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世界を繋ぐお仕事 〜縁切り結び編〜  作者: na-ho
たのしいきゃんぷ
19/203

17 概要

 ◯ 17 概要


 異世界間管理組合の新人用の戦闘短期訓練の概要を読んで、僕にはハードルが高すぎたと後悔した。どうやら最後はサバイバルしながら移動するとか訳の分からない訓練が入っていた。

 そんな事が出来るだろうか? というか何処をサバイバルするんだろうか? 無人島からの脱出とかは止めて欲しいと思う。あれは裏技(夢での連絡)があったから無事だっただけで、そうじゃなかったら無理だったし。 

 ああでも、今ならスフォラと一緒に空を飛んで帰って来れるかもしれない。あの時よりは成長したかな? 今度、妖精達に会いに行こうかな。あそこの妖精達にはお世話になったし、お礼にはちゃんと行かないと。


「サバイバル移動って前半だけで三日もかけるの?」


 一人一人コースが違っているみたいなことが書いてある。スフォラと戦闘訓練していたマリーさんに聞いてみた。


「早い人でそのくらい掛かると思うの〜。実際は四日から五日、トラブルがあれば六日ね。緊急時の連絡はちゃんと取れて救難信号も出せるし、リタイアなら転移術の入った簡易転移装置で帰って来れるわ〜」


 そう言ってマリーさんは新しい転移装置を見せてくれた。時計か腕輪の形にまで小さくなった簡易の転移装置だ。自力で少しは飛べる人には指輪型や、イヤリング型でも大丈夫だ。

 でも、今回は訓練の仕様で全員が腕輪型になっていて、転移場所は救護班も待機している訓練の為のベースキャンプに固定されている。

 訓練生の位置表示やら健康状態に精神状態が分かるようになっていて、随分安全性が配慮されている。

 このサバイバルは二回もやる。『スフォラー』ありと無しでの感想を書いてもらう為だ。まあ正確には行きと帰りの往復で変わるだけだけど。


「アキちゃんなら大丈夫よ〜。砂漠でも無人島でも、森の中での盗賊との追いかけっこも大丈夫だったじゃないの〜」


「それはスフォラがいたから大丈夫だったけど、一人だと心配だよ」


「そんなの大丈夫よ〜。自分の力を出し切ったらアキちゃんなら一番でたどり着けるわよ。マントだって使えるんだし、探し物も得意だし、世界に繋がれるんだもの怖いもの無しじゃないの〜」


 マリーさんだってマント以外は出来るし、自慢にはならないと思う。


「それは……やってもいいの?」


 訓練にならなくないかな?


「自身の力をフルに使っていいって書いてるから良いのよ〜」


 マリーさんは微笑んでいた。なんだか安心した。


「そっか。じゃあ、頑張ってみるよ」


 その日からキャンプに向けて体力作りをやった。……幽霊の体力って何だろう? 良く分からないぞ? まあ良いか。二度目の肉体はまだ完成してないから瞑想とかもやりつつ、気の流れを整えたりと基礎を思い出しながら自分なりに頑張った。……仕事があるから一日おきにやったけど、そんなもんだよね?


 訓練の集合場所に向かう為に異世界へ渡る為の審査手続きを済ませ、ブレンダナード世界に向かった。今回はビギー達のいた寒冷地ではなく、温暖な地域に着いた。訓練用のお揃いの服を渡され、それに着替えるように指示された。ここにいる間は持ち物から全て管理される。その為の契約もここに来るまでに済ませている。


「あ、ヴァリー、来てたんだね」


 転移装置でもあり、訓練生の管理用の腕輪でもある装置を腕に巻き付けて調節しているヴァリーを見つけた。今回の訓練は身一つでの参加なので、自分の魔結晶も使えないので外している。


「お、来たんだなアキ」


 ヴァリーが顔を上げて微笑んだ。心無しか周りからの視線が痛い。特に女性からの視線が突き刺さるみたいだけど、気にしないでおこう。


「今日はここのキャンプの施設と場所の確認だね」


「ああ。説明があるからな。時間までにそれを着た方が良い。貴重品は全部預けたか?」


 ヴァリーは既に着替えていた。


「うん。『スフォラー』も預けたよ」


 スフォラは上位機種になるから、今回は違うモニター用のものを僕も使うことになっている。ちょっと不安だ。予定では約二十日間程のスケジュールだけど、希望者には半分の期間での訓練に出来る。ブレンダナード世界から出る時に、自分の世界の良い時間に繋がるように調節してもらえる。

 仕事に二十日も開けると、ちょっと不味いからちゃんと配慮されている。自分で時間調節出来る人はその限りではないけど、こういうサービスは新人には余り無いので嬉しいはずだ。

