164 気炎
あくのきわみ
◯ 164 気炎
「異世界間管理組合にまで、初期から借金を上乗せされている事が分かったよ。オーディウス神の情報を元にこっちでも調べたら、上乗せどころか借金の返済が遅らされていてペナルティーが科せられてた。そんなのは一度だって無かったはずなのにっ! こっちには通知も来てないし、返済はきっちりとしているからペナルティーなんて無いはずなのに、評価がそれで下げられたら利率も上がるし、返済が増えるじゃないかーっ。ボクのマッサージ代だって払えてたはずなんだっ!!」
レイが涙目で調べた事を皆に報告している。返済の金額がおかしいと、再三見直しを頼んでいたのに、その肝心の人員が抱き込まれていたと怒りで震えている。死神の巣から獣守達の映像を頼んだ時に、レイにはこっちの方も同時に念のために上層部に訴えて調べを頼んだとは聞いていたけど、前代未聞の不祥事に発展しているらしい。異世界間管理組合の一番信用の厚い返済金の管理が、抱き込まれているなんてあってはならないのだ。
「初期って?」
「ヘラザリーンの遺体処理辺りからだよ」
「やっぱりなんだ」
レイがアンデッドの薬やら死神用の薬を使って、マシュさんと一緒に冥界の大物との繋を頑張っていたのはこの不正をただせる、もしくは捜査してもらう事だったみたいだ。まあ、層から外に繋がる通路と爆発の刻印の関係の捜査でついでにここの不正が分かったのはいい事だ。捜査は続いている。
「どうなっている? 横領があったと聞いたが?」
浅井さんが険しい表情で聞いている。
「これまでに監査は無かったのか?」
マシュさんも眉間に皺が寄った顔をレイに見せている。皆が殺気立ち始めている。
「証拠が出たなら、これらの不正に対して賠償、もしくは保証はありますか?」
アイリージュデットさんも借金返済に対しては最近は理解を示してくれている。
「この調査では年間10%も違ってきます。破綻は免れません」
ガリルも怒りを現している。
「その人達は捕まったの?」
「勿論ボク達への嫌がらせ分は、彼らに責任を取らせるに決まってるじゃないか! 監査が入らなかったのは幹部が内部調査をしていたという別の予算に目をつけたからなんだ。しかも、異世界間管理組合からも内部調査費として勝手に通して少しずつ懐にくすねてたんだっ! ただの横領だよ!」
それは良くない。
「まだ内部調査までやってたのか?」
「そんなのはとっくに解散してるからっ!」
組合長に聞いたらそんなのは解散しているという。最初の頃は交渉の為に色々と内部に入ろうと躍起になっていたけれど、既にみかんの中間界での宝箱交換等の仕事意外にも大型店舗を出店しているし、異世界間管理組合にも借金もしているし、ダンジョンには調査隊を派遣している。それに、組合長自らここにむち打たれに来ているのだからそんなの無意味だ。
魔法力BOももう既に共同での開発も大詰めだ。今更調査なんて予算を組む程は要らない。それどころか借金をそんな風に不正に増やしてると分かったら、こっちがごねるかもしれないのだ。それを狙ったのか、単純に資金を稼ぐ為か、私腹を肥やしたかったのかはまだ調査が続いている。
内部の派閥争いが異世界間管理組合でもおこなわれているのが分かる。死神の組合もうちの管理組合も巻き込まれているし、悪神につけ込まれている。
しかし、ここがそれだけしても価値のある資源を有しているのは間違いなく、取り込む為なのは分かる。リスクを負ってでも手を出す輩が出ても仕方ないともいえる。
「こんな方法をとるくらいだから、相手はよっぽど金に困っているか、資金集めに良いと思ったのか……ここが返済能力があるのも問題だな」
マシュさんは細かい数字を見ながら、訳の分からない事に感心している。
