぞ」
クーノスさんがシュウに向かって言っている。シュウは一つ星になったばかりだ。
見習いは三角印だ。五つ集まってやっと一つ星になれる。ちなみに僕は久しぶりなせいで見習い三角印二つだ。この後試験を受けれるので三角印三つになれれば良いのだけど。
ポースは町の様子を見に行くと言い残してクシュリーと外に出て行った。久しぶりの違う世界に浮かれているみたいだ。自由に出来る世界はここと、許可の出ているアストリューだけだし、嬉しいのだろう。
「他の皆は?」
「ああ。ランクSは無条件で一つ星スタートだったからな。やっと二つ星になった」
クーノスさんは苦々しげに言った。うん、ちょっと厳しいけど、読み書きが怪しかったからしょうがないよね。カジュラは筆記は問題なかったみたいで、時期がくれば試験を受けて三つ星を目指すと言っていたはず。
「メンバーはジュニーさんとルルさんも来るの?」
「女性陣は部屋で待機しております。ジュニーは冒険者組合の試験では二つ星になりました。旧冒険者ギルドでランクSにしておいたおかげですな。前の時は紹介と保証者がいればランクAにはなれましたので……」
裏技を使ったらしい。第五フィールドの冒険者ギルドは独立状態の時にアンデッドのランク上げを独自規則で勝手にあげて登録をしていたみたいだ。
まあ、長い間登録すら出来なかったし、実力があるのは分かっているから問題はない。ルルさんは元々ランクはSだったから揃って二つ星になっているそうだ。順調にいけば三つ星に直ぐになると思う。そこから上は専門性が強いので試験もかなり難易度が上がる。
ギダ隊なら六つ星だろうが七つ星だろうがあっさり通りそうだけど、戦闘狂な方々の基準ではここのレベルは低いと思う。ただ、ここの知識はないから筆記は落ちそうだけど。この世界で出てくる魔物や魔石、注意するべき生物にポーション類の用途、魔法の知識などが試される。
「空中戦は五つ星から評価が入るし、二つ星だと地上の戦いだけだよね? カジュラには不利なルールだね」
「空歩のブーツがありますから、その分の道具の使い方では高い評価を頂いております」
謙遜した答えが返ってきた。
「そっか、そっちに出るんだね。マントは?」
「これはおいそれと中身の効果を言えませんから。秘匿させて頂いてます。何せ月夜神様のご加護付き……それだけでも破格なのですからね」
自慢げにカジュラは答えているが、なんだか背中がもぞもぞするぞ。加護なんて付いてたかな? 癒しの効果のことかな?
「自慢の一品ですね。カジュラさん、羨ましいですよ、それ」
「シュウ殿も色々とお持ちではないですか。その手甲など、噂に聞くアダマンタイトだとか……ドワーフ達垂涎の的となったと聞いておりますぞ」
「いや、これは……確かにそうだけど、本当なのか怪しいぞ?」
シュウの目が泳いでいる。僕をちらっと見てどうなんだと言った顔だ。
「ミスリルとアダマンタイト、オリハルコンもパーツに混ざってるよ。神界(みかんの中間界)の鍛冶師に作ってもらったから間違いないよ」
「まあ、そういう事なら……皆の分があって驚いたよ。それでこんなの作って借金は大丈夫なのか?」
シュウはそっちが心配ならしい。魔法陣化したみかんの中間界のせいで、またしても恐ろしい事になっている。
「そんなの作ってもらうより、遥か高みにマイナスの数値は届いているんだ。問題ないよ、今更」
乾いた笑いがその場を通り過ぎた。虚しい。話題を変えよう。
「カジュラはこれを預かってるよ」
綺麗な半透明な銀色に、赤の線の入った刀身のサーベルだ。日本刀に似た作りの良く切れる一品で、獅座達の作品だ。随分腕が上がったみたいで、鍛冶の師匠にも武器の作成が認められて、地獄行きのダンジョンの為の武器に防具にと頑張って作っているみたいだ。
「なんと……私めにこのような武器を」
震える手で受け取って、鞘から出して綺麗な赤いラインを見ていた。
「シュウ達は武器は色々試してて定まってないからまだ作ってないけど、その内に渡すよ」
物欲しそうなシュウの視線に理由を話した。
「確かに。今渡されたらそれしか出来なくなる」
納得したみたいだ。出来たらこんな感じのカッコいい武器が良いとリクエストされてしまった。
まあ、みかんの中間界では不思議金属は何もその三つだけじゃないからね。神竪鉄だの聖核鋼だの聞いた事も無いものが出てくる。何処かの魔鋼石を入れるだの、僕の魔結晶を砕いていれるだの、色々とやっているみたいだ。
独自の技術を日々開発していて、オリジナルの金属を作り出したりなんかもしていると聞く。獅座達もその域に達しつつあるみたいで、たくましくなってきたと思う。
「で、その手甲は盾が出るって聞いてるけど、使い心地はどう?」
シュウの着けてるものはそんな感じだって聞いている。
「これ、使い心地が良いぞ。思った通りの大きさの魔法の盾が出てくるから戦い易いよ」
「うん。闘気を扱える人にはかなり有利だからね……えーと、身体強化が出来る人には全身に防護が張れるはずだよ」
魔力の質までは問題視されてないのでそんな感じだ。
「まだそこまでは出来てないな。一部だけってとこだ」
「そっか、修行だね?」
頷いているので分かっているみたいだ。道具も良いものだと使いこなすのも大変だ。
「ああ、四人でそっちに行くって決めてるからな。待ってろよ。俺達も借金返済を手伝うからな」
倉沢さんは保留だそうだ。
「あ、うん。ありがとう」
「それは俺達の台詞だろ」
頭を小突かれてしまった。
「うん、心配しなくても良い感じに返せてるよ。ここも投資してくれる人がいるくらいには価値が出てるからね?」
「そうなのか?」
「勿論だよ。僕達だけでは冒険者組合の資金もこんなにたっぷりでないしね」
「そういえば、このダンジョンから転移するためのものとかすごい技術が入っているよな?」
「うん。僕もそれを確かめにきてるんだ。こっちには久しぶりに来たから知らなくて……」
ダンジョン内と冒険者組合、もしくは治療所にしか飛べないけれど、簡易の転移装置を使える様にしたので、すごく変わったと思う。
「何だそうだったのか?」
「お、アッキ、話は済んだか? この町は手練が多く住んでるな。鍛錬している連中を見たが中々のもんだ」
「あ、ポース戻って来たんだね。そうだね、ここには上級のダンジョンに挑戦する冒険者達が多く集まってるからね。えーと、シュウだよ覚えてる?」
「喋る魔導書だったよな? そいつ」
シュウは苦笑いしながらポースの方を見ている。
「ポカレス様だ! そいつじゃねぇ!」
「そうか? 俺は周成様だ」
また対抗し合っている?
「俺様を超えるって言うなら、そう呼んでやらねえでもねぇ。が、そうは見えねぇぜ?」
「そうかい? 本には負けないと思ってるけどな」
腕を組んで疑いの眼差しを向けている。まあ確かに本の実力は見た目じゃ分かりにくい。
「良いだろう。明日は勝負だ! 逃げるなよ、ひよっこ!」
「そっちこそ、丸焼きにされても文句言うなよ?」
何故かライバル意識が芽生えたのか、シュウの睨んでいる目は意外と本気な気がする。周りは苦笑いだ。
「歌の勝負をするの?」
僕は首を傾げた。




