132 祝福
◯ 132 祝福
神殿の入口から王宮へと飛竜で飛ぶ。この日は転移装置は使わずに向かうのが習わしだとか。二人だからヴァリーが手綱を取る気で竜舎に向かったら、三人の従者が現れてそれぞれ用意をしてくれていた。
「トーヒュ……ガラン、スーシン……」
ヴァリーが泣きそうかもしれない。
「共にお連れ下さい。……断られても付いて参ります」
膝をついた三人がヴァリーを見上げている。
「皆の忠心、受け取ろう」
「ありがたきしあわせでございます」
全員が頭を下げた。
「皆が帰りをお待ちです。どうぞ、ご友人も」
少ししてから声を掛けられた。意地を張ったくせに、それでも来てくれて泣いてるどうしようもない主人のヴァリーが、背中を向けてる間中待っていたせいだ。従者の方が良く出来てるから心配はないと思う。皇宮へと飛竜で向かい、ヴァリーは嬉しそうだった。
「意地っ張り……」
「うるさいな」
「まあ、ヴァリーじゃ、従者の方が支えるのが大変そう。思い切って頼っといた方が良いんじゃないの?」
「……」
ものすごく怒っている顔で睨まれたが、ヴァリーも思い当たるのか、頭が上がらないと小さく呟いた。成る程……。この騒動にも、女性陣の活躍が裏にありそうだ。ヴァリーと同じ髪色のあの方とか、ヴァリーと同じ目の色のあの女性とか。
「ヴァリー、髪の色が変わったね?」
ふと気が付いた。
「え? 本当か?」
顔色も悪く自分の毛先を見つめて、冗談はよせと言う。光を受けると白銀に輝くのは同じだけど、その輝きの一部に色が付いている。綺麗なプリズムが返ってきてる気がする。
「えーと、同じだけど、色というか返ってくる光がほんの少し?」
訳が分からなそうな顔でヴァリーは首を傾げてまた見た。
「何かされたからあれのせいか?」
ラークさんがヴァリーに神力酒を被せていたのを思い出した。あれのせいかもしれないと、ヴァリーと話をした。
一時間程で王宮に着いたので、ヴァリーは飛竜から降りて、従者二人と一緒に無事に儀式が終わった事を陛下に報告に行った。僕ともう一人の従者は、ヴァリーの報告を外宮殿で待っていた。
従者の話ではこっちの方で、家族での夕食会があると言う。祝ってもらうみたいな感じだろうか?
オアシスには明日の朝向かうというのを聞いているので安心していたら、夕食会に招かれた。げ、大丈夫だろうか……。
「従者はおられますか?」
スーシンさんに恐る恐る聞かれた。
「え? どういう意味?」
どうやら食事にも従者を連れて行くのが正式だとか何とか言っている。出来れば二人は欲しいと……。自分だけだと難しいとか言っている。
「ダ、ダラシィー、出来る?」
黒猫姿から猫獣人化して僕の隣に立った。
「教えて頂けましたらすぐにでも」
「護衛だけど、何でも出来るから。彼に教えてもらえる?」
「なんと……猫だとばかりに思っておりました。ケット シー精霊様をお従えになっておられるとは。大丈夫です、精霊様には誰も作法を言いませぬから」
何か誤解されたけど、ここは都合よく黙っていよう。何故か膝をついて畏まられてしまったが、ここではそうなのかもしれない。
「そ、そう?」
「精霊様を従えている方にも同様です。お好きにして下さい。私は何をすれば良いでしょう?」
「え、と、案内と手順の説明を行きながらお願いします」
僕達は進み出した。
「出来ましたら、ケット シー様は先ほどの変身を皆様にお見せすると疑われないかと。それでしたら、スムーズに進みます。お祝いの場に精霊様がおられる事は縁起の良い事です」
従者はニコニコしている。ま、まあ、僕がそうだから間違っては無いか。従者にあれこれ聞いて、内宮殿へと入った。ダラシィーには猫に戻ってもらっている。内宮殿からは案内役の方が前を歩いて行く。
