神僕の悩み 2
◯ 1
夢縁学園から入学案内が届いた。アキにメールでそれを伝えたら、見学は出来るから行ってくると良いと言われた。
「付いて来てくれないのか?」
向こうから連絡が来たので通話を受信し、文句をつけた。今日は何やら細かい物を磨いている。あれは指輪か?
「案内はプロにしてもらった方が分かり易いよ。僕が通い始めた時とちょっと変わったから、案内は良く分からないんだ。シュウ達の方で正門の総合案内に見学をメールで申請してもらった方が良いよ。紹介はしてあるからスムーズに進むはずだよ」
仕様が変わったのなら仕方ない。聞けばクラスの編成まで変わったという。
「成る程。そういう理由なら仕方ない」
「それから、留学生というのは言わない様にしてくれる? 一応は契約で厳守することになっているし、それも了承してくれないと通えないから」
唇に人差し指を当てている。向こうの学生に紛れろという事らしい。
「分かった」
「あ、それから、アストリュー世界の留学は認められてないから申し込みはダメだよ? それから……あー旅行は申請しても良いけど、僕の方にも連絡を入れてもらった方が良いかな。色々と違う注意事項が加算されるから。もっとも、上位クラスに入れないとあそこからの旅行は無理だけど……」
色々と説明不足だろうが!! 旅行に行けるなら好きにしても良いだろうに。出し惜しみしないで良いんだぞ。磨き終えた指輪に魔石を付け出した。あれは癒しの指輪か? 宝箱の中身がどうとか言ってたな。まさかアキの手作りか?
「なんだよ、もったいぶるな。何か、ムカつく」
「あー、旅行は行きたいなら僕からの方が簡単に渡れるよ。あそこならだけど。無理に上位クラスを取る必要は無いってことだよ」
「ああ、渡航許可の問題とか前に色々言ってたあれか?」
異世界を渡るのに手続きがいるとか何とか言ってたのを思い出した。それを取らないと不法侵入で捕まるからとか言ってたはずだ。それにも金が掛かると言っていたな、やばい……借金じゃないよな。プレッシャーだ。
「うん。異世界から異世界に渡るのはちょっとね。一旦、こっちの方に戻ってもらわないと、身柄の保証とかが通らないし、ややこしいから」
難しそうな話をしているから眉間に皺が寄っている気がするが、渋そうな顔だ。
「わ、分かった。か、金は何処から出るんだ?」
「えーと、天上世界の予算からだよ。日本神界警察にも協力をお願いしたから割安だよ。当分は僕のお金から学食とかは支払うから限度は考えてくれると助かるよ」
「げっ、まじか?!」
自分の立ち位置を知ると血の気が引く。新しい金属を指輪の形から出して磨き始めたのを見て、あれで稼いだ金を俺達が使うのかと思うと申し訳なくて泣けてきた。
「神樹は人の使うお金には興味ないから、こういう話はピンと来ないみたいなんだ。多少は必要だって分かってるけど、細かい所は僕達がやらないとね……説明があると思うけど、長時間の滞在は食べた方が良いからちゃんと食べるんだよ?」
何となく、分かった。借金は神樹には荷が重いってことか。世界の気を動かすのは出来ても金の計算は苦手なのかもしれない。天上世界の神々の中に商売神に知神がいたのを思い出した。そっちに期待するしか無い。
「そ、そうか。恩に着る」
やばい。完全にお荷物だ。胃が痛いかもしれない。
「基礎クラスは半年後に進級テストがあるからそれを受けて受かったら、神界の外のみかんの町でのアルバイトが出来るから。えーと、その時にその説明はするけど、外のお金を稼げる場所だからね。それを取り敢えずは目指してよ。あ、夢縁のアルバイトも解禁だけど、そっちは受けれないから覚えといて?」
「……分かった」
アキの言う注意事項は脳内にメモはしておいた。そして、暫く後に月夜神の事は外では名前すら出さない事を誓って契約をした。なんだ? 何があったんだ。アキ、やばい事してないよな?
