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152 研究所

 ◯ 152 研究所


 所長曰く、ここの歴代所長は借金の額で決まるらしい。当然、僕は所長の座に座る事になった。見学は?


「御見逸れ致しました。ここの歴代所長の誰よりも借金が多いとは……大変なご無礼を。ここで所長を三百年程務めてますが俺を超える、いや、私を超える主はおりませんでした」


 ウェラージュさんに欠けたティーカップにお茶を入れられ、僕はそれを受け取った。床に穴の開いた所長室は実験室の真上にあった。真下の第三実験室は使い物にならないので封鎖になる。

 感動に震え、尊敬の籠った目で見つめられても何もでないぞ? 取り敢えず、この研究所では爆発を伴う危険な実験を引き受けるしか、再生の糸口が見つからない程の危機に瀕している事が分かった。

 僕は稼ぎに来たのに、借金仲間の面倒を見なくてはならなくなった。仕方が無い。所長として仕事を探しに行く事にする。幸いに知り合いが増えた所だ。

 だが、その前にやる事がある。さっきの実験室の爆発で実験設備は滅茶苦茶だ。第一、第二、第三どれもが破壊されている。そして、彼らはその事に関しては使えない人材だった。まあ、良いだろう。幸いにも僕はマシュさんのおかげで実験室の構造は分かっている。最低限を作る事にする。ついでに壊れた建物の修理をやる! それには荷物を運び出す必要がある。と言ってもガラクタが多そうだけど……。


「お茶を飲み終えたら、建物の修理に入るから庭にある小屋にここの物を運び出す!」


「お金がありません。修理は難しいかと」


「僕がやる。みんな手伝うように」


 みかんの町作りでもかなり頑張ったし、地上界での町作りも魔法陣だのの手伝いをやったしね。


「畏まりました」


「ところで、ここは二人だけなの?」


「後二人が名前だけ所属してますが、こちらへは三年程顔を出してません」


「じゃあ、いないってこと? 籍を抜いていいの?」


「はい。二年間来なかった場合は大丈夫ですね」


「じゃあ、そうしようか。連絡を送ってあげて?」


「畏まりました」


 皆で荷物を庭に運び、庭にある小屋に荷物を詰め、僕は建物を調べ構造をフィトォラに伝えながら、二人で補強工事の内容を考えた。石を積んだ建物は良いとして、床が腐りかけているのは不味い。ギシギシいうのではなくミシミシ言っているのは腐っているせいだ。

 床を消し去って、新しくする事に決め、外装を残して全部綺麗に消した。壁も石の壁がむき出しになり、やり易くなった。壁に付いていた小さな窓も少なく、中が暗かったのを改め、一階部分をせり出させて大きく改変し、所員の休憩所を作った。小さい給仕室もしっかりとした食堂に変え、応接室まで完成させた。

 一階の床は大きな一枚岩にしてやった。ゴージャスだ……。大理石とかは止めた。魔石利用の暖炉の方からの熱利用での床暖用の魔法陣を組み込んで、ちゃんと水はけも良いようにして掃除がしやすいように設定してある。これが一番大事だと思う。


「二階は半分は吹き抜けで、明かりを天井から入れ、残りをロフト風にして皆のオフィスにしよう。地下に倉庫を作って……うーんと、危険な実験は離れた位置の方が良くないかな?」


「はい!! 危険物取扱の実験室を作って下さいっ!」


 ウェラージュさんとコクホイドさんは嬉しそうに床を磨いている。第三実験室は庭の小屋の位置に作る事にした。小屋の部分は倉庫に、地下が実験室だ。大きな岩の中をくりぬいた様な実験室を作って、水晶の窓を嵌めて階段からあかりが少し入るように作った。これで大丈夫だろう。

 荷物を詰め直して壊れたティーカップなどは処分し、土から作り直した食器を食堂の棚に並べた。ちゃんとキッチンもあるから自炊もできる。倉庫に転がっていた魔石でコンロを作ったし、シンクには水も出るようにきっちりとしたキッチンができている。


「それで、何の実験だったの?」


 前所長のウェラージュさんに聞いた。次は冷蔵庫を作るつもりで魔石を漁っているが、見つからない。購入するしか無いようだ。


「何処かの魔力を増幅させる薬液の実験です」


 見せられたのは魔法力BOだった。


「これって……」


「この増幅変換を調べれば、うちもこの薬液の動力を作る事ができ、そうなれば一発逆転だ!」


 嬉しそうに言うが、あの爆発を見れば取扱の講習を受けてないのが分かる。


「扱うのに免許がいるはずだよ?」


「そんなの秘匿されて免許なんて無いじゃないですか」


「あるよ? 異世界間管理組合の資格受付に言えば資料が貰えて勉強出来るし、資格を取れば免状が貰えるから。動力を研究するならちゃんと……」


 顔には知らなかったという言葉がはっきりと書かれていた。無駄な努力お疲れさまです。何故、借金から脱出が出来てないのか分かったよ。高かったのにと魔法力BOを片手に固まって仕舞ったウェラージュさんから目線を逸らして、僕はここの本来のお守り作りと呪いの解除の仕事をする事にした。


「こんなのはみんな出来ますし、埒があきませんよ……」


 コクホイドさんは渋々ながらも呪いの解除に掛かった。


「いいんだ。お守りは作れるの?」


「まあ、少しは……お小遣い稼ぎ程度しか収入にはなりませんし」


 やる気の無い返事だ。ここで言うお守りは闇の力のお守りだ。闇の力を込めて護りにする。月の浄化でも良い。宝箱の内職と似ている。

 作るのは死神用のお守りではなく、灰影用のお守り作りだった。灰影用というと何となく気後れするが、お守りだと思うとちゃんと力を注ぐ気になるのは刷り込みのせいだろうか?