案内された部屋に入る前にショールを預けて中へと入った。皇を中心に五人の皇妃が並び、そのまま円形に下席に向かって皇子皇女が揃っている。大注目の中、ダラシィーが変身して立ち上がり、口を開いた。
「今宵はお招きありがとうございます。主人のアキにございます」
「家族での宴に入れて頂くなど恐縮です。お礼にこちらの妖精のお酒をお納め下さい」
マシュさんの手から守る為に持ってきたお酒が役にたった……。ダラシィーが樽ごと出して三つ重ねた。
ダラシィーが変化した瞬間に、睨んできていた皇妃の何人かが目を見開いてから、視線を逸らしていた。常識的には精霊にその視線は不味いよね。
「うむ、祝いの席が盛り上がる。ネラーラの助言で呼んでよかった」
目尻に皺を寄せて嬉しそうな皇様の顔を見て少しホッとした。
「はい。アキ様を御呼びするのは、神々に誓って間違いはございませんわ」
「そのようじゃ。ケット シーをお連れするとは……ちゃんと紹介はしてもらえるじゃろ? ヴァリート」
興奮気味の皇様に、周りの従者と料理を運ぶ使用人達が慌てている。
「はい。父上」
今日の主役だからか、ヴァリーはセスカ皇子の隣だ。急遽席が入れ替わった。その間ヴァリーが僕を皇様の前に連れて行って紹介していた。セスカ皇子とも仲が良いのだとも……。テレサさんと第三皇女と第五皇女も面識があるので微笑んでおいた。第二皇子のセスカさんと一緒に住んでいる第六皇子と第八皇女とは、ちらりとしか会った事が無い。僕はヴァリーの隣になった。
お酒はその場で料理に合うか味見がされて、直ぐに振る舞われた。僕が席に着くと同時に、皇様がヴァリーの成人の祝いの言葉を告げて食事が始まった。皇族が全員集まってのこういう席って、年に一度か二度あるくらいならしい。
「アキ。久しいな」
蒼い瞳を向けてセスカ皇子が声を掛けてくれた。料理が運ばれてきて従者が受け取り、皇族達に渡して行く。テーブルが無く、小さな台の上に従者が料理の乗った盆を取り替えて行く形だ。
座っている床置きの低いソファーの後ろにワゴンがあるのは、そこから従者が食べ物を渡す為だったらしい。二人いるのは料理を受け取る係りと、世話をする人の二人がいた方がスムーズだからだ。疑問が解けた。皆、ソファーの上であぐらをかいている。女性は横座りだ。
「セスカ皇子。お久しぶりです」
「最近は見なかったが、顔色は良さそうだ」
「セスカ皇子も。ヴァリーが届けてくれてたと思いますが、魔結晶は足りてますか?」
「うむ、足りておるぞ。それはそうとアキが植えた木が随分育った。見に来ると良いぞ」
「そうでしたか。今度伺います」
「待っておる。ヴァリーも一緒に来ても良いのじゃぞ?」
「兄上、手料理を頂けるなら。アキには振る舞ったそうじゃないですか」
「何じゃ、拗ねておるのか。成人したのにこれではの……迷惑かけておらんか?」
「お兄さんにだけは甘えるよね、ヴァリーは」
「そうなのか?」
「そうですよ」
そんな話をしながら時間が過ぎて、祝いの夕食は終って飲み会? に移行した。ダラシィーが気を使ってお酒からはアルコール分を抜いてから、僕に渡してくれているので、酔っぱらっていない。
いや、ダラシィー様、ありがとう。今日の主役はダラシィーな気がする。他の皇族やら従者は皆、ダラシィーの動きに注目している。
「楽しいひとときをありがとうございました」
そろそろお開きという事で、皇様が部屋に戻る事になった。お礼の言葉を告げて、僕はアストリューのお辞儀をした。
「その礼は神殿での神官に時々……いや、聞かないでおこう。こちらも良い席になったのを家族共々感謝している。またこちらにもよって頂けると嬉しい。客人の酒は誠に良い酒であった。寿命が延びる気がした。礼を申すぞ」