◯ 2
夢縁学園に見学に行った。画面の夢縁というのを選択したら、睡眠状態に入ります、準備出来次第「出発する」を選んで下さいと出た。それで慌ててベッドに入って全員で眠った。気が付いたら何故か日本の服装で夢縁学園正門に着いていた。帰りは「夢から覚める」を選ぶらしい。服装も自分で選べるみたいだ。
何となく日本的で懐かしい。学園は広くて学園都市と言った感じだ。店屋が多くて本当に普通の街並だ。が、なんだ? 何かが違う。桁が違うとは言わないが、日本で暮らしていた時と比べて値段がおかしい。高いし、学食ですら一介の学生が出せる値段じゃない。いや、明らかに桁が違う物もある。
案内譲の後ろを無言で進んで行くが、俺達のテンションは下がりっぱなしだ。
「あの、何でこんな値段なんでしょうか?」
毬雅が代表して、というかたまりかねて聞いた。
「え? ああ、人界との差ですか? ここに入るのが初めてなら驚くのは当たり前ですね。でも、ここに持ち込まれた物が外にも持ち出せるという技術は、誇るべきことです。夢界を制御出来る世界は少ないですから。それでも、レイカ様のご意向で、値段は押さえられています。人界のお金が通用する事も感謝すべきですし、手の届かないお値段にはなっていないはずですよ?」
「はあ、すごいですね」
にこやかに説明をされてはそれ以上は追及出来なかった。その上、神界のお金は違うと言う事も分かった。俺達の認識は甘過ぎたという事だ。ここでの行動はひたすら知識の吸収に当てるしかないという事だ。坂本も永井もやばいという顔をしている。
そしてここの物は、俺達は持ち出しは禁止だったはずだ。地球世界の物は、ガリェンツリー地上世界には持ち込めないからだ。確かアキが持ち出し禁止の物は、界を跨ぐ時に没収になり、夢縁警察に落とし物として献上されるからダメだと言っていた。
つまり、図書館での本も借りれないのだ。ここでの勉強になる。が、生態端末には取り込めるからそれを活用するしか無い。
「この後は少しだけ上級生のクラスを覗きます。が、邪魔をしない様に静かにお願いしますね?」
「「「「はい」」」」
広い目の体育館の様なスポーツ施設に連れて行かれた。
俺達は、驚きを隠せなかった。魔法も無いのに目にも止まらない早さで動いている。闘気を飛ばしていると説明されたが、魔力弾を飛ばした様な威力の気弾を見れば、唖然とするしか無かった。しかも、トシがいる。成長した姿を見て、ちょっとホロリと来た。
「すげえな」
坂本が嬉しそうに練習を目で追っている。
「ああ。あれをマスターしろってことか?」
かくいう俺もこれには期待してしまう。小難しい話は嫌いだが、これなら問題は無い。
「そうみたいね」
毬雅は俺達の顔を見て苦笑している。
「何かやる気が出た」
永井が握りこぶしを片手にやる気を見せている。
「あら、元気が出てよかったわ」
案内譲がニッコリ微笑んでいる。
「でも、座学をさぼってはあそこまでは出来ないので、しっかり勉強をして下さいね?」
「はい。忠告ありがとうございます。このクラスでどのくらいなんですか?」
「このクラスは星二つです。星を五つ集めると、その上の上級クラスの試験を受ける権利が与えられます。上級もグラスグリーンのクラスはこの夢縁での就職が可能になります。特殊技能クラスであるスカイブルーのクラスは神界への切符が手に入ると言われていますが、コネがあればと言った所でしょうか」
少し考えながら、返答してくれた内容に頷き、俺達にはメリットが無い事を確認した。それで星五つか。
「そのクラスの人は多いのですか?」
「人数はお答え出来ませんが、半数の人は星三つからが伸び悩んでそこでお止めになるので……」
残念そうな案内譲の表情には頑張って欲しいと書いてある。
「そうなんだ。難しいんですね」
「まあ、最初からは気を張らないで楽しむ事をお勧めします。サークルやクラブ活動等の仲間集めはとくにここでは推奨しているので、そっちに重点を置いている方も多いです。夢界は社交の場としてあるとレイカ様も仰っておりますから」
レイカ様のお言葉という所に、力が籠ったので察した。ここでの信仰はそのレイカ様とやらに向けているのだと……。まあ、異界の神にはこれからお世話になるのだ、少しは礼儀として感謝をしないとな。その日の見学はそれで終った。借りの入園証の腕輪を返して夢縁を後にした。
大体の施設は案内されたので何となく学園の規模が分かった。半年の間はただで基礎クラスを受けれるのは良かった。ただ、入学の資金は天上世界からの予算からだから気を引き締めないとならない。
