138 告白
◯ 138 告白
「す、好きです。付き合って下さい」
「あ、えっと。え? ぼ、僕?」
ただいま告白をされました。日本は夢縁の時計台前、季節は十二月に入った。けど、これはとうとう春が来た?! 可愛い女の子だ。小さくて細くて色白で正真正銘の女の子だ。
彼女はモジモジっとしながら頷いている。明日は吹雪に違いない。
「嬉しいけど、いきなりは無理だよ。まずはお友達に……」
大きな目を歪めて悲しそうな顔をした。だけど、名前すら知らない娘だ。相性だって分からないし、舞い上がってしまいそうで怖い。というか、後ろの女性達の視線が……プレッシャーだ。何だろうかあれは。
目の前の告白をしてきたグラスグリーンのブレザーを着た女の子が、涙目でこっちをじっと見つめてくる。
「無理を言ってごめんなさい。そうですよね、私なんてダメでみそっかすだし。先輩の隣なんて失礼ですよね……ゴメンなさい」
言いながら目から涙が溢れ出した。苦しげに唇を噛んで感情を押さえて耐えてる表情を見せつけられた……。見せつけられたと思うのは、彼女の妖気が僕の精神干渉をしようとしてきているからだ。さっきからさりげなく防護中だ。すごく薄らとだけど上手に、このどさくさに紛れての干渉だ。
本人はとても真面目な感じだけど、妖気の動きが本心を現していると思う。相手をコントロールしたい妖気の持ち主には、時折こんな感じに精神支配をしてくる人がいる。無意識にやっていると言っても言い逃れ出来るくらいの薄ら干渉だから、対応には気を付けなくてはならない。
しかし、困るのは後ろの集団までもが似た様な気を飛ばしてきている事だろうか……。グラスグリーンの制服よりは普通のブレザーの人が多い。こっちも入れると団体なので薄らとは言わない気だけど。しかもこの状況で断るとか恐ろしい。折衷案が正しい気がする。
「すごく、可愛いし、みそっかすなんて……そんなの思わないよ」
取り敢えずは目の前の女の子と話をする。
「うれしい。やっぱり見た通りに優しいですね。じゃあ、少しは考えてもらえますか? あ、良いんです。お友達になれただけで嬉しいです。そ、その……その内先輩の横に並べるように頑張るので、そばにいさせて下さい」
涙をハンカチで拭ってはにかむように微笑んでいる。その後は俯きつつ、遠慮がちにこっちをちらちらっと伺うように健気な事を言われた。
「……」
生きた人に幽霊と付き合うとかは無理だと思う。いや、精霊だった。だけど、地球……夢縁では幽霊も同然だ。そもそも彼女と付き合うのは無理だ。彼女の理想の彼氏に改造はされる気はないからね。
だけど、それよりも僕はアストリューの人間なんだと、はっきりと自覚した。そこに後ろの女子集団の中の一人が飛び出してきた。
「何とか言いなさいよ! 折角あかりがコクってるのに。こんな可愛い子、他にいないのにっ! 男なら即答でしょ」
一斉に後ろの女の子達が頷いた。そんな無茶な。
「由衣子ちゃん。ち、違うよ。私の言い方が悪かったの。責めないで?」
「もう、お人好しなんだからあかりは……」
「え、と。ごめんなさい」
謝っておこう。頭を下げてお断りをした。
「え?」
「付き合えません。お友達としてなら歓迎ですが、それ以上はすいませんが難しいです」
顔を見てもう一度伝えた。それから頭を下げておく。
「何様?!」
「あかりちゃんを泣かすなんて! 女の敵!」
何か酷い言われ様だ。彼女のこの気に当てられてたら、守ってあげたくなる様な気持ちになるのかも知れない。母性本能を引き出しているんだろうか? 一種の才能かもしれない。この中にいたら常に甘やかされてそうだ。それもなんか怖い。
ほんのちょっとこんな風にしたいと言うだけで良い。希望は叶う。周りが助けてくれる。僕と同じだ。甘やかされてる。多分僕よりも世話焼きな木尾先輩とかの方が良さそうだ。調度、ロリにほんのちょっとよっている容姿だ。木尾先輩の圏内じゃないだろうか……。ただ、後ろの方々は持ち込んじゃダメだけど。
「みんな……ありがとう。でも、いいの。わたし、ふ、ふられちゃった」
ぼろぼろと涙を零して皆に甘える姿も、なんだか似ている気がする。すごく嫌だ。これが同族嫌悪だろうか? 自分の弱さを見ている気がする。
少しは違うと思いたい。彼女はこの状態からは抜け出さないとダメになると思う。もしくはレクタードさんのように、周りに与えている影響を少しでも回収する努力をして欲しい。
周りの女性達の攻撃的な視線に晒されながらも、僕はそんな事を考えていた。
夢縁を出て夢の中で受け取った思いは、自分の憧れを体現している、あかりという女の子に向けた複雑な感情だった。
怒りながらも感謝しているのだ。彼女達が世話をする事で守っているという連帯感と、嫉妬の矛先でもあるあかりという女の子の容姿。そして、守る先を奪われなくて済んだ事と、容姿だけで選ばなかった僕を認めている心。性格も健気で可愛い彼女をふった事に対する怒り。全部が綯い交ぜで、気分が悪くなるくらいにそれらを押し付けてくる。
彼女はこの集団ごとが本体だと思う。他人の意識に干渉しているなら、あれは全部あかりという人が作ったものだ。
「はあ。何で僕を選んだんだろう」
目が覚めたので、独り言を呟いた。
「アキ、おはよう」
紫月が朝の挨拶をしてくる。フィトォラもすぐに駆け寄ってきた。
「おはよう紫月、フィトォラ、ビクトゥーム」
今日も皆可愛い。昨夜の護衛のビクトゥームにも挨拶した。
「アキ、おはよう。朝食の用意が出来ているようです、階下に行きましょう」
「うん。ありがとう」
何処の坊ちゃんだと言わんばかりの待遇だ。僕も甘え過ぎなのをなんとかしなくてはならない。顔を洗ってから朝食を食べつつ、皆の事を考えた。




