14 人外
◯ 14 人外
「アキさん、嗅いだ薬品は随分後遺症の残る類いだったようです。随分酷い物で、人だったら二度と立ち上がることも出来なかったかもしれない物です」
神界に自力でもどれなかった僕は、メレディーナさんに診て貰いに直ぐに運ばれた。
「ちっ、だから五日は時間を掛け過ぎだって言ったんだ」
マシュさんはご機嫌斜めだ。大事な検体に傷を付けられては困ると、仕切りに眉をひそめている。
「総攻撃を掛けたからね。時間が掛かるよ。向こうも一人の天使にこんなことをするとは思ってなかったみたいだけど……まさかボクもそんな薬を使ってるとは思ってなかったよ」
レイも困惑気味だ。
「相手を信用するのは良くないですわ。そもそも殺してしまっても気にもしない相手が、後遺症なんて気にしませんから」
メレディーナさんは厳しい口調で事実を告げた。
「確かにその通りだな……呑気なことは言えない。アキを先にかっさらってから理由は後付けで襲っても良かったじゃないか。大義名分なんて要らないだろ?」
横目でレイを責めているマシュさんだが、レイも拗ねてしまっている。
「一応は必要だし?」
唇を尖らして意地を張っている。レイにはレイのこだわりがあるみたいだ。
まあ彼らと同じにはなりたくないよね。分かっていても出来ないというか、同じ手は使いたくはないだろうから分かるよ。
でも、僕に対しては後悔の表情が見える。読みの甘さを自分で責めてそうだ。目の端に浮かんだ涙がそんな事を語っている気がする。
「まあまあ、終ったことです。反省は各自でしっかりやって下さい。病人の前です、そのくらいにしてお茶でも飲んでゆっくり話し合われた方が良いでしょう」
「うん、一緒に倒れた人は大丈夫だったの?」
「実行犯は、奴隷だったよ」
「また使い捨てのように人を使いやがって。子供だったしな」
二人とも表情が浮かない顔だ。
「子供では抵抗が出来なかったのでは?」
メレディーナさんも小さく震えながら眉をひそめている。
「ああ。その場では死にはしなかったが、後で殺されてたから……死体が出てきた。アキの体を回収すると同時に殺したんだろう」
「スフォラは本体はその時は……」
「危なそうなその薬品を結界で覆うのに力を使っていたからな、アキが命じたんじゃないのか?」
「あ、そうだったかな? ううん、危ないから隔離しないとは少し思ったけど、命令はしてないよ。その前にに気絶したし」
「ということはあれが町中に充満するのを防いだってことか」
マシュさんはちょっと嬉しそうな顔だ。
「大活躍だね? スフォラ」
褒めたら嬉しそうな、当然と言った感じの感情がきた。うん、大勢を助けてくれたんだね。近くを通った人が二次災害に遭うのを防いでくれたんだ。
だけど、それを狙って僕の体は攫われるはめになったのはちょっと複雑だ。実行犯も二人を揃えてそれぞれに揮発性の高い毒物を持たせて襲ってきたのだから質が悪い。
僕の周りにまき散らした毒物の処理をどうしてもやらなくてなならないのだから、計画の残虐さに目眩がする。
「スフォラに魔法攻撃があったんだ。その間にまんまと攫われたが、分体ごとだったからな。直ぐにどうこう出来ないと踏んで殲滅作戦に踏み切ったが、少々時間が掛かったのは仕方ない」
「相手が強かったの?」
「まあね。力を奪った後は、配下に与えることも出来たみたいだからね」
「そうだったんだ」
僕と似た力だ。いや、そっくり同じかもしれない。使い方次第では危ないという事だ。気を引き締めておこう。
「奴隷達の力を奪って生きてるから随分力を溜め込んでたのよ〜。ちょっとだけ手こずったわ〜。生け捕りにする気だったし、力を削ぐのに時間が掛かっちゃって……力を封じる鎖を用意してからの方が良かったわ〜。途中でマシュがあの鎖を届けてくれなかったら、もうちょっと時間が掛かったかも知れなかったの〜」
マリーさんは既に涙目だ。僕の様子に後悔しているのが分かる。
「僕は気絶してたから分からないけど、五日も寝てたら危なかったよね」
分体に入っていたおかげで、飲まず喰わずでも何とかなってたみたいけど、次は遠慮したいよ。
「アフターケアはされてなかったから、ポーションを飲ませたのよ〜」
「酷いよね」
レイはその事には不満を持っているみたいだ。人質としての扱いがなってないと苛ついている。貴族達を襲い始めてからは、僕の事は人質として管理されると思っていたのにあてが外れたと怒っている。
「弱らせれば力が奪えると思ってたみたいだけど、実際にはあのスキルと術の効果では奪えないよ。目玉をえぐり取って神格のある者が使うなら分かるけど、彼らでは扱えないね」
嫌な事を聞いた気がする。
「神力って奪える物なの?」
「大抵は無理だね。神力は固有の物だし、同じ力でも個性があるように使うのは難しいよ。取り出しても劣化するのは当たり前だし、下手をしたら自分が力に飲まれることだってある。力=本人だと思って良いんだ。神格があっても難しいから分かってる者は誰もやらないよ」
「力と本人は同じなんだ」
「神力は特にそうだよ。念いに添って発現させる物なんだから、念いを取り上げるなんて悪神でも無理なんだ。だから彼らは魂ごと取り込もうとするんだしね……」
レイが難しい顔をして頷いている。念いごと取り込もうとするんだ。でも欲しい力にはならないし、取り込んだ者の力は本人の念いの力にしかならないし、悪神には動かせなず掴めない力だから意味は無い。力が増えた気になるだけだ。
「時々、諦めさせて使わせなくしようとするけど、そんなことで消える念いなら力になる前に念いごと消えるしね。それだけ魂に刻まれた念いを消すのは難しいんだ」
「それで彼らは本当に道路工事をしてもらうの?」
街の外壁やら公共施設やらの土木工事も含めて計画が立っている。
「……取り敢えずは半分は復讐鬼達に渡す約束だからね」
「いつの間にそんなの約束したの?」
何か取引があったんだ。僕の知らないところで色々とやってるんだから!
「まあ、怒らないでよ。ちょっとした実験だよ」
「怒ってないよ。拗ねてるだけだから」