「取り敢えず、無駄にしない様に頑張るか」
「ああ。かなり仕様が違うってことは分かった。ここの事を少しでも分かる様に頑張ろう。アキが言うには基礎を出れば、あそこで扱える通貨を手に入れれるんだ。頑張ろうぜ」
「みかんの町とかで働けるんだったね」
「目標はそれだな」
「最低、基礎だけでも良いって言ってたから、気負いすぎない方が良いかもな」
「学費も自分達で稼げれば良いけど……」
「何とかなるって」
「そうだな」
取り敢えずは楽観的に捉える事にした。トシが星二つ取れているんだ。そこまでは問題は無いだろう。
◯ 3
今日はヴォレシタンさんとの対談だ。だが、待ち合わせの教会の近くで、ライトエルフやダークエルフ達に執拗に容姿を聞き出されていた。知神のお姿を知っているのが彼だけなので、教会のレリーフやら彫刻に使う為に必要だからと、せがまれていた。
彼らの土地にはまだ月夜神の神域が残っているのだ。ライトエルフの里に鉱山の町のアンデッドが住んでいる地区、そしてドワーフの里だ。
回収をしようかとアキが言ったら、残して欲しいと全員が懇願していた。自然と消滅するはずだからそれまでだけど、許可が出たと恥ずかしそうに言っていたのを思い出す。
俺達からしたら頼りない神でも、あそこの人々には親しみ易い神の一人だ。あれでも。
時々あの魔導書と一緒にライブをやっているが、あれも癒しの力をフィールド全体に届けているという。確かに何か大きな力を感じる。だが、癒しの力なのかどうかまでは俺にはまだ分からない。神域の癒しの力のようにはっきりとは分からない。だが、グラメールさんなんかは感じ取れると言っていた。
「知神は、美しく光を跳ね返す銀色の目が印象の美丈夫だった」
目が泳いでいるが、受け答えはやっている。
「それは何度も聞いた。顔の造作を聞いている」
「あー、ごつごつした感じは無かったぞ、顎は細かった様に思うし、鼻は……筋が通っていた」
これは……難しいな。特徴を捉えるのは難しい。似顔絵師とかどうやって書いてるんだろう? あの技術は必要だよな。
「似た人を言えばいいと思うけど?」
取り敢えず、ヴォレシタンさんの、なんとかしてくれの視線に負けて助け舟を出してみた。
「似た人とは、それは無謀だぞ。神々を軽々しく我らと比べる等と……畏れ多いぞ」
キポロームさんが、首を横に振っている。
「いや、しかし、人型を取るのはそれなりに……」
「神樹様は耳が尖っていた様に思うが……神精霊であらせられたと聞いている」
「月夜神も精霊と言ってたけど、あいつは……いや、耳は人と同じだよな?」
どちらも少し向こう側が透けて見えるのが共通だ。
「精霊は姿に関しては様々だ。動物の姿の者もいるからな。透明でもないし……」
「そうなんですか? ペソラシータさん」
「その昔に会ったのは鳥の姿をしておられた。人型を取った時も背には翼を付けて、蒼玉の様に美しく光る羽だった……」
話がそれ出した。ヴォレシタンさんが咳払いをして、口を開いた。
「非常に整ったお姿だ。背は私よりは少々高く、細身だがひょろりとした印象は無かった様に思う。……月夜神様にお姿を見せてもらえる様に、お話をしてもらえると良いのだが」
説明は既に諦めたみたいで、ヴォレシタンさんの目は助けを求めて来ていた。
「確かに百聞は一見にしかずだよな。ダメ元で頼んでみるか」
その場で、次のライブで知神の姿を披露してもらえるかを、理由も書いて送って聞いてみた。返事に姿の写真が送られてきた。一回限りの映像だと書いてある。月夜神と並んでいる姿なので身長差も分かる。
「あー、証明書みたいにカードに姿を出せるんですけど、一回限りなので、今、大丈夫ですか?」
説明をしたら、全員が慌て始めた。
「待て、マルセット、絵姿を!! 彫刻師はしっかりと見ておくのだ!」
キポロームさんが真剣な顔で叫んだ。
「ピリンジーン! しっかりと見ておくのだ!! ライトエルフには負けるでないぞ!!」
続けてペソラシータさんが同じ様に対抗した。いつも通りの展開だ。
「では……」
俺はカードの具現化をした。
「「「おおっ!」」」
「これは……知性あふれるお姿!」
「モデルみたいな顔だ」
俺の感想はそんな感じだ。特徴を言いにくい。綺麗だけど、整い過ぎというか、すました顔が機械の様な冷たさを感じる。中性的なその姿に、男神で良いのかと顔を見合わせて確かめている。見ように寄っては確かに女性とも取れる。が、男だろうと思うぞ?
