134 趣味
◯ 134 趣味
加島さんが倒れたと聞いたので、向かったら既に日本に帰っていた。霊気酔いしたらしい。元々霊気が扱えないのだから無理をしたらダメだ。成田さんも気分が悪くなって一旦帰ったと聞く。そんな中、木尾先輩がアストリューに来た。
「なんだ。加島の奴、倒れたのか……ちょっと長くいすぎたんだな?」
木尾先輩はそんな風に言った。
「張り切りすぎたって苦笑いしてたよ」
成田さんも気分が悪くなった時にすぐに帰っているので、倒れるまでは至って無い。僕の忠告を素直に実行したおかげだ。
「意外と脱落者が多い。というか長期戦だって皆が言ってる。俺もそう思う。週末だけこっちに来るのが正解だ」
木尾先輩が分析結果を上げた。
「千皓君は最初はどうしてたの?」
沖野さんが聞いてきた。
「え、と、僕は霊気特化だから倒れるのは無かったよ」
「そうだったな。つまり、俺達に出来る瘴気を操るとかは出来ないだろ?」
木尾先輩が沖野さんの、ずるいと言ってる顔を見て補足してくれた。
「そうだよ」
「そっか。そういうデメリットもあるんだ」
沖野さんがハッとして答えに行き着いた。目でゴメンと謝ってきたので気にしてないと返した。
「それで木尾先輩は料理は覚えたんですか?」
「ふっ、俺に出来ない事など無い!」
「おおー。先輩! 頼もしいです!」
成田さんが喜んだ。心の底からの嬉しそうな笑顔を見せている。が、その隣で妖気を漂わせている存在がいた。
「もうっ! わたしのサンドイッチもおいしいって言ったじゃない!!」
「買ってきた総菜を挟むだけだろ? いたっ!」
「優基のバカーっ!」
「うごっ、がぁぁ……」
締め付けられているらしい成田さんの姿は、イケメンが台無しだ。
「最近、成田さんってマゾっ気があるんじゃないかと疑ってるんです。どう思います?」
とばっちりが来ないように、少し離れるよう避難した僕と木尾先輩はこそっと話し合った。
「俺もそんな気がしてきた。いいか、その趣味はそっとしておいた方が良いと思うぞ」
「分かりました。突っ込みは止めときます」
僕達は頷き合った。取り敢えず、木尾先輩にも大量のご飯をプレゼントしておいた。こっちの美味しいレシピも紹介したけど、作るかはまでは分からない。魔法が使えないと難しい物があるのだけど、木尾先輩は火の適性持ちだから頑張って欲しい。
「ねえ、千皓君! こないだすっごいイケメンと歩いてたでしょ〜? あの人、誰?」
「え?」
「キラキラオーラの甘そうなカラメル色? ほんのり赤みの入った金髪の人と歩いてたよね?」
「カラメル色……金色の目の人?」
「確かじゃないけど、すっごい王子様顔の甘ったるい視線の……」
「金の甘王子?」
「そんな感じ〜!」
ぱあっと明るい笑顔には期待が籠っている。沖野さんのこの反応はどう見ても成田さんへの制裁な気がする。ま、まあ地雷の踏み過ぎは嫌われるからね。成田さん、睨んじゃダメだよ?
「そうだね、彼はとある世界にある、とある国の公爵様だよ。会っても粗相の無いようにしてね?」
「げっ、無理だ〜」
頬を両手で覆って首を振った沖野さんは、本気で引いた。
「愛美には無理だなっ! 俺くらいで調度いいんだ」
腕を組んで負け惜しみを言っている成田さんは、表面上は笑っている。
「むうっ。そんな事無いもん! 千皓君、他にはカッコいい人いる?」
「えーと」
僕は期待の籠った沖野さんの目と、成田さんの嫉妬の詰まった睨みの目の間で悩んだ。
「何処かの世界の皇子とか?」
しかし、あのレクタードさんの対抗馬というと、ヴァリーしか出てこなかった。
「もうっ、千皓君の意地悪!!」
成田さんは良し、とガッツポーズした。沖野さんの不機嫌はしばらく続いたが、甘い物を奢ったら何とか不機嫌顔は引っ込んだ。温泉街の甘味どころで、しっかりと糖分を補給した僕達はまた会う約束をして別れた。




