174 反抗期
◯ 174 反抗期
今日は調理魔術の特殊にチャレンジした。基本属性魔法一般を四つなんて言わずに、特殊を二つも持てば充分評価は高いのだと知った。借金の負担がまた減るのだ! 超重要ミッションだ。聖水作りが異世界間管理組合にはまだ評価が無いのは仕方ない。知名度も低い。
それでも気合いは充分、勇んで試験会場に向かい、試験を受けた。勿論、最近散々練習した技術だ。た、たとえ調理ごときと叩かれようが、そんな事は気にしない!! 聖の属性と合わせれば美味しい聖属性の料理が出来るというアピールポイントは、料理界でも評価は高いはずだからね。レクタードさんがフリーの人を探して雇いたがってたくらいだ。
「どうだった〜?」
マリーさんがチャーリーと一緒に向かえに来てくれた。
「ばっちりと思うんだけどな」
「それでは合格ですね。お祝いの用意はもう準備してます。明日の合格発表を待たずとも良いでしょう」
チャーリーはもう受かったと思っているみたいだ。チャーリーも今日は試験を受けに行ってたはずだった。
「チャーリーは今日は錬金術だったっけ?」
「はい。皆で交代で試験を受けに行ってますから……かなり資格も集まってきました。護衛の資格を取るのは最低でも一年の研修がネックですが、我々も取る必要を感じているので何人かずつ、資格取得に向かうと決めました」
チャーリーの決意に満ちた表情に気圧されつつ聞いてみた。
「スフォラと一緒に行っちゃうの?」
「公式の場所での護衛は、資格を有する者でないと入れない場合があると言うので……ですが死神の組合に戦闘に関しては保証されているので、悪魔討伐者という肩書きを使わせてもらう事にしました。ですので、リーシャンと私の場合は半年の訓練になります」
心配しないでとチャーリーには言われた。どうやらリーシャンとティートリュウムが先陣を切って行くらしい。ティートリュウムに関しては保証はされてないので、リーシャンのみが半年の拘束だ。リーシャンが終ったら、交代でチャーリーも向かうらしい。
「そっか。皆なら取れるよ」
太鼓判を僕にでも押せるくらいは優秀だ。その内にスフォラのように独り立ちする仲間も出るに違いない。その時はしっかり応援して送り出そうと思う。外の世界も沢山知って欲しいのだから。
「我々の中にも独立心の強い者は外に出る気の様ですが、種族としてはまだ認知されてないですから外に出るのはまだ早いとマシュは引き止めています。私も同意見です。機械部分の技術が殆どオリジナルで門外不出の仕様で特許を取った物も多いですし、修理や調整にはマシュにマリー、それにアキがいないとならないのですから」
「定期的に連絡を取ったら?」
「完全独立するには我々は秘密を抱えてますから……ガリェンツリー世界の技術もですが、克実ブランドのノウハウ等も含めると独立されては困ります」
「半独立で暖簾分けで良いんじゃないかな?」
「……アキがそのように仰るのは分かっていますが、これは眷属として作られた我々のこれからの問題でもあるのです」
「そっか。方向性を決めるのは大事だね? でも、自分の可能性を広げたい気持ちは分かるよ。無理だというのなら、休日を沢山取ってその間は自由を与えても良いと思うんだ。何か夢があるって良いと思う」
「そのように言われると……」
チャーリーはなんだか考え込んでしまった。
「そんなに深く悩まなくていいよ。不都合が出てから考えても良いと思うよ。仲間を信じているならそんな酷い事はならないよ」
「そうですね。何か手を考えて実現出来る様に応援します。今直ぐはやはり無理ですが、準備は整えて行きたいと思います」
顔を上げてチャーリーはこっちをじっと見ている。膝をついてチャーリーと向き合って抱きしめればぎゅっと返してくれた。そのまま抱っこして、帰りの道を進んだ。マリーさんを見れば微笑ましそうな顔で僕達の様子を見ている。
「この子達は強いから利用されても困るの。純粋で騙され易いし、世間の荒波には出しにくいわねぇ。もうちょっと人の悪意に警戒を持たせないとね」
確かに。まだ生まれたてのチャーリー達には、理不尽に立ち向かう強さはあっても受け流す器用さはまだ無い。成長が必要だ。チャーリーの中でも葛藤があるのだろう。
