166 見舞い
◯ 166 見舞い
次の日、朝から玄然神は温泉に浸かって念入りに準備し、短時間の変身ならと、メレディーナさんには許可を貰い、僕の家で待ち構えている。向かえに行く僕に何度も注意をし、うるさく言われてうんざりしかけた頃やっと出発をした。この世で一番うざいのは恋する男だと勉強した。
「向かえに参りました」
「時間通りじゃ」
東雲さんは珍しく洋服だ。
「洋装もお似合いです」
「変ではないか?」
直ぐに嬉しそうな顔をしたので、お洒落をしてきたのだと思う。
「清楚なブルーがお似合いです。では、早速案内します」
「うむ。頼んだぞ」
東雲さんの後ろには護衛のトウエンさんが控えている。チャーリーも挨拶して直ぐにアストリューに入った。
「ここは花の広場です。ゲートは三つあるのですが、玄然神がこちらを指定したので……この景色が一番東雲さんには合うと言ってました」
「まあ、妾の為に……」
機嫌の良くなっている東雲さんに僕も心穏やかにしていられる。この前の画面越しの様子は微塵も無い。少し目の下にクマが出来ている様にも見えるので、チャーリーの言った事とかを調べていたのかもしれない。
「昨日、家の方に静養に来たので、このまま聖域に案内しますね。少し歩きます」
トウエンさんの目がこっちを睨んで来た。警戒されたかもしれない。
「玄然殿はもしや神幻想獣に当たられるのか?」
東雲さんがなにか思い当たったのか聞いて来た。
「あー、多分それであってます」
「妾等が尋ねても大丈夫じゃろうか?」
急に不安になったのかどうしようという顔で聞かれてしまった。
「大丈夫ですよ。楽しみに待ってますから」
「ほ、本当か?」
東雲さんが妄想にふけり出した気がするので、手を引いて案内を続けた。神殿を通り抜け専用の転移装置に向かう途中でトウエンさんが聞いて来た。
「何故、貴方の家に?」
顔が強張っているので、緊張しているみたいだ。
「玄然神の神域が近いので、落ち着くのではないかと……一応は治療も浄化も出来るので、家での療養になりました」
正確には僕の神域の中にあるのだけど、細かい説明は後だ。
「そ、そうでしたか。大変ご無礼な事をお聞きして申し訳ありません」
トウエンさんは納得したみたいだ。ご近所さんだと知ってか、顔色が悪くなった。まあ、理由を知れば文句はないだろう。そのまま転移装置を通って家に着いた。
「ようこそ、我が家へ。どうぞお入りく……」
玄関を開ければ目の前に玄然神が立って待ち構えていた。
「よう参られた。寛がれるが良いぞ!」
「何やってるんですか! 無茶しないで下さいっ」
「このくらい、何ともないわ!」
「怪我人が元気にしてたらダメだって言ったじゃないですか。お見舞いの意味が無いじゃないですか!」
「ちょっとくらい良いではないか、全くもって平気じゃ!」
「嘘を申す出ないぞ? 妾には分かるのじゃ」
東雲さんの言葉にやっぱり無理しているのか、と腹が立つ! 治療する方の身にもなって欲しい。
「やっぱり!! チャーリー、引きずってでもベッドに運んでくれて良いから!」
「怪我人らしくベッドにお戻り下さい。もう一度、肝臓に一撃を入れた方がよろしいですか?」
「可愛いのに毒舌とはどうしたら良いか分からぬぞ?」
チャーリーの物騒な説得に、複雑な表情で聞かれたが、自業自得と思うので睨んでおいた。何とか少しふらつきながらも玄然神は自室に戻って行った。
いや、客室なのにずっと居着いているので、玄然神の私物がどんどん溜まって、結局は本人の部屋になっている所だ。神力酒造りに家を拠点にしているせいだから仕方ない。僕みたいに精霊達に投げっぱなしではダメならしいので、こだわりがあるのだろうと思う。いや、神域内に自分の家も作っていたと思うけど。
テネジィーユが入れてくれたお茶が入ったので、ソファで落ち着く様にお客様二人に勧め、僕も一旦座った。
「庭のハーブティーです」
「好い香りじゃ」
東雲さんはテラスの大窓から見える庭の様子を見て目を細めた。お子様紫月がポースとキリムに絵本を読み聞かせている。人魚のお話だ。
「後で、庭を回られますか? 畑も楽しいですよ」
