13 行末
◯ 13 行末
ぼんやりとした視界にマリーさんらしき人の顔が見えた。
「あ、マリーさん?」
しわがれた声が喉から出てきた。つばを飲み込むが喉が痛む。
「アキちゃん、良かったわ〜。怪我は無い? 酷いことされなかった?」
「うん。何か帰りに、変な薬品っぽいのを嗅いだと思うんだ。そこから分からなくて……どうなったの?」
「スフォラちゃんから緊急連絡が入って、アキちゃんの大捜索よ〜」
何となく言い訳っぽい台詞を口にしたマリーさんは、ニヤついた口元を隠せていない。体の近くに回復と解毒の薬瓶が転がっているのが見えた。アストリュー製だ。
「……ここって貴族のお屋敷?」
屋敷の跡地と言った方が良いかもしれない程に破壊され尽くした場所に僕はいた。周りが見えるようになる度に、なんかやらかした様なマリーさんの態度が気になる程だ。
「まあね〜。そろそろ直接狙ってくると思ってたから、ついでにお掃除したの〜」
「…………お掃除だったの?」
「そうよ〜。綺麗になったわよ〜」
「そっか。僕には散らかした後にも見えるけど、綺麗になったんだね?」
瓦礫が散乱して崩れた壁から夜空が見えるのが分かるんだけど、確かに空は綺麗だ。
「勿論よ〜。これで血族内転生術を使っている奴らを、全員まとめて吊るし上げていくのよ〜」
「そうなの?」
いつの間にやらそんな事になっているみたいだ。頷いているマリーさんは良い笑顔だ。ゆっくりやるのを止めて一気に解決に向かったみたいだ。面倒くさくなったのか、十分追い詰めたと思ったのかは知らないけど、思い切ったのは分かった。
「アキちゃんが神僕との繋をやっている天使だと分かっていて、襲っているから容赦無しよ〜」
頬を膨らましてわざとらしく怒った顔を作っている。
「もうそこまで分かってるんだ」
瓦礫を跨いでマリーさんに付いて歩いていたが、薬の影響か手足の感覚がおかしかったせいで転んだ。人型のスフォラ本体に助けてもらって体を支えてもらい、また歩き始めた。
「勿論よ、証拠はばっちりよ〜。天使を捉えて無理矢理力を奪うつもりだったらしくて、庭に大規模な略奪術を用意していたわ〜」
「略奪術?」
「そうね、そういうスキル持ちもいるみたいだけど、さすがに天使の力を取るには補助がいると分かったらしくて、慌てて用意してたからね〜」
「そんなスキル持ちがいるんだ」
「そうよ〜。そいつがこの血族内の転生術を完成させた本人だったわ〜。まあ略奪術は効かずに焦ってたけど……」
「じゃあ、首謀者だね?」
「そうね〜。人間にしては力を溜めすぎてたから、魂がいびつに歪んで酷いことになってたわね〜」
マリーさんは少し深刻そうな顔をしていた。
「うーんと、どう言う状況なの?」
「覚醒者でもないのに無理に力を溜め込んで、魂がパンパンに腫れ上がってしまってるの〜。自分の力じゃないからそうなるのよ。ちゃんと消化出来るくらいで止めないからダメなのよね。それで正しい判断が出来ずにいたのよ〜。最初は良かったのでしょうけど、時が経つに連れて歪みは大きくなってそれに周りも飲まれて行ったのね。悲しいことよ〜」
深刻そうな顔がちらりと見えた。どうやら良くないみたいだ。
「そうだったんだ。盗んだ力でどうにかしようって言うのが既に破滅に向かってそうだよね」
「そうね〜。アキちゃんも出来るのよ? その力を持ってるもの」
「……そうだっけ? ああ、そうだった、ね」
そうか、そういえば奪う力を持っていた。作り替えて与えることも出来る。そんな力だった気がする。でも、そんなことしなくても皆は自分の想いにそって力を持っているはずなんだ。そんなことをする必要は無い。それにこれは魂の解体の時に使う力だし、本人の念いの流れにそって扱う物だ。
「地球のように自分の念いに乗せた力が発現する世界だけじゃないの。彼がやるべきだったのはそういった人に希望を与えることだったのかもしれないわね〜」
「そっか。何処かで間違えたんだね?」
理の違いでそんな事もあるらしい。厳しい世界だ。
「力に溺れたの。良くあることよ〜。あたしにだってそんな誘惑はいつでもあるの。でも、それに打ち勝つ方がカッコいいと思っているから、こんなあたしがあるのよ。それをあたしは気に入っているの〜」
「うん、良く分かんないけど、マリーさんはいつもカッコいいよ」
きっとマリーさんにはマリーさんの戦いがあって、それに真摯に向き合っているからカッコいいんだと思う。ちょっと泣き虫なところとかもチャームポイントだとは思う。
でも、城下町の貴族街の殆どが壊れているのはどういうこと? 中庭らしき場所で周りを見渡せば背の高い洋館は全て崩れているのが分かる。
「あ〜、そうね。実はアキちゃんが攫われてからの五日間、あちこちの国の城やら貴族の館を片っ端からぶちこわしてやったの〜」
「そんなに経ってたんだ。場所は分かってたんでしょ?」
ちゃんとスフォラの分体に入ったままだし。それでこんなに歩きにくいのかな?