「今、資格を取りに外に出ているのも、準備と言えばそうだからね……。休日に違う種族のお友達と遊んだり色々と触れ合う事から始めよう。それならマシュさんも反対しないよ」
「そうね〜、それなら文句は出ないわ〜。反抗期ってことは自主性が出て来ているって事よ、上手く育ててあげなくちゃぐれるものね」
この事については家の中で話し合いがもたれた。対人スキルをあげるという名目で、休日の活動が解放された。アストリュー世界とみかんの中間界での獣守達の活動は外に向かう事に決まった。良い事だと思う。
自分達の世界の狭さに気が付いたのだと思う。資格を取る作戦は意外と獣守達に取っては冒険だったのだ。それが成功した今、自分の力を試したいという思いが芽生えているのに違いない。
自主性を重んじるならその責任も負わないとならない事を、自由な時間の中で学んで行ければ良いとマシュさんとレイは微笑まそうに話していた。僕もそれには賛成だ。
「余裕ができたこの時期だから何とか獣守達の気持ちを考えて対応出来たけど、金銭面での余裕は本当、大事だね。心を蝕む嫌なシステムだよ……」
レイは話し合いの後の温泉でそんな事を言った。念入りに何かをお肌に塗っている……余程懲りたのかもしれない。
「神ポイントはそんなにはうるさくは言われないんでしょ?」
「まあね。貸す方もうちとの繋がりを持ちたいとかそんな感じだよ。結局はエネルギーでもあるから回るものだし、万が一の時には解体時に回収はされるんだ。管理組合のポイントは現金と変わらないけど、これも物に数値で価値を付けただけのものだよ。管理組合ではポイント管理費として預けていても一定数減るのは知ってるよね?」
「うん。引かれてるよ」
「物だと時間経過で価値は下がるけど、ポイントのままだと価値が下がらないのはおかしいからね。価値の高まる物は少ないし、新しく生まれる物と消えてく物の取引の数値の調節でもあるんだ。現金では中々出来ないけど、お金を発行している所が責任もってその調整をやらないとならないからね」
「組合員の義務とかになんか書いてあったよ?」
「そう、それだよ。組合員としてのサービスを受けるに当たってのポイントの調節には義務を課しているはずだから。でも、借金状態でも引かれるのは納得いかなかったよ……」
一番言いたいのはそこだったらしい。
「そ、そうだね。厳しいよね」
レイと僕は一緒に苦労を分かち合ったから、思い出すだけで涙が出そうだ。
「もう二度と借金はしたくないよ……。やっと半分返せたよ」
もう、半分も返したんだ。すごい……どうやったんだろう? というかレイは普通の仕事をしたら稼げるって聞いているから、ガリェンツリー世界だけに関わっていては稼げないってことなのかもしれない。ま、まああの世界もこれからはお給料だって増えるし、情勢も安定するはずだから外の力も入り出す。
管理組合等の機関同士で『地獄の気管理システム』というソフトの部分の技術を競い合う事にはなるけど、それはガリェンツリー世界に取っては良い事である。その下のハードである『地獄の気制御装置』を握っているのは大事だ。
最も、これもいつまでもという訳じゃないとは思うけど。それでもしばらくの安泰を言えるのは、この大掛かりな技術はまねをするにも時間が掛かるはずだからだ。
それに最大の客になるはずの死神の組合と既に取引をし、開発にまで手を貸してもらっているというのは大きい。他の所は、外との技術交流をやらずに独自でやっているせいで、冥界との連携が取れてないと聞いている。みかんの中間界が注目されているのも他と繋げ易い自由度みたいだ。
そして今後は、エリートの情報交換所として発展して行くだろうと噂されているのだそうだ。今は闘神と死神くらいだけど、管理組合も彼らとの取引にはかなり気を使って、良い組合員を入れてくれている。情報もばっちり取ってそうだけど……。
別で職人も多く入って来ている。という事は商人である組合員も注目している。色々と発展して行っているのは中間界としてはかなり特殊な様相を呈しているのだとか……。トロ爺さんはその辺りをどう纏めて書き上げようか頭を悩ませているらしい。




