15 専門
◯ 15 専門
「そうね〜。結局はあたし達は専門じゃないってことよ」
「悪神、邪神に対してや、それに準ずる者に対する心構えがなってないってことだね。中途半端に対峙してきたことが逆に今回のことに繋がったのは反省しないとダメだね。戦闘の経験が多いマリーが言うくらいだから、ボク達じゃ対処出来ないね。……管理組合だって専門って訳じゃないし、結局は死神達だね」
レイは顎に手を添えてじっと視線を床に向けていた。残虐な手口を読み切れない僕達には、彼らの相手をするのは専門に任せるしかない。
「そうなるわね〜。まあそこはアキちゃんがコネを作ってくれてるもの、何とかなるわ〜」
マリーさんは暗くなってる場を明るくしようとしたのか、楽観的な発言をした。
「そうだね。こっちも分析はしてるんだよね?」
レイが少しホッとした表情で首を傾げてマシュさんに聞いた。
「まあな。だが、対応策となると細かいところでは難しい。思っても無かったことで後遺症が出たり、手が出せない幼い襲撃者を使ってきたりと、卑劣な行為が目立つ。これに立ち向かうなんて普通の神経では無理だな。よっぽどこれと同じ卑劣な戦闘脳を持ってないと難しい」
マシュさんでも思いつかない酷い手を、当然のように使ってくる相手だと確かに手に余る。
「卑劣な戦闘脳ね。それがキーワードね〜?」
僕とレイはガリェンツリーにある神界の会議室で同時に首を傾げた。浅井さんは目の前で成る程と呟いている。
「根本から違うものだと思って掛からないとダメなのよ〜」
「卑劣さというか、そういう手を使うのが普通なのが彼らだ。それが常識になっていて、そのことを糾弾されるのが分からない類いだな」
「……種類が違ってるくらいの差だね?」
「それはなんとなく分かりますわ」
アイリージュデットさんも頷いている。
「違和感というか異物感はあるよ?」
レイも悪神に対してはそんな感じらしい。その感覚はなんとなく分かる。
「うん。悪魔がみかんの中間界に入ってきた時はそんな感じだったよ」
「悪神はどうだった?」
レイが確かめるように聞いてくる。
「……悪魔程じゃないよ? そんなには感じなかったかも、悪魔がインパクトが強くて」
「アキちゃん達はそんな感じなのね。あたし達なんて気配で敵だって思うんだけど、元が戦闘脳ですらないから二人とは違う感覚ね〜。特にアキちゃんは人と争うのは難しいみたいだし、これだけ戦闘の訓練をしてもやっぱり敵をやっつける感覚が分かってないのよね〜」
マリーさんは溜息を付いて残念そうに僕をちらりと見た。
「戦闘脳の教育は失敗だな? だから無理だと言っただろう。おめでたい脳みそなんだ、無理に変えない方が良いぞ?」
マシュさんは訳知り顔でそんなことを言う。
「本当ねぇ。死神なんだから少しは、と思ってたけどちっとも戦いには目覚めなかったわ〜。連携とか頑張ってたから手助けしてたのに、さっぱりなんだもの〜」
「うう……」
申し訳ない……でも訓練はそれなりに楽しかったと思う。というか、スフォラが主に強くなったと思うよ?
「無駄じゃなかったはずだよ。新しい種属があれだけ強いのは多少は受け入れているからだよ。二人がどれだけ力を込めても、アキの動力が掬い取れなかったらあんな力は持たせれなかったはずだからね?」
「成る程、そっちに出たのか……。そう考えたら納得だな」
「そこまでは考えられなかったわ〜。無駄じゃなかったのね〜?」
「アキの力は周りを良くする方に向くからね。外に出る力は他とは違う形で出てるんだよ。十分ボク達の助けになっているよ」
何か分かったように全員が頷いている。これはそんなには悪い結果じゃなかったと思っていいのかな?