 というかこんな大掛かりなモニター募集だなんて聞いてなかったよ。


「ホングは今、着替えに行ってる。早くした方が良いぞ?」


「分かったよ」


 僕は更衣室に向かった。男性用の場所を開けて進むと何故か真っ裸で喧嘩をしている三人対二人がいた。こんなところで何をやってるんだか……。

 取り敢えず一旦そのまま外に出て喧嘩が落ち着く程待った。音がやんだのでもう一度更衣室を覗いてみたら、真っ裸の三人が呻きながら床に転がっていた。僕はその場所を避けて進んで、空いているロッカーを探した。


「やあ。ホング」


 ロッカーの間から出てきたホングを見つけたので声を掛けた。


「アキ、参ったよ。いきなり喧嘩を始めて下手に外に出れなかったからさ」


 全員が喧嘩の成り行きを見守っていたみたいだ。双方が真っ裸でやってるから巻き込まれるのは嫌だよ。


「僕も外で待ってたよ。何があったの?」


 着替えをしながら聞いてみた。


「さあ? 元気が有り余ってたんだろ?」


「理由は余り意味がなさそうだね、暇潰しみたいな感じかな?」


「それに近いね。集まってる連中の実力を確かめたんだろ」


 ホングは苦笑いしている。


「成る程」


 戦闘訓練なら肉体派が揃っているのは分かる。


「適当に突っかかって見ただけだな……訓練が始まればすぐに分かるのに、気の短い奴らだ」


 ホングは溜息をついていた。三人組はその実験台だったのか……。しかし、何故に裸? 周りから聞こえる究極のサバイバルのつもりって何だ?


「それは床に転がってる方?」


「いや、吹っかけたのは二人組の方だな。要注意だ」


「分かったよ」


 着替え終わったので、ロッカーの間を歩くホングの後ろに付いて外に出た。ヴァリーと合流して暫くすると、説明が始まった。話を聞くと軽いテストをやって適性を見てからクラス分けをするらしい。

 クラス分け後はそれぞれにあった訓練が開始される。集まった人数はかなり多いと思う。確か今は新人の数は百六十人程いるのを聞いているし、その中でも戦闘訓練を受けようなんて奇特な人間は少ないと思っていたから、五十人ちょっと集まっているのは不思議な気がした。


「この人数が集まるってことは、『スフォラー』の関心が高いか、半額の戦闘訓練って言うのが効いたのか……」


「俺は日数を縮めれることが決め手だった」


「二十日も働かなかったら困るしな」


「ギリギリなのに無茶だぜ。モニターなんてついでだ」


 後ろからの話し声を聞きながら、内容を頭に入れていた。後でマシュさんに報告するのに良い噂だ。


「そこ! ちゃんと話を聞くように!!」


 何処かの軍隊にいたという仁科(にしな)教官が、僕の後ろで話していた人を注意した。


「ちっ」


「うざいぜ」


 後ろの人物は小声で呟いた後は、教官の話を大人しく聞いていた。六日間の軽いサバイバルと戦闘訓練をやった後はそれぞれに合ったサバイバルコースでの実地をやることになる。

 行き先は腕輪に付いている機能の一つの、半透明な地図に出る点を追い掛けて捕まえることだった。追い掛ける対象は『スフォラー』で、対象に触れれば前半のサバイバルは終る。つまり自然の中を一人で行動するのが最終目標だ。

 捕まえたそれが、今回の一番の目的のモニターをする『スフォラー』になる。そしてそこからは『スフォラー』を使用して『スフォラー』の示す次の目的地に向かって進み、仕事をこなすというものだった。

 そして、慣れたところで『スフォラー』を使った戦闘訓練をやって、素の時との違いを詳しくレポートして提出になる。

 勿論、『スフォラー』に嫌われたりする人間は、最後の戦闘訓練は散々になるはずだとマシュさんが言っていた。そのことも調べるので、嫌でもこの訓練を完遂してもらうと、悪い笑みを浮かべていたのを覚えている。


「行動は記録され、組合への評価に追加される。命に危険がある怪我をした時は腕輪がそれを察知し、本部に飛ばしてくるが、ここはそれほど危険な場所ではないし、戦闘訓練の内容も護身くらいのものだ。ここを卒業し、更に適性があるなら危険度を上げた訓練も受けることが可能だ。まあ、この訓練は最低限だと思ってくれ」


 うわ、最低限なんだ。これは落ちたら評価が酷いことになりそうだ。取り敢えずは安全第一に無事に終わらせることを優先しよう。そのままその日はクラス分けの適性テストが行われた。


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