1 地元
へんかくのよあけ
◯ 1 地元
今日は夢縁でのお茶会が久々に行われている。
「六月に入った途端にジメジメし出したわね」
董佳様はここの所は暇らしく、良いことだと嬉しそうにしている。おかげでお茶会も開けているし、警察が暇なのは良いことだと僕も思う。
「ちょっと暑くなるとこうだものね……」
怜佳さんは意外と忙しくしていたけれど、落ち着いたのか久々のお茶会に嬉しそうだ。
「確かにそうかも」
ジトッとした空気は何とも言いがたい。でも、これが日本だという気になるから不思議だ。
「アストリューはそれは無いわね。避暑にはもってこいだわ」
春の爽やかさが保たれるし、雨期もジメジメしない。霊力の賜物だ。
「あら、良いわね。この湿気だけでも何とかなれば良いのだけど、こればっかりは仕方ないわ」
「日本での暑さと寒さを考えたらアストリューは年中過ごし易い場所ですね。来月は温泉街も夏祭りもあるから、それに向けてマリーさんが衣装を改造してました」
「あら、そんなものがあるのね?」
「はい地元の集まりでの物なのでこじんまりしてますけど、最後の日は花火とかも上がって良いですよ」
「あら、そういう小さな地元の物が良いのよ」
怜佳さんはそう言って微笑みながらお茶を飲んだ。
「日本みたいに神輿とかは無いんですけど、地元の広場でイベントが毎日開催されるので面白いです。子供達の魔法大会とか、学生の演劇とか、仮装パレードもやるし。肝試し大会もあります」
「あら、肝試しと言ってもそっちは幽霊とは違うんでしょ?」
シシリーさんにおかわりを入れてもらいながら、董佳様は首を傾げた。
「あ、はい。闇の生き物とか魔物とかですね。伝説的な感じで捉えられているので……」
「そうなるわね。あそこは光と水の世界ですもの、関わりがないものにはどうしてもそうなってしまうわ」
「そうですね。所変われば……ですね」
「こっちもそんな感じよね。未知の物には拒絶したくなるわ。ゾンビとかはここの環境では臭いそうよね……」
「怜佳お姉様、それは想像してはダメな物よ。今直ぐ忘れた方が良いわ」
董佳様がもっともな意見を提供してくれた。僕ももう少しでその想像をしてしまう所だった。危ない……。
「そうね、お茶菓子がまずくなってはいけないわね」
やまももの温泉饅頭を食べながら、確かにと思う。話題を変えよう。
「そういえば、今年の学生の演劇は悪魔退治で活躍したダラシィーの役をやるのに、随分揉めて猫族の中でくじ引きが行われたらしいですよ」
熾烈な争いがあったらしい。
「実力や話し合いでは決着しなかったの?」
「みたいですね。実際に見たという人は少ないですし、イーサさんもダラシィーも名前が出てる訳じゃなくて、猫族と神殿の守り神が一緒に戦ったとしか伝わってないはずなんです」
役は激しい戦いの末、くじ引きに落ち着いたみたいだ。
「あら、そんなの意外と本人以外は正確に分かってたりするのよ? 確かに多少は尾ひれは付くでしょうけど、神殿で働いている者が黙ってるはず無いもの」
「……成る程。その演劇を見ればどう伝わっているのか分かりますね」
ダラシィーの活躍はチェックしておきべきだと改めて思った。
「楽しみが増えたわね」
「はい」
怜佳さんは猫族の子に期待していそうな気がする。ポースと紫月もイベントの中日に呼ばれているので子供達に負けない様にリハーサルをしっかりやっておこう。