「じゃあ、訓練は続けた方が良いわね〜」
「どのみちスフォラに訓練が必要だしな。ある程度は護衛としての動きが出来てると、またオプションに入れれるしな。やはり操られるところまで行くと嫌がる者が多いからな……信用をまずは高めないと適切な動きが取れない。モニターも集まりにくいのは問題だ」
「また新しいのを考えてるの?」
どうやら研究を進めて新しい商品を出したいみたいで、マシュさんは腕を組んでうーん、と唸っていた。
「戦闘時の体の主導権を譲るというのは、一般人だと嫌がるというデータが揃っている。が、突破口として護衛として存在して、そこから信頼を得れば意識の無い緊急時の移動くらいは任せてもらえるはずだ。ここがネックでな……アキはすぐに頷いたが最近やっと理解が出てきたところだ」
「ディフォラーのこともあるし、全て譲渡するのではなくて一部は融合させてる形だから意識もあるし、話すことは出来ると説明した方が、受け入れ易いんじゃないの? ボクもあの感覚は慣れないうちは理解しててもちょっと嫌だったかな」
レイが苦笑いしている。
「うーん、レイの言う通り中々受け入れがたいのは仕方ないんだが……研究としては美味しい。一般人には受け入れがたい、というのも何となく分かるがなんとかしたい」
受け入れてもらえる方法を考えてるみたいだ。
「いっそのこと『ディフォラー』を犯罪区画から卒業する為の実験にするとか? 監視ではなくサポートに切り替える為の準備にすれば?」
「中途半端にやるよりは、アキぐらいどっぷりやった方が良いんだ。『ディフォラー』は動きを止めるだけだからな、今のところ許可が出ているのは。動きを付けるまでは至っていない」
モニターである僕の状態は余りない状態らしい。
「マシュさんとか、研究者が危険地域の調査に行く為の補佐じゃないの?」
聞いていたのはそんな使い方だったはずだ。研究員のマシュさんでもオレンジの湿地帯にマシュさんの『スフォラー』のガレに頼めば入口までは行ける程だ。
「それも言っているが、意識融合で研究内容を奪われるとかの心配をするからな……うちの研究班はそんなことは無いって分かっているから全員やっているが、それだけだと安全性を証明する為の人数が足りない」
「まあね。『ディフォラー』も重犯罪者には入れることは出来るようになったけど、軽犯罪者には拒否権が与えられてるから思うようにはデータは取れてないみたいだし」
「重犯罪者は借金を払わずに大体は解体されてしまうからな……」
借金を返すよりは、記憶の削除とか神格の剥奪をすることで逃れる者が多いみたいだ。全員が頭をひねっている。スフォラの便利な機能をアピールするにはどうすれば良いんだろうか? 護衛としてとか信用をとか言ってたから……。
「訓練用にするとかは? え、と、新人の戦闘員の動きを矯正するとか? 僕が走って逃げる時の分体が良くしてくれる誘導とかすごく助かるし」
「あら〜、それなら行けるかもしれないわね〜。妙な癖を取るなら期間限定で集中特訓とかありよね?」
マリーさんが笑顔でブートキャンプ的なものを提案をした。結局は地獄型ダンジョンと似た発想だ。
「期間限定ならその間に売込みもありだな?」
良い笑顔でマシュさんが笑った。
「自身が強くなると分かるなら出し惜しみはしないわね。戦闘系から攻めた方が意外と早いかもしれないわ〜」
「知名度と安全性がアピール出来るならその手を使うか……口コミで広がる方が意外と早いからな。使用の感触を聞くのも戦闘職なら解答のレベルが高いだろうしな。普通の人間よりも危険の多い戦闘員の方が理解は得られるかもしれない……」
ぶつぶつと呟いているマシュさんは新しい機能を持たせたアシスタントタイプの『スフォラー』の開発と売込みを考えている。僕がスフォラの分体や、本体に入って戦闘地域で活動しているのを応用して、非戦闘員でもレベルの低いダンジョン内に入って、研究対象を観察するとかが出来るようなものを開発したいみたいだ。
もしくは組合員の護衛として付けたりと色々考えているみたいで、商品化にあたっての『スフォラー』と利用者の距離感を探っている。うまくいけば、利用者も増えるから単なる生体端末としてではなく、仕事のサポートから護衛としての役割にまで広げていけるので期待は大きい。
少しずつ『スフォラー』の認識が変わって行けば取り替えの利かない大事な仲間としての存在に上がるはずだ。僕なんてスフォラ無しじゃ戦闘関係はさっぱりだし、スフォラが死神でも良いと思うくらいだ。
マシュさんもそれを分かっているのでなんとか地位向上を狙っているんだと思う。
もっとも、受け入れる方の意識も道具として使う気でいると足下をすくわれるから、合わない人はこの機能は使えない。『スフォラー』にも、ちゃんと心があるのだから、見捨てられてたら密なサポートはしてくれないのだというか出来ない。うまが合わないとは、波長が合わないってことだから意識融合も出来ないし、最低限はそこになる。だから信用関係の構築を考えている訳だ。実験がうまくいくことを願おうと思う。