キヒロ鳥が窓際に降りて来たので窓を開けた。ヒシカの実を渡せば直ぐに飛び去った。お客様二人は顔色が悪い。大丈夫だろうか……。
「キヒロ鳥は本物か?」
「はい。屋根に巣があるので」
「番か。めでたいの」
東雲さんは何とか復活して、番の言葉に頬を染めていた。
「お手洗いをお借りしたいのですが……」
トウエンさんはさっきから汗を拭きっぱなしだ。テネジィーユがトイレに案内をした。チャーリーから玄然神が落ち着いたと連絡が来た。
「どうやら、玄然神の様子も落ち着いたみたいなので、部屋に案内します」
「そ、そうか。妾は腰が抜けておるから、もう少々休んで良いじゃろうか?」
部屋から出て来たチャーリーに東雲さんを預け、僕はもう一杯お茶を入れた。トウエンさんと、東雲さんの準備も整ったので、部屋に案内した。
「余り無茶はしないで下さい。僕じゃ内蔵の治療は難しいですからね」
細かい所はまだまだ難しいし、見た目は良くてもダメージが残っているのだから大人しくしてもらいたい所だ。再生した箇所も落ち着くまではもう少し時間も掛かる。玄然神には釘を刺しておかないと、またやりそうな気がする。
「このくらいは何ともない!」
「すこしは大人の冷静さを見せて下さい。かっこ悪いですよ?」
「何っ!?」
僕は東雲さんに椅子を用意して、玄然神のベッドの横においた。チャーリーが東雲さんの持ってきた果物をむいてお皿に載せて持ってきてサイドテーブルに乗せた。
「妾からもお願いじゃ。お体を大事にして下され」
「う、うむ。粼姫には心配をかけたようで申し訳ない」
ちゃんと謝っている姿は反省しているみたいだ。おおー、さすが。鶴の一声な効き目。玄然神には東雲さんが処方されないとならないと知った気がする。
「怪我をしたとお聞きしてから、どれだけ心配をしたやら……こうして無事なお顔を拝見出来て胸をなで下ろしております」
「なにっ、大げさに言いおって。これしき何ともない。姫の方こそ養生をされておるのか? 顔色が優れぬようじゃ」
玄然神に睨まれてしまった。東雲さんの目の下の隈に気が付いたのか心配をしている。
「こ、これは、心配のあまり……少々寝不足なのじゃ」
両手を頬にあてて恥じらって横を向いている姿は恋する乙女だ。気炎を吐いていた人とは別人だ。
「こんな事で粼姫の美しさを萎れさせては申し訳ない。儂なら頑丈に出来ておるから大丈夫じゃ」
「そ、それならばしっかりとお体を休め、特別な神力酒造りとやらを妾に見せて下され」
もっと言ってくれても良いよ?
「う、うむ。勿論じゃ」
「約束を……」
僕はなんだか体が痒くなって来た。隣で砂糖を頬張った様な顔をしているトウエンさんに、目で合図をして外に出るかを聞いてみたら、即頷いたので桃色空間からの脱出を図った。
「甘過ぎる」
僕は口の中が甘くなる気がした。
「あそこにいると背中が痒くて…」
トウエンさんはもぞもぞと体を動かしている。
「良い感じですね。お世話し甲斐があります」
チャーリーには調度良かったらしい。にっこりと微笑んでお盆を持ってキッチンに入って行った。スッキリ味のお茶を飲んで待っていると、東雲さんが部屋から出て来た。夕暮れの中ゲートまで送ってお土産を渡した。
「アキ、玄然殿をよろしくおねがいするぞ」
すっかり妻の様な顔で、東雲さんには治療を頼まれてしまった。
「頑張らせてもらいます。これはぐっすり眠れるお酒です。ハーブティーは寝覚め用にどうぞ」
僕は寝酒用に造ったお酒を東雲さんとトウエンさんに渡した。
「私にまでありがとうございます」
トウエンさんが喜んでいる。
「やはり、分かるかの……」
玄然神に言われたのが気になったのか、東雲さんは顔を触っている。
「温泉に浸かって行かれますか? 美肌コースの空きがあるか直ぐに調べますけど」
「そうか。お言葉に甘えよう」
予約を入れて僕は東雲さんを案内係にお願いをした。独身のトウエンさんはげんなり顔でちょっと肩を落としている。トウエンさんには混浴を勧めた。
「水着着用ですが、眺めは最高ですよ」
「ありがとう。ここは素晴らしい温泉地です」
がっちりと握手をしてトウエンさんはお礼を言ってくれた。