「一応は確かめるか」
アキに性別を聞こうとして、月夜神は女で通しているのを思い出した。見たままで良いのだと気が付いた。その辺りの区別は曖昧にしている気がしたのだ。
闘神は明らかに男だが、スカートをはいていたし、フリルの付いたシャツ……ブラウスというのを着ていた。光神は子供の姿だったが、あれも良く分からない。恰好は少年の様にも見えたが、顔はどう見ても女の子みたいに可愛かったし、将来は美人に間違いないって感じだった。二度目だったけど、オーラもすごくて圧倒的な神々しさだ。
神樹はいつも思うが美人のお姉様って感じだ。スタイルも抜群で神々しさは光神と変わらない。
後はまあ、普通の容姿だった様に思う。特徴と言えば、商神は眼鏡を掛けていたはずだ。彼の方が知神と言った容貌をしている気がする。何故か親近感を感じるが日本人的な顔だからだろうか?
技術神は……酒好きなのは確かだ。美人なのだが女性という感じがしない。マッドサイエンティストな雰囲気を感じた。白衣のせいかもしれないが……。近寄ってはならないと俺の勘は告げている。
結局俺は、魔力がつきる前までカードを出していた。ヴォレシタンさんに対談は明日にと告げた。
◯ 4
各世界樹の教会の周りの整備が随分整って、世界樹のある森の外れに立っていた教会の周りには、集落が出来ている。村といった感じだが、場所に寄っては町が出来ていた。
俺達の拠点である第六フィールドも洞窟のダンジョンの町と隣り合わせの村になっている。元奴隷達の築いた村だ。町の住民の中にはまだ差別的な人もいる。色んな考えを持っていて当たり前だ。追及しても仕方ない。
だが、理解はしてもらって多少なりとも受け入れをして貰わないと元奴隷達の身の危険も考えられる。ヴォレシタンさんと話し合うのはそんな事が多い。
そして、俺達も聖騎士としての服装と装備を手に入れた。神界から支給されたので、そのお披露目というか、それにかこつけた正式な恰好での騎士の集まりをやる予定だ。改めて聖騎士団の結成と団結を祝って集会をやると言っていた。
まあ、士気を高める為なのだし、協力はするが、余りやりすぎない様にして欲しい。……こういう畏まった席は胃が痛くなるからな。
聖騎士の軽鎧
(神僕専用にあつらえられた克実ブランド制鎧)
効果:疲労回復 魔力増大 衝撃吸収 魔法防護
持ち主登録 シュウ
聖騎士のマント
(神樹の加護)
効果:風の保護結界 緑の癒し(魔法薬の効果アップ)
マント付属の飾り留めにてサイズ調整、魔力修復可
持ち主登録 シュウ
聖騎士のグローブ
(闘神の加護)
効果:魔力盾 魔力吸収 自動修復
持ち主登録 シュウ
聖騎士のブーツ
(闘神、月夜神の加護)
効果:速度アップ 空歩 風刃蹴り 疲労軽減 湿温調節 消臭 防水耐火
持ち主登録 シュウ
聖騎士のイヤーカフス
(月夜神の加護)
効果:怪我の自動治癒 集音 呪い防護
持ち主登録 シュウ
聖騎士の剣
(獣守族の創作剣)
効果:雷撃 重量操作 形状記憶
持ち主登録 シュウ
聖騎士としての装備は全部登録制だった。こんな装備、敵に渡っても良くない。どれもあり得ないくらい頑丈だ。
まだサークレットとかもあるが、恥ずかしいからなんとかして欲しい。しかし、性能は何処にも無い一品物だ。夜目やら遠目、速度補正まで付いている。敵を見失いにくいのは助かる。どうも、脳内の情報処理が早くなるみたいな事が書いてあったが、技術神の手が入っているならそんなものなのかもしれない。
「ちょっと派手だよね」
毬雅が恥ずかしそうに装備を見ている。
「そうだよな……。でもまあ、成金って程の嫌みな感じはないからマシだ」
「確かにな」
