167 帰宅
◯ 167 帰宅
「お帰り! スフォラ!!」
「ただいま、アキ」
スフォラが帰ってきた。玄関で待ち構えて飛びついたら、直ぐに剥がされた。
「無闇に異性が抱きつくのは良くないです」
スフォラがそんなことを言うが、嫌がっては無い感じだ。というかスフォラは女の子として自覚してるんだね。
「家族は良いんだよ?」
僕がそう言うと、
「家族は良い……」
と、呟いてから微笑んだ。僕はもう一度抱きついた。
「お帰りなさい」
「ただいま」
きっと、世間での常識を学んだんだと思う。でも僕達の中のルールの方が家の中では大事だって教えないとね。
「何時まで引っ付いている。さっさと離れろ」
マシュさんが玄関で文句を垂れている。僕達が邪魔で中に入れないでいるせいだ。よく見れば組合長にレイ、もう一人はザックリーブさんがいる。お久しぶりです、と挨拶した。
ムニールゥトとクリーシャムが皆を家の中に案内して、お茶とお菓子を出してくれた。今日皆が集まった理由は、この間の異世界間管理組合の前代未聞な失態の後始末の中間報告だ。まだ解決しておらず、背後関係を徹底的に調べる為に捜査が行われている。警官隊だけでなく、軍の諜報、捜査科まで動かしての大掛かりな捜査がまだ行われ中だ。
現金である組合のポイントの流れもだが、神ポイントである神力での取引は追うのは難しい。それでも現金として変換されたり、あからさまに妙な取引になっている所があるため、そこを中心に洗い出しをしているらしかった。
「勝手に打ち切りにされてはこっちも予定が狂う」
マシュさんは修行半ばでスフォラが戻って来た事に不満を言っている。本来なら一年程は連絡も取らずに訓練に明け暮れるはずだからだ。また最初からやり直しになるのは不味い。
「致し方ない。教育の方に回っていた人員も含めて、フリーの資格持ちから人員を集めて内部調査をやらないとならない程の規模に発展している。不正を通すのに人質を取っていたりとかまであったから慎重に捜査は進めている」
ザックリーブさんが説明してくれているが、内容は穏やかでない。異世界間管理組合の人員全部を調べるという大事だ。
「こっちの組合員にも刻印が入っていたって事だね?」
レイが確かめている内容も恐ろしい事だ。
「あれを解除出来る団体を派遣してくれて助かった。さすが死神組合の専門だ」
ザックリーブさんは何やら深刻な顔だ。
「先にこっちでも処理をやってたから解呪の技術が間に合ってるってだけだよ。ちゃんと技術として確立したのは、ほんの最近だからね」
ちらりと僕の顔を見ている。レイの言っているのはこの間のジンフリスさん達の解放の事だと気が付いた。その後の説明を聞いたら、あの三十人程の刻印解呪のおかげでマニュアルめいた物と、解呪を助ける装置が出来上がった所だったらしい。研究が進んだのは、あの時頑張っていたトーブドンモ博士の活躍があったと分かった。
「そうか、先にそっちから始まった騒動だったな。しかし、死神のやりたい放題が気になる。そっちはどうなっている?」
ザックリーブさんがレイに聞いている。
「こっちも第三機関を入れる事にしたよ。星深零的な機関が冥界専用にもあるから、そことも中立を保てる機関を通す事に決めたんだ」
「信用出来るのか?」
「水の姫に頼んだから大丈夫だよ」
「東雲の姫か……罪の所在は己の中と周りの意識とのズレを見れば自ずと決まると言っていたが、あれの故郷が確かそんな機関を出している場所だったな」
「当たりだよ。星深零もそこの精神を引き継いでいると聞いているから、問題ないと思うんだけどな?」
「大きな機関同士の争いとなると、仕方あるまい。死神の組合もだが、こっちもかなりの数が裏切りをしている。というか、色々と入り込まれているというべきか」
「結局はスパイ活動の一環でもあるし、ターシジュン管理組合だけじゃなくてミトリュウム商会も噛んでそうなんだよね」
「冥界経由での情報戦があったと見るべきだな……大掛かりで有益な物が大量に、みかんの中間界に集中しているせいだな」
「みかんの中間界の模倣が早かったのは、やっぱりガリェンツリーにいた死神達のせいだね?」
「情報を売ったと見ていいだろう。アリシアとかいう女の名も挙がっているが、スパイの一人か?」
「さあ? 自滅したから分からないけど、そうじゃないかなって睨んでるよ」
「ふん。確信している顔をしているならその通りだろう」
つまりお色気とお金等の袖の下を渡して情報を取っていたと見るべきだとの事だ。つまり、まだみかんの中間界の中にはスパイが潜んでいる可能性があると言う事だろうか?
でも、あそこの特徴からすると、僕達に借金を吹っかけようなんて悪意の持ち主は上手くいってないはずだから、すぐに分かりそうな気もする。その事を聞いたら、レイが溜息を付いて言う。
「だからこそ、周りを固めたんだと思うんだ。直接探れないから自分達の息の掛かった者を周りに配して、ガリェンツリー世界が脅威とならない様に圧力をかけ続けたんだと思うよ?」
取り込みたかったのか、潰す気だったのかはまだ分からないけど、上手くいかせたくなかったのは僕も何となく分かる。あの魔法陣化の事だけでも、他の似た組合とか商会だとかの組織には脅威に映ったに違いないのは僕にだって想像はついた。
「それも複数のようだ。それだけここの情報が貴重だからこそ、彼らが助長し無茶をやらかしたともいえる。だからもろくも一部が崩れただけで、他も発覚したというべきか。体制の見直しもだが、契約の見直しに組合員の安全の確保を早急にやらねばならない」
ザックリーブさんの端正な顔が、山積みの問題のせいで歪んでいる。取り敢えずはそんな大きい話は僕にはさっぱり分からないのでレイ達にお任せで良いと思う。結局は大きい組織への変わり目としてのステップを踏んでおるだけだとの組合長の楽観的な意見には賛成だ。きっと、そういう時期なんだ。
「取り敢えずは飛躍をする為の準備が不足しているってことは分かったよ」
レイは今回の話し合いで使った大量の資料を目の前にして溜息を付いていた。




