2 妙旋風
◯ 2 妙扇風
僕達は管理組合の異世界渡航者の手続きを終えて、ウィルジスハーミィー世界に向かっている。勿論ツアーのやり直しだ。僕達の良く分からないチームに名前が付いた。
『妙扇風』。良いのか悪いのか分からない名前だけれど、董佳様が付けたので大丈夫と思う。
「さあ行くわよ〜」
「うん」
今回はアストリューから全員で移動してきたので待ち合わせはしていない。準備は万端だ!
「離れてはダメですよ」
「うん」
リーシャンは緊張気味に僕に向かって言った。自責の念がそうさせるのかもしれない。前回があれだったせいで、皆が気を使ってくれている。でもあれは誰にも予測は出来なかったと思う。紫月やポースで無くてよかったと思ってるし。
僕で良かったなんて思わないけど、回避出来るのかと言われたら次だって無理だ。短気を起こした彼も謝罪文を書いて送ってきていたし、反省していて今では武器を持つのがトラウマになってる程だ。
そんなので警備が出来るのか疑わしいけど、本人は試練だと思ってやってるそうだ。僕には分からない心理だが、本人がやると言っている以上は立ち向かって行って欲しいと思う。たとえ乗り越えられなくてもそれでも何かは掴めると思うから。
いや、乗り越える気がする。そうあって欲しいと願うのは、やっぱり僕の体が犠牲になったのだから何かになって欲しいと思ってしまう欲のせいかもしれない。自分でも現金な考えだとは思うけど、僕なんてそんなもんだ。勝手に期待してしまう程には馬鹿な人間だ。いや、ゴーストだ。
「ポースも紫月も皆、揃ってるね?」
僕も皆が揃っているか確認しておく。
「大丈夫ね〜? はぐれちゃダメよ?」
マリーさんも何時になく慎重だ。
「大丈夫だよ」
紫月もずっと僕の肩の上で、手帳サイズのポースを抱いている。妖精達もリーシャンやマリーさんにくっ付いて飛んでいる。
「あのへんてこな杖がいないなら楽勝だぜ?」
ポースも返事をしている。それは確かに言えている。そういえばあの杖はどうなったんだろう……まあ良いか。
「…………はっ、あ、あれは?」
何かぶれた姿の似た人が見える?
「アキちゃん、目を合わせちゃダメよっ!! 無視よ〜!!」
「紫月、服に入って隠れて」
僕は紫月を上着の中に誘導して隠れさせた。扇子で顔を隠してさりげなく通り過ぎて行く。
「糞杖はまた逃げ出してるのね〜、何やってるのよ! 管理組合は〜」
「こっち見てない?」
「大丈夫よ、通報したから。さ、アキちゃん行くわよ〜」
僕の腕を掴み、マリーさんは小走りで柱の影を通り抜けつつ順番待ちの場所まで通り抜けた。ここまでは柱の影に隠れているから来ないと思う。僕達の順番が来たので無事にウィルジスハーミィー世界にたどり着いた。
「みんな大丈夫ね〜?」
マリーさんは転移装置を通り抜けて一息ついて皆を確かめている。
「うん、大丈夫だよ」
紫月も無事だ。
「妾も異界に来れたぞ?」
斜め後ろから聞き覚えのある声がした。振り向けば二重にぶれたクワントトゥの杖がいた。
「ひゃあっ」
「何で来てるのよ〜!!」
マリーさんは慌てて僕達を自分の体の後ろに隠してくれた。
「修理をして貰うまでは付きまとうからの」
恨みがましい視線をマリーさんに向けている。まだ修理されてないんだ。
「断ったはずよ。星深零でも受け入れてもらえたし、紫月を食べ物だと認識して追い掛けてたのだもの。ダメに決まってるでしょ!」
「それはそなた達のルールでは無いか。妾には関係ない。自由じゃ」
「そのルールを適用するなら、こっちはそうね……ただの杖なんて燃やしてしまうわよ〜?」
僕達は宿に泊まって、ここの世界のチケット類を物色した。ミュージカルとかの舞台もやっているし、手品やダンスパフォーマンスにその他色々だ。残念ながらカジノは無い。また別世界になったらあるらしいけど、ここは純粋に舞台のみだ。
ギャンブルとは切り離されている。僕がやると負けるのは分かってるし、レイが言うにはそういう場所は運気を吸い取る人までいるらしいので、そんな場所に行ったら僕なんてあっという間に貧乏神に変身だとか。それは勘弁して欲しいし、行かないと誓った。
次の日も……杖は寂しく後ろを付いて来ているが、油断は禁物だ。紫月を見る目つきが何か嫌だし、抱っこしている僕の背中に刺さる視線が痛い。
「じゃあ、明日はリハーサルをやって、そのままこのミュージカルを見る?」
予定をたてながら、僕達は昼食を食べていた。
「そうね〜、マジックショーも見てみたい?」
「魔法とどう合わせるの?」
「手先の器用さを見せるものと、ステージでの大掛かりなパフォーマンスよ。そう変わらないわ〜。転移装置とかは使わずに独自でやったりするの〜。魔術とかだと鏡の中に入って行けちゃったり、どうやってるのか分からない魔術の仕掛が一杯出てくるわよ〜」
観客席の隣の人がいきなり舞台の上にいたり、会場からのヤジがいきなり動物の声に聞こえたりとか、役者と組んで演出工夫がされてストーリーのように楽しませてくれたり色々あるみたいだ。
「魔術の勉強になりそうだね」
「俺達も色々な要素を組み合わせてみるか。確かそんなのがあっただろ?」
「そう言えばあったね、アーティスト同士で組んでやる舞台が。確か何処かで募集している所があったよ」
「あら、そんなの何時見つけたの〜?」
「ここの世界の情報ページに載ってたんだ。そんな特集が組まれてて、それでポースとたまにはこういうのもやってみたいねって言ってたんだよ」
アーティスト同士の出会いのサポートがされているのだ。メンバー募集から僕達みたいに一時的なセッションとかを望んでる人には出会いを提供しているサービスがあるのだ。
「じゃあ、ステージ後はそこに行ってみましょ〜」
マリーさんも興味を持ったみたいで微笑んでいる。