「刻印を刻んだ者と金に目の眩んだ者、資金が必要な所に悪神の企みと誰かの思惑が嵌っているのか……」
浅井さんは資料を捲りながら、唸っている。
「死神の巣は封鎖が始まったが、連絡は?」
マシュさんがイライラしながら新しい情報はまだかと不満をぶつけている。
「まだだよ。しばらく掛かりそうだよね」
オーディウス神の捜査待ちになっているみたいだ。会議は一旦終了となり、僕はみかんなカフェで寛ぐ事にした。
マリーさんは訓練用のダンジョンに異常が無いかを訓練施設のお仲間と一緒に入って調べている。冥界経由で他の悪神が入った可能性まであるのだから、しっかりと調べ直している。なので今日は、みかんの中間界はいつものにぎわいは、なりを潜めていてのんびりしている。
「東雲さんにも連絡を入れないとね」
スケジュールの見直しをしていたら、玄然神との神酒造りが延期になったと伝えておくのを忘れていたのを思い出した。玄然神の怪我が治り次第新しい連絡を入れますと送って、一分後に東雲さんからの通信のサインが来た。
「怪我とは、な、何があったのじゃ?!」
繋がった途端に聞かれた。慌てているのが良く分かる。
「落ち着いて下さい。もう三日も前ですし、神殿で治療も進んでいるので大丈夫ですよ」
「三日も妾に黙っている等、酷いではないか!! なんて仕打ちをっ!」
「すいません」
真っ青な顔から一気に真っ赤な顔になり、怒りをぶつけてくる気迫がそんじょそこらの闘神でも気圧されるんじゃないかと思うくらいだ。とても映像越しとは思えなくて、つい謝った。恋する女に気迫負けは仕方ないと思う。
何処でどうなって、なんで怪我をしたのかと、色々と聞かれたが何処まで喋っていいやらさっぱり分からずに、しどろもどろに言う僕の返答に切れて、東雲さんの怒りのボルテージは上昇の一途をたどった。僕は知った。この世で一番理不尽な生き物は恋する女だと。
「説明もろくに出来ぬ等、よくも管理員をしておれる!」
「ごめんなさい。失礼しました。僕が悪いんです。生きててごめんなさいー」
あんまり責められて、泣きながら良く分からない謝罪をした。チャーリーがおろおろと僕の周りを回り、ティッシュで涙やら鼻水を拭き、ついには東雲さんに許しを得て話し始めた。
「捜査中ですので説明は出来ません。ですが、星深零がこの事態をまだ把握していない方が問題があると思います。職務怠慢を進言致します!」
「妾に喧嘩を売っておるのか!?」
殆ど気炎を吐いている東雲さんに、負けずに言い返すチャーリーがかっこ良過ぎる。
「いいえ、異世界間管理組合の第三十七部署の経理、会計の担当者の所業を早急に調べて下さい。死神の組合の裏切り者と深層の悪神と協定を結んでの壮大な犯罪を起こしています。異世界間管理組合においても歴史に刻まれる不祥事になってますから!」
「それと玄然殿とどういう関係があるのじゃ!」
「お、お見舞いは明後日くらいはどうでしょう?」
フィトォラが玄然神からのメールを知らせて来たので、中身を読んで提案した。要するに一回会えば良いのだ。心配しすぎてこんな感じなのだし。
「明後日の何時じゃ? 直ぐに空けて参る」
あっさりと僕の言葉に反応した東雲さんは、既に事件の事は頭から消えたらしい。その様子に、チャーリーは固まってしまった。
「お昼ぐらいに星深零の区画に行けば良いですか?」
「渡航待合所にて昼過ぎで良いか?」
「はい」
そこで通信は終った。僕はチャーリーに椅子を勧めた。
「アキ、恋する女には何を言ってもダメですね。何か勉強しました」
一緒にお茶を飲んで反省会をした。
「そうだね。お見舞いの設定まで考えてからメッセージを送るべきだったよ。配慮が足りなかったんだ」
「そのようですね。とても疲れました」
僕達は溜息を付いた。




