169 発展
◯ 169 発展
しばらくは拠点であるアストリュー世界と精霊界とガリェンツリー世界とそしてみかんの中間界に活動が絞られてしまった。予定では管理組合の時間で一週間前後みたいだけど、場合には二週間も行動が制限されるのはきつい。それだけやらないと膿みは取れないという事みたいだ。
ホングは星深零の区画で学業に専念するというし、ヴァリーは久しぶりに地元を旅しているらしい。新しい砂漠の旅の方法を模索しているというけど、どんなのかは教えてもらえなかった。でも交通の便を考えるのは大事だ。行き詰まったら知恵を借りるとはいわれているけど、僕の知恵じゃたいした事にはならないと思う。
ナオトギは何やら物騒な事をやっているみたいだ。犯罪心理の研究に盗みをするとか何とか言っていた気がする。犯罪者にはなっちゃダメだよ? 本末転倒ってきっというはずだよそれ……。ま、こっちにだけはとばっちりは飛ばさないで欲しいと思う。
しかし、メッセージには、ポースの自叙伝の盗みの極意の画像を送りつけられているので、ちょっと逃げるのは難しそうだ。興味ありと見られているのは納得いかない。まあどのみちしばらくは大人しくするしか無い。
ギベロさんはこっちにお酒の仕入れをしに来れずに困っている。買い付ける前の試飲は大事だからだ。最近はアストリュー内のあちこちの酒蔵が名乗りを上げていて、みかんなバーに卸すのを止められたり、外の世界への販路を独自に開いたりと目まぐるしく動いていた。
ギベロさんはその動きに乗って、他のお酒を仕入れたりと急がしそうだったのだ。こっちに入って来れないのはかなりの痛手だと言っていた。
そんな感じで皆が緊急の捜査が終るのを大人しくして待っている間、僕はマシュさんの代理でアストリューの商業組合の集まりに参加する事になった。今回はズバリお酒の組合の集まりだ。フィトラが神殿の一角に誘導してくれるのを頼りに進んで行く。この辺りには来た事がないから、全く分からない。
町の皆に解放されている役場の施設と言った感じの、大きめの講堂で会議が始まった。長テーブルを円形に並べて準備は整っている。
お酒造りに携わる人達を中心に、商店に卸す業者や商業組合の纏め役員の人が参加している。新参の酒蔵であるうちは末席を与えられた。新参者はうちの他にも三人いるのが分かった。確かそんな事をギベロさんも報告してくれてたと思い出しつつ、会議の内容を聞いた。
「外からの業者に乗っ取られた所が出た。ティマンテ地方の荘園主の畑ごと奪われ、ここの資源が外に漏れている。これは由々しき事だ」
偉いさんらしき人が眉間に皺をよせながら問題を切り出した。
「最近、酒蔵を名乗っている者がいるが、レベルが低いのにアストリュー製を名乗るのは遠慮して欲しいものだ」
その発言をした人に態とらしく睨まれた。カフェで満足していれば好いのにと、隣の同じ様な新参者にも口を挟まれた。立場は新参者なら同じ、と思ってたらそうじゃないらしい。作るお酒の中身で勝負と言った感じが何となく伺える。
ま、まあ、うちは魔法での効果付与された物だけでなくて、神力を込めたお酒も神殿に卸しているから、新参者の中でもまだ有利な方だと思う。それに月の浄化にはまだ誤解が多いからね。
皆がぴりぴりしているのは何となく分かる。会話の中に出て来た外の業者に、良い様に資源を奪われたせいだ。その防衛に付いての勉強会を始めるというのが今回の集まりの議題だ。
「最近は神殿の頑張りで精霊界との繋がりがしっかり出来て、妖精と契約するまでになっている一般人が増えている。植物関係の成長に対しては、絶大な効果を発揮しいているのも神殿の神官様達のおかげだ。それを忘れない様に、我々は外資に対して手を組み対策を取って、一丸となってアストリュー世界の資源を守る事を一番に考えたいと思っている」
纏め役員の目はしっかりと前を見ている。
「確かに妖精達が多く現れて聖域の聖樹も順調に増えている」
聖樹とはカシガナの木の事だ。
「その聖樹に関しては神殿の神官達にお任せすれば問題ないし、我々も恩恵に預かれて益々メレディーナ神の功績も上がってアストリュー世界が良くなっている。信仰にお答え下さる優しき神だ」
かなり危なそうな恍惚とした顔で、そんな事を口走っている纏め役員に同意し、頷く皆に少し付いていけてない僕は仲間に入れてないのだろうか? 遅れながらも周りに習って頷いておいた。
