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世界を繋ぐお仕事 〜縁切り結び編〜  作者: na-ho
へんかくのよあけ
13/203

12 団結

 ◯ 12 団結


 こんな感じで『リルト』が浸透して行っていてはいるけれど、国の税金だとかはこれまで通りに『ガリュ』での支払いだ。この支払いも減っている。それだけ貴族達の求心力が落ちているし、取引が行われるのが減って行っているのだから当然だと思う。

 もっとも、『リルト』で生活している人は残っている『ガリュ』を手放すのに税金を利用しているようだけど。

 町からの収益も落ち込んでいるし、農地からの食料での徴収も奴隷達がいなくなった人手不足で、実際には完全に出来ないでいる。辺境の土地に行けば行く程、お金ではなく物々交換が主流だからお金の取り立てもしにくい。

 これまでの貴族達のあくどいやり方は、辺境出身の黒装束の襲撃者としてやってきた元冒険者達によってしっかりと伝えられていて、『ガリュ』での取引には応じるのは良くないと皆が知っていた。

 そして、小さいながらも自治区を作り、自分達で他の自治区とを繋いで行ってやり取りを始めていた。村おこしから始めて自警団まで作っての大掛かりなところから、廃村を利用してそこに住んだりと色々だった。新しい流れが生まれ始めている。


「半年でこんなになると思わなかったよ」


 世界樹の周りに出来ていた集落も自治区になっている。その一角でヴォレシタンさんさんと話をしていた。


「確かに思っていませんでした。が、誰もが疑問に思っていたことが実現したんです」


「そうだね