永井も複雑そうな顔だ。ヴォレシタンさんが身に着けると決まっているが、俺達だと今一だ。鮮やかな緑のマントに白銀色の鎧、金色の飾り縁が華やかで光を受けるときらりと光を返す。装備の醸し出している気品に負けている。
中に着る下着は汗を吸い衝撃を吸収し、温度調節に湿度調節までしてくれる物で、それも少し濃い緑だ。白のバージョンもあるが……俺は黒が良かった。どれもサイズの調整が効くから長く愛用出来そうだ。
「俺はこっちの普段服が嬉しい」
坂本は普段服が嬉しかったらしい。
「私も」
「変装用の魔術服とか面白いよな?」
「息抜きが出来るのは良いよね」
聖騎士の服も送ってくれているが、それもまあ、派手だ。
が、普段の服も送ってきたのはアキにしては気が効いている。それも普通の服に見える様に偽装済みだが、軽鎧と変わらないくらいの頑丈さで、暑さ寒さも関係ないくらいの快適さだ。鑑定しても普通の服だが、説明されて試したらやっと分かった良い物だ。
その中に一つ、魔術服が入っていた。魔法布の特徴を活かした服だという。小さなブローチの様な装置のついたスカーフだが、装置を手にすると、生態端末にいくつか服装が現れて選べばその通りの服に変わる。着たまま着替えが完了するのは面白いし、洗浄も済ませれる。体もある程度、綺麗にしてくれるので、かなり良い物だ。外での活動に向けて慣れておいて欲しいと書かれている。
永井も興味を示している変装用の認識障害付きのバージョンが一つ用意されているのは、俺達の活動が上手くいく様にって事だろう……。これは使える。
何とか騎士達の集まりで、スピーチもこなして無事にお披露目もすんだ。
新しく聖騎士へとなった者達へのマントの配布もそこで行われたのも良かった。ちょっと儀式的な感じで、剣を抜いて掲げた姿で誓いの言葉を言い、その後に神僕がマントを着ける。仲間としての活躍を込めて言葉を掛ければ終了だ。
似た様な感じで、神官の儀式もやっていた。神官の正装も派手だ。似た様な色彩だし、長衣が動きにくそうな気がする。簡易の物はそうでもないが……。天上世界からは布の状態で支給されてたから、デザインは彼らの好みだ。神樹の姿を参考にしたらしいが、似合っていない気がするのは俺の気のせいじゃ無いと思う。
月夜神の姿を参考にしているのは第五フィールドの神官連中だ。黒を基調に様々な恰好をしている。共通は動くと流れる様な袖と帯だ。あそこには今度、巫女服を教えておくのも良いかも知れない。
◯ 5
制服の配布と、説明会があると言うので夢縁学園へ出かけた。借りの学生証ではなく専用の腕輪を受け取った。既に銀行登録がすんでいると説明された。
説明会は直ぐに終って、休憩の時間には学生服を着てみた。ブルーグレーの地味な印象のブレザーだ。去年の人気投票で決まったというデザインだそうだ。合わせ易いとの意見が多くよせられたとか。何の事だか分からないが、確かに普通服とは合わせ易い。
全員で学食で食事を試していたら、スカイブルーの制服を見つけた。グラスグリーンの制服は見学の時も何人か見かけたが、あの色は初めて見る。
白いスカートを合わせて、白いふわりとしたリボンを首元に結んでいる。何処のお嬢様かと思ってみていたら、何故か近寄ってくる。良く顔を見たらアキだった。周りからも大注目されている。
「驚いた」
「そう?」
首を傾ける仕草は女の子だ。おかしい。俺の目がおかしくなったのか? いや、それよりも。
「特殊技能クラスだろ?」
「そうだね。眠りの術のお陰で」
制服の事を聞けば、首元に手を当てて照れているが、まんざらでもないようだ。体が透けていないので擬態しているのか。しかし、人間離れしたその髪と肌の艶と煌めきはなんとかした方が良いぞ?