「品質の善し悪しでランク分けをするという意見が出ている。基準に満たない物は一定の価格まで下げて行くべきだと思います。そうやって纏まった規格を作り、この組合の権威をあげるべきでは?」
隣のカフェで止めとけば発言の金髪の男性が意見をあげた。馬鹿にした様な強い視線を僕に投げるのを忘れない辺り、ライバル意識があるのかもと思い至った。負けず嫌いなのかもしれない。
「それには反対です。既にそういった規格は外部の方が作ってしまっている様に思います。こっちで幾らやっても一蹴にされるだけかと」
「外が何でも偉いと思うのは間違いだ。我々の基準を持つべきでは?」
「神殿に掛け合っては如何でしょう?」
「これまでは外に出す物は神殿を通していたのが、急に業者や営業単位でここに入って来て勝手に契約をし始めたのが原因かと……それならば、神殿を通してもらう様にルールを決めれば好いのではないでしょうか?」
「神殿への卸のルートはそれで開かれるのでは? 外へと売込みに行った者が真っ先にその役得を持っているのは調べが付いてる。神殿にコネを持っているってことだよな?」
周りの強い視線に、ネタは上がってるんだとばかりに吊るし上げにあい始めているのに気が付いた。いきなりの展開に泣きそうだ。マシュさん、助けて!
「運搬を扱っている業者から、『みかんなバー』へ運ぶ際に神殿にも幾つか納品があったと聞いている。聖域に入り込んで勝手に資源を使って商売を始めるなんて、新米神官のくせに恥知らずがいるとは聞いていたけど、やっぱりあんたの所か!」
ええっ? 勝手にって誰からそんな事を!?
「何っ! 聖域の物を使うには神殿の許可がいるはずだ。老舗のうちがどれだけ苦労してその権利を手に入れたと思っている?!」
えええっ? 許可はあったはずだけど、お酒限定にはしてなかったかな? 契約はどうだっただろうか? うう、反論するにも知らない事だらけで何を言って良いのか分からない。あんまり責められたらどれに反応したら良いか分からずに脳内はパニックだ。うあぁー、誰か足りない脳みそをなんとかしてっ! 涙を堪えていたら、テーブルの上を走ってきたちびっ子妖精に慰められた。うう、ありがとう。
妖精は僕の味方だ。子鼠な妖精に癒されてちょと落ち着いた。脳みそが足りないんじゃなくてここの商業の知識が足りないと気が付いた。
しかし、周りの目線は白い。いや、怒りに震えているお方もいる。
「訴えるから!! 契約した妖精に影響力を与えて持ち主から好意を逸らすなんて。神官資格を剥奪させないと危ない!」
「メレディーナ神に仇なす不逞の輩! 守護隊に連絡だ!」
「全員が目撃者だからっ」
「えー? 単に優しい妖精だったってだけじゃないの?」
「馬鹿! しっ!!」
「契約妖精が契約者を放置するなんてそうは無い」
色々と言われすぎてもう一杯一杯だ。それに契約したのに疑われて、妖精もシュンとしてしまってなんだか悪い事をしてしまった気分だ。何とか誤解を解きたいけど、こんなに興奮して喚いている人達がいては話を受け入れてもらえそうにない。言い返せばそれだけまた言い返してきそうな雰囲気だ。嵐が去るのを待つしか無い。冷静さを取り戻すまでそっとしておこうと思う。
冷静な人はそこかしこにいるし、先走ってとんでも発想に行ってしまっている人達は、自分の身を守る事に必死なだけだ。
「大丈夫、ちょっとした行き違いだよ。きっと、君の優しさに気が付いてくれるよ」
僕は鼠の妖精に優しく念話で声を掛けた。周りはザワザワとし、話し合いは滅茶苦茶になり、到底会議とはほど遠い有様になっている。そこに守備隊が来て、僕を連れて尋問室に移動することになった。
妖精は直ぐに契約者の元に戻され、契約者は僕を嫉妬の目で睨みつけてから鼠をそっと撫でようとしていた。そこで会議室の扉は閉まり、僕は尋問室に向かった。目撃証言が多くて僕は調べが済むまでアストリューの牢にはいることになった。
「アキさんから神官の資格剥奪と、聖域への出入りを禁止なんて無理ですわ」
と、一時間後にはメレディーナさんが上機嫌で、というか絶対に大笑いしたに決まっているくらい上気した痕を隠しもしないで現れた。それでやっと、牢から出してくれた。