「まあね〜。でも、首謀者は誰かを聞いて回ってからこっちに来たからぁ」
なんだか無理に遠回りしてきたらしい。チャーリーとシェンブートが貴族の人達を一纏めにして中庭にて尋問していた。百人と少しくらいだろうか? それともう一団、三百人くらいの固まりがいて、五百人くらいの集団が更に奥にいた。全員が鎖でつながれて大変なことになっている。それらはヴォレシタンさん達教会の聖騎士団が見張っていた。シュウもその中にいて心配げな顔をこっちに向けていた。
「尋問している百人はこの体勢を考えて実行していた者ね。で、補助にあの三百人がついて、あの奥の五百人は分かってないながらも協力をし続けていた人達ね。血族内での転生はあの百人がやっていたと見ていいわ〜」
「じゃあ、ずっと冥界の癒しを受けずに転生を自分達で無理矢理やってたの?」
「そうね〜。ここの神が一柱、解体されてるのは知っているでしょう〜?」
「うん」
「その神を解体に追い込んだのが、力を複写するスキルのせいね〜。その力を持っている人はまだ生まれてないの」
マリーさんは一人の妊婦を指さしている。
「え、と?」
「力を模倣するというのかしら、それで神の力を手にしたのよ。まあ劣化された力だけれど、力を奪う人間と組めば油断してたらそうなるわね」
力を人間に模倣された責任を取ったらしい。というかそんな罠に掛かったというべきか。
ブランダ商会との付き合いが始まってから、ここの世界の乗っ取りがそんな形であったというのが分かった。それからは悪神達の巣に変わったため、力を奪って相手を弱体化させる彼らの存在は都合良かったみたいだ。転生術を完成させたのはブランダ商会と悪神達の力があってこそのことだったらしい。契約した内容で分かったのは、新しい体を選び放題な悪神達が好き勝手していたということだ。
力の高まりとともに血族内での結束は固くなり、一方で邪神や悪神達との付き合いで色々と常識が変わって行ってしまったのが彼らの致命傷だろうか?
「こうして神敵として捕まったのだから、もう、皆は自由ね〜」
「『ガリュ』を出してる国家が全部無くなったら、街の人達が主体になるね」
「『リルト』があるからそう混乱は無いはずよ?」
「そうだね、半分はもう流通しているし、直ぐに移行出来るよね」
やり直しは簡単だ。あのお腹に入っている新しいはずの命の予定の魂は、確かに気持ち悪い気を発している。それに、二重に魂を感じる。無理矢理入っているんだろうか? 地球での邪神の卵だった一香が体を奪っていたのと似ている気がする。
「そうね〜。彼らの術はそのままにして、しっかりと働いてもらうことにしているの〜。百人も手下が増えたら楽よ〜?」
「そうだね。街の基礎整備とかやって貰わないと困るよね。ずっとさぼってたんだし」
「そうよ〜。しっかりやって貰いましょう〜」
僕達の話を聞いていた百人の顔色は自分達の行く末を懸念してすこぶる悪かったが、僕達は上機嫌だった。勿論他の八百人も同じように働いてもらう予定だ。
その為の準備が始まった。今まで奪ってきた力をフル活用してもらわないとね。