それにまた長さが伸びてないか? 顔回りは短いが、後ろ髪が背中を超えて腰ぐらいまである。日本で短かった頃は……病弱な感じだった。それが無くなったせいか? 前の顔色の悪い感じよりは良いかと、無理矢理思う事にした。
「今日の説明会は人が多かった?」
アキからの質問は今月の入学の人数だ。三月入学の人数を聞かれた。
「さあ? 俺達の他には十人ちょっとって感じだったけど」
「じゃあ、増えてるね。僕の時は七人だったし」
「それよりも、ここの学食が一番助かるな。値段がマシだ」
「南門の近くはそんなに高い店は無いよ。北門と西門の方はセレブなところが多いから近寄らない方が良いかも。図書館の近くは美味しい物が揃ってるけど、割高かな。持ち出しが出来ない物は、この近くに専用のロッカーがあるから、授業で使う呪符とかそこに入れておけば良いよ」
そんな情報を少し聞いて、授業で使う施設と授業案内を聞く時間になったので移動し始めた。解散の時間になったら連絡を入れる約束をしたので、後でもう一度会う。
「鮎川君、華奢だよね」
「あいつ、生まれる性別を間違ってるぞ?」
「清楚でお淑やかな理想的なお嬢様に見えた。おかしい。俺の目が……呪いに掛かってないか?」
きっと、月夜神の呪いに掛かっている! 俺達の意見は揃った。
授業の説明は聞いたが、ちゃんと記憶に残っているか怪しい。久しぶりの日本の雰囲気に浮かれているのだ。
約束の中央の噴水広場に到着した。アキの姿を発見した。スカイブルーの制服は一目で分かる。誰かと一緒だ。
「えーと、じゃあ、図書館の談話室に移動しようか」
この広場からは図書館が見える。第一、第二とあって、第二図書館が俺達には解放されている。上級にならないと、第一図書館は立ち入り出来ない。見学の際に教えられた情報だ。それを指さしてアキが提案してきた。お互いの紹介はそこですると言って先に移動した。
紹介しなくても知っている人物は二人いる。元クラスメイトの顔は何となく覚えている。名前が出てこないが……。もう一人はアキと似た顔だから妹だろう。二、三回会ったから覚えている。もう二人は知らないが、グラスグリーンの制服を着ているので、上位クラスのエリートだって分かる。四人ともが仲が良さそうだ。
「えーと、こちらは成田さん、隣が沖野さんで、僕の妹の玖美、それから御門さんだよ」
アキの紹介にあわせて口々によろしくと言っている。こっちも、適当に返しておく。
「それで、この四人は日本神界警察に、内定しているんだ。だから、ここでの活動の面倒をみてもらうと良いよ。この四人には留学生とは言ってあるから」
「日本に住んでたって聞いてるよ〜。まあ、夢縁には初めてで、気の操作は初心者じゃないって聞いてるから、心配してないけど、分からない事があったら私達にばっちり聞いてね〜?」
沖野という先輩が、軽い感じで言ってくれたので少し、緊張が解けた。
「お兄ちゃんが面倒を見るよりは良いよね。私達に何でも聞いて下さい!」
しっかりしてそうな妹だ。並ぶと良く似ているのが分かる。妹の方が若干きつい眼差しだが、それが猫っぽくて可愛い。
「助かるよ」
「実は、僕はしばらく夢縁には通えないんだ。修行をするから連絡が出来ないし。だから、変わりに頼りになる先輩を紹介しとこうと思って」
「え、そうなのか?」
「ゴメン、急に決まっちゃって。色々と不備が出たら困るから、外ではこっちのアドレスに連絡してくれるといいよ」
チャーリーという名前が書かれているアドレスが、生態端末に送られてきた。
「ああ。まあ、アキよりは頼りがいありそうだ」
神界にいる人物なら色々と聞けるはずだ。それにここのメンバーの顔ぶれを見れば、しっかりしてそうだ。
「という訳で、よろしくな。歓迎会をこのまま開催するけど、良いかな?」
成田という先輩が、買物袋を上げて笑っている。見ればテーブルにはジュースやらお菓子が並び始めている。
「こっちでのサポートは私達がやるので、何でも聞いて下さいね」
御門さんが微笑んでいる。俺達の事はやっぱり忘れているようだ。複雑な気分で頷いた。
「じゃあ、俺達も自己紹介をしておくよ。と言っても、名前くらいしか言えないけど」
「神界警察のもう一つの出先からって言うのは本当か?」
「あれ、聞いたんだ?」
成田先輩の質問にアキは驚いた顔をしている。
「華夜さんが言ってたよ」
沖野先輩が知らない名を挙げた。
「伊東さんが? 確かにその内に行く事があるかもだし、今日の顔合わせは少し早まったと思っていいかも」
首を傾げながらアキはそんな説明をした。
「わお。どういう感じか分からないけど、楽しみ!!」
「取り敢えずは星五つを目指してるから、お願いするよ」
アキは俺達の事を説明してくれているが、今一伝わってない気がする。だが、色々と喋れない事があるせいだ。仕方ない。
「グラスグリーンに上がるのも良いよ? 異世界旅行も出来るし。あ、それは無理なのかな?」
沖野先輩は旅行の事を進め始めたが、出来るのか分からなかったみたいでアキに聞いている。
「申請したふりで、別から渡る事になるかな」
「別ルートか」
成田先輩が興味ありそうな顔で聞いている。
「そうだね。管轄が違うから手続きが複雑になるし割高になるから。でも、それには二年は先だと思うよ?」
「まあ、こっちの学園生活を楽しむ所からだな。ようこそ! 夢縁へ」
成田先輩が乾杯の要領で全員に行き渡ったジュースを上げて、音頭をとった。
「「「「ようこそ!」」」
他のメンバーもそれに習ってジュースを掲げた。俺達も同じ様にして、乾杯をした。
「「「「お世話になります」」」」
久々に食べた日本のジャンクフードは最高だった。ハンバーガーにポテト、駄菓子が舌に懐かしさを伝えてくる。これがみかんの町に行けるまでは持ち出せないのは辛い。
今日の顔合わせのお陰で、こっちでの憂いは減った。彼らの先輩は最近、夢縁警察に入って活動をしているらしい。研修中だとか言っている。その内に紹介もしてもらえるので知り合いが増える。
「ここを卒業しても、シュウ達は一般人で入る事が出来るから、いつでもみんなと会えるよ。ここでの交流は大事にね?」
アキの言葉にこの場限りでないと知り、ホッとしている自分がいた。昔はそんな事も分かってなかった。縁を繋いだ人との別れは寂しいからな。世界が違ってもここで会えるなら充分だ。
……図書館に、昔見ていた吸血鬼のドラマの続きが置いてあるのを見つけた時は、視聴室に閉じこもりたくなった。本物を知っている今はどう見てもラブコメだが、充分楽しめる。毬雅には呆れられたが、見たい物は見たい。仕方ないだろう。サブカルチャーが俺を呼んでいるのだっ!!
この後、本当にアキと連絡が取れなくなった。アドレスまで消えた。どういう事だ? その謎は誰に聞いても解決しなかった。心配だから、少しは連絡を入れて欲しい。
というか、チャーリーというアドレスに何度連絡をしても、的外れなメールしか返ってこない。しかも、夢縁のお金は彼女が払っているというじゃないか。アキの夢縁銀行の口座は閉鎖されたとかそんな情報しか寄越さない。
借金で首が回らないとか、夜逃げしたとかじゃないと聞きたい。頼むから、安心させてくれ!!