 灰影の世界の事を少し聞いた。


「灰色を教育して、死神になる事もある。ただし、向こうでの修行は長くて、ここに登ってくるのは少ない」


 層の中で死神の手伝いをする位置に立って修行するらしい。


「清濁どっちなのかというと、濁りというのが灰色達だ。ある意味一番人らしくて良いと思うぞ?」


「どうかな。なりふり構わず仲間を殺しておいて、何故自分は裏切られるんだと嘆くんだ。自分以外の影響を受けすぎて自分を見失ってばかりだ。哀れだと思うぞ?」


「だからこそ灰色なんだろ?」


「そこから学ぶ事で成長出来れば黒く染まらずにこっちに来れる。殆どは地獄に向かうけどな……」


 結局、人界と同じだ。少しダークな世界が用意されてそこで暮らしている人達がいるんだ……。本当の暗黒の世界に向かうまでの準備と捉えるか、こっちの光の世界を目指す為の世界と捉えるのか、それは当事者しか分からないけど、そんな世界が合う人も多いみたいだ。それで言うなら僕達の世界だって同じだ。


「悪神、邪神、灰色を多く選出しているかで評価が決まる。灰影になったら即、冥界に送り出して層行きの処分を言う世界も多い」


「灰色が多くいれば、それに引きずられて灰色になるって奴が多いのは仕方ないさ」


「それを止める為の覚醒者の魂が多くいると良いんだが、中々その辺りは難しいよな」


 そっか、灰影も多少の初心者なら残しているのは、まだこっちに戻る可能性があるからなんだ。小さな切っ掛けで良い。黒く染まる前ならまだ間に合う。

 こないだ受け入れた灰影達も、この先の地獄前の層に入るのを止めれるなら止めた方が良い。灰色に染まりながらも魂は周りに影響を及ぼし、覚醒しつつある彼らは邪神か悪神へと変わるかもしれないのは分かっている。

 だけど、灰影のまま何とか留まっているのだ。まだ誰かが引っ張ればこっちに残れるかも知れない。この死神の巣を超えて灰影の層へと向かうはめになるのかは彼ら次第だ。耐えれなければ記憶の処理を受けて灰影の層に送られる。

 そんな話を聞きながら、内職を続けて気が付いたのは、お守りが使い回しが多いってことだ。瘴気ですぐにダメになるから、金属ベースの中に月の浄化を込めた石やら結晶を嵌めてそれを使い回すのだ。皮のアクセサリーとかもあったけど少ない。


「金属が多いですね」


「人族の平均寿命が30くらいだったか?」


 ウェラージュさんがそんな情報をさらりと言った。随分短い様な?


「そんなもんだ。最近は20代だな。戦争をおっぱじめてたと思ったら、今度は死神を襲い始めた……境界線を超えようと躍起になっている。……灰色の協力者も次々裏切って、最近はかなりの被害がこっちにも出ておかしいってみんな言ってる。もしかしたら、一度破滅させる手入れがあるかもしれない」


 コクホイドさんは耳上の鬼の角の根元を掻いている。意外にも年は元所長よりもコクホイドさんの方が年上だ。鋭い目つきだが、眼鏡の黒い縁のせいかそんなに怖く感じない。


「記憶の削除を全員に科す究極の層管理だな……未だかつてニ度しかやった事は無いと聞くが、やる可能性が出てきたな」


「そんなのがあるんですか?」


「まあな。だが俺達下っ端には関係ない。借金を返せない様な能力じゃ、何もできない」


「戦闘とかは全くしないんですか? 先輩は」


「後方支援組だな。それも後方支援の下っ端の更に下っ端の底辺が俺達だ。手に職を付けようにも金がいる。しかし、借金が膨らんでそれもままならん」


「ところで、ここの研究所自体の借金は?」


「とっくに何処も貸してくれないからいつも自腹だ」


 自慢げに言わないで欲しい。


「へえ。じゃあ借金自体は無いんだ?」


「先、先代の時代からしか知らないが、その時代から自腹の伝統だ」


「希望が湧くね……」


 返済しなくていいなんて素敵だ。


「この状態でそんな夢を見れるなんて……さすがだ」


 コクホイドさんには呆れられたが、僕としてはこんなの借金に喘いでいるうちに入らない。まあ、トーブドンモ協会には何やら支払いがあるらしいが、所属しているとなると何かあるのは分かる。


「これだけの建築能力だ。これを活かせば資金が溜まりそうだぞ?」


「そ、そうか! 確かに良い案だ」


「そんな都合のいい仕事があるの?」


「探そう。何処かにあるはずだ」


「その前に、殺風景だから、ソファーとか置こうかな……」


 建物の外枠ができたけど、前のソファーはへたってしまって座っても痛いし、何より中の木枠が折れていた。テーブルやら椅子もアーンティークを通り越してガラクタだったし、修理出来る範囲を超えていたので全部消した。


「その前に稼ぎたまえ! 後輩よ」


「手作りだよ。インテリアとのセット売りとかどうかな?」


「うおおっ。後光がさして見えるっ!」


 泣かなくて良いんだよ?


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