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157 先輩

 ◯ 157 先輩


 ナリミルさんの依頼の玄関口と、その横のショーウインドウを大きく改装している。ヘッジスさんも手伝いに来てくれて、大助かりだ。


「変な特技があったんだな」


「変、ですか?」


「あ、いや、その」


「お兄様。そんな失礼なこと言って、ダメでしょ? アイスちゃん気にしちゃダメ。これは立派な特技よ!」


「本当?」


「確かに強度が低いのは仕方ないわ。でも後から幾らでも強化の魔法が通るのだから、そこをお兄様がやれば問題無しよ」


「あ、でもそれはポースと紀夜媛がやってくれるし、ヘッジスさんに頼りっぱなしじゃ成長しないよ」


「いずれはパートナーなんだから頼ってくれていいのよ?」


「そ、そうなの?」


「まあ、お兄様。説明してないのね?! 全くダメなんだからっ!」


「先は長いからいずれは……」


 しどろもどろなヘッジスさんが可笑しい。どうやら見習いになった時点でパートナーとしてやって行くかどうかを話して決めていいらしい。というかヘッジスさんは、踏ん切りが付かないでいるみたいだ。それはやっぱり迷うのだろう。僕は……どうなんだろうか。ポースがいなければまともには戦えない。


「ヘッジスさんが決めてくれていいです。僕は特技は魔法での物質変換やら錬金術を駆使した改装だし。全然死神らしくないし……」


「あら、でも平常でも稼げるわ。お兄様なんて怪我人がいてやっと稼げるの。そんなの待ってられないのよ。それに無事が一番なんだから。お守り作りがぶきっちょで出来ないし、図書室で本を読んでないで稼ぐべきなのよ!」


「司書にでもなるんですか?」


「あら。それはどうかしら? 本の中にいたら読む方に集中してるからダメよね」


 疑いの眼差しでヘッジスさんの顔をナリミルさんは覗き込んでいる。


「あー、そうですね。一応アルバイトは紹介出来ますね。みかんの町で月の浄化を募集しますから」


「あら、みかんの町なら、直ぐ行けるじゃない。あれね? 毛魔物の織物加工に必要な人員ね?」


 さすがナリミルさん。直ぐに何のアルバイトか思い至ったみたいだ。


「はい。手触りアップが目標です。最後に光の浄化を仕上げに入れると艶効果が出るので、ヘッジスさんには是非!」


「ほら、お兄様。やっぱり不可欠よ?! 少しは蓄えを持てる身分にならないと紹介しにくいわ」


「う」


 追い詰められた様な顔のヘッジスさんに、追い打ちをかけるナリミルさんは楽しそうだ。


「そんな事でパートナーの件は決めなくていいです。アルバイトは暇なら来て貰った方が助かります。えと、紹介状を送ったので気が向いたらみかんな町の役所に行って下さい。出来たら知り合いも呼んでくれて良いです」


「そ、そうか。分かった」


 少しホッとした顔のヘッジスさんにフィトォラ経由で僕の紹介のメールを送った。


「良かったわ。お兄様にも出来る仕事があって」


「僕は今度、月光の属性魔法を習いたいです」


「えっ。知らないの?」


「はい。外ではそんな属性の魔法は聞かないですよ?」


「光の変わりに月光の属性を作っただけだ。普通に光と変わらない。光としては弱いし、基本は闇だ。闇を引き立てる月だな」


「違いは無いんですか?」


「夢を導く。悪夢から脱する為の光を届ける。影伝いにも使う。月の光りは反射だからその特徴を活かす」


「へえ、そういうのは知らなかったよ。学校とかで習ったりするの?」


「ええ。お兄様! ちゃんと基本を教えないと。常識から全く分かってないでしょ?! お兄様の責任だから!」


 ナリミルさんがお怒りだ。指をヘッジスさんの胸に突きつけて責め出した。


「大丈夫だ。素人用の講習はある」


 少しうろたえ答えているヘッジスさんの困り顔は今まで見た事無い。これは映像に記録しておこう。


「そうじゃなくて、今まで何を教えてたの! もうっ、知らないっ!!」


 とうとう癇癪を起こして店の奥に引っ込んでしまった。


「……頼りない先輩だったか?」


 少し反省しているらしいヘッジスさんが聞いてきた。そんなの気が付いた事も無いよ。


「どうでしょう。似たり寄ったりかも」


「それは無いはずだ」


 何故か嫌そうに言われてしまった。悲しい。まあヘッジスさんも抜けてる所があるよね。気をつけるよ。


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