満足そうな顔をしたヴァリーのお父さんはまだ残っている樽を見て、嬉しそうに目を細めた。これはかなりの豪酒と見た。そしてまた来る事を約束して僕達も戻る事にした。
ヴァリーとセスカ皇子と、王宮の庭が良く見える回廊を進んで部屋へと案内に付いていく。途中でセスカ皇子は別の宮へと向かい、僕達は同じ宮へと向かった。
広い内部を進み、迷子になりそうな気がしてきた頃、客室へと着いた。ヴァリーと明日の朝会う約束をして部屋の中へと入った。
「ダラシィーありがとう。大活躍だったね。疲れてない? 一緒に休もう」
「はい。まずお召し物を変えましょう。従者の仕事も面白いです」
「後でブラシしようね?」
ダラシィーにはてきぱきと寝室の用意をされて、僕はフィトォラにパジャマに変えてもらって魔法で綺麗にしてもらう。先にフィトォラの毛を整え、ダラシィーの毛を整えている途中で記憶が途切れて朝になっていた。まあ、いつも通りだ。
「あの、昨夜は明かりをお使いになってませんでしたが、お使い方が分からなかったのではと、その……」
ガランさんが言葉を濁しつつ心配をしてくれた。朝食を運んでくれているので、ヴァリーも食べてそうだ。
「あ、大丈夫です。夜も良く見えるので」
「は、そうでございましたか。ご無礼をお許し下さい」
「問題なかったよ。ありがとう」
「ご朝食が終りましたら出発を予定しておりますので、ご用意をお願い致します」
ガランさんがダラシィーにこの後の予定を伝えた。それによると、翼竜に乗ってテレサさんとネラーラさん二人と一緒にヴァリーの宮殿に向かう事が決まっていた。大体、明後日の昼には着き、宮殿の者が用意している宴に参加となっている。既にホングも現地に向かっているのを聞いている。真偽者は神殿の中でも翼竜を使える位置にいるらしい。
昨日はこれなかったホングも参加予定だ。
「朝から豪華だね……」
砂漠の近くとは思えない朝食だ。水月湖に繋がる川の中流辺りにこの皇宮殿と皇都がある。調度、川が蛇行して大きくS字に曲がっている場所にあるので緑豊かだ。その恩恵を受けているに違いない。上空から見た時に水路を通して都とは畑地に水を引いてあるのを見ている。
「一緒に食べよう」
「はい。アキ」
「このミルクはダラシィーの為だよきっと」
フィトォラには魔力を渡して、僕達は朝食を取った。準備は一瞬で出来た。衣装はこっちでの旅人風の衣装で、昨日の蒼いショールをマントに変えた。ダラシィーは猫の姿に戻っている。少し荷物を収納スペースから出してカバンを横掛けしておく。
この世界でも空間魔法の掛かったカバンやアクセサリーは高級品扱いだ。ちなみにガリェンツリーの世界の魔法のカバンはここでは使えない。同じ魔石でも造りが違うし、魔力素に違う制限が掛かっているせいで魔術として成立しないと最近勉強した。
「いい風だ。我がオアシスに戻る。出発だ!」
ヴァリーがいうと、僕達団体は飛竜に乗っての旅に出て深青の宮殿へと飛んだ。
「アキ様。昨夜はありがとうございました。皇宮内で息子の評判が落ちていたのを覆す事が出来ました。セスカ皇子とも仲の良い姿を印象付けることも出来、昨夜のことは母親として心より感謝しております」
休憩の時間に喉を潤していたら、ネラーラさんにお礼を言われてしまった。
「僕は何も……」
「いいえ、先の騒動が未だに息子の陰謀だと言う者が多くいたのです。ですが、精霊様がいらっしゃったという事は祝福を意味します。二度とそのような噂も話もでないでしょう」
ネラーラさんは真剣だ。身内の集まりでも噂は絶えないのなら、臣下のほうも戸惑うという。
「はい。ダラシィーは精霊ではなく、僕がそうですけど、黙ってて下さいね?」
ネラーラさんは少し固まった後、直ぐに微笑んで約束してくれた。三人乗りの飛竜は安定して飛び、前の飛竜とは早さも違っていた。予定通りに目的地に着いた。




