120 情報戦
◯ 120 情報戦
「良いシェフを雇うのが私の仕事なんですよ……飲食、食品業界も含めてというか、本業はホテル経営ですが、今興味があるのが食に関する事ですね」
一番大きな固まりになっている場所で、金の甘王子はそんな話を旅行業関係者と思っているヴァリーにしている。でもヴァリーは多分、動かないと思う。大体、皇子のくせに秘湯とかのキーワードに心引かれるタイプだ。ホテルなんてピンとこないに違いない。
「経営はバランスだ。ホテルなら宿泊だけに限らず、各種サービスを使える施設の開放が多くなっている」
意外だ。ちゃんと受け答えが出来ている。誤解してたよ、ヴァリー。出来る人だったんだね。
「そう、その通りです。それで、前から定評のあったうちの飲食関係の物をアピールする為に、色々と手を思案している最中なのです。アストリュー神殿が突然現れた『みかんなカフェ』を入れて、盛り上がったという。あんな感じに迄持って行きたいのですが、まだ足りなくて、ね」
金の甘王子が満足げにヴァリーの言葉を肯定し、少し考え深げに眉をひそめる表情で何が足りないかを匂わせている。
「チケットを手に入れているという事は、誰か知り合いにあの店と縁があるのではないですか?」
隣にいた緑の優王子がヴァリーに聞いた。肝心の質問をするのが彼なのは役割だろうか? 柔らかめの声で聞く感じは人が良さげな印象だ。
「それが本題か?」
ヴァリーは少し警戒している。
「予測はついてます。彼ですね?」
金の甘王子が僕を見ている。ちょうど、チーズと鶏肉の挟み上げを口に入れていたところだ。ハーブの葉が酸っぱさを足して調度、おつまみに良い感じだ。皆の視線が急に集まると喉が詰まりそうだ。
ヴァリーは呆れている。確かにこの流れではバレバレとは思う。
「それで、長い前振りを延々してたのか?」
これまでの雰囲気をぶちこわす質問をした。金の甘王子はヴァリーの言葉に面食らっている。
「ヴァリー、突っ込むところがそこなのか?」
ホングが呆れ、ちょっと苦しげな顔だ。吹き出すのを我慢しているっぽい。
「いや、面倒くさいだろうと思っただけだ」
ヴァリーは至極真面目に答えた。
「正直すぎだろ。ちょっとは手順を頑張って踏んでる相手にも気を使ってやれ」
ナオトギは金の甘王子に同情しているが、ヴァリーをさすがだとも言っている。どっちなんだ?
「充分待った。要らない気遣いは面倒だと、意思表示しとかないと次もやらかすだろう」
成る程、純粋に自分との付き合い方を伝えたかったらしい。だけど、そう取らなかった人達がいるみたいで、取り巻き達の一部が、殺気立っている。聞き方を変えたら上から目線の発言だ。庶民な僕には逆立ちしてもこんな性格にはなれない。
「ヴァリーはまどろっこしくされるよりも、すっぱりと聞かれた方が良いみたいで気を使うところが人とはちょっと違うから、分かりにくいよね。悪意は無いし、気さくな関係の方を好むだけなんですよ」
一応フォローを入れたつもりだけど、どうだろうか。
「うむ、言い方が不味かったのは謝るが、畏まる必要は無い。最初は必要と思うが、交流会だ。仲を良くしたいなら、取り去っても良いと思うがどうだろうか? それとも手順を守らないと話が出来ないタイプか? それなら敢えて受けるが、こちらからの態度には期待はしないでもらいたい。あいにくと機嫌を伺うとかが苦手だ。無駄に付き合うよりは切ってくれた方が助かる」
ヴァリーは少し言葉が足りなかったと思ったみたいで、もう一度説明している。
「確かに趣旨通りなら、そうだね。こちらもそちらの本当の性格を分かっていなかったので。噂通り実直で好ましい性格だ。だけど、裏を考えるのが苦手なのは良くないよ? レガナザキ国第七皇子ヴァリート殿下、不敬を取らないとのお言葉に甘えて砕けさせて頂きましたが、よろしいですか?」
そう言う甘い微笑みは、武装だと思える迫力を持っていた。取り巻き達の内の二人は冷静だったが、他の人達は焦っている。
「それで良い。仮面の下を見せなければ、付き合いは出来ない」
相手が皇子の名を出したからか、ヴァリーの方は態度が思いっきり素になっている。
「ちっ、先にその情報を使われたら使えない」
ナオトギが後ろでイラッとしてか、愚痴っていた。成る程、情報戦が肝の交流会はこれからが本番らしい。情報交換って、どれだけ相手の情報を引き出せるかの戦いらしい……。勉強になったよ。
僕なんて置いてきぼりだ。さっきほんのちょっと浮上した僕の注目度は、あっさりと二人の対決に注目が移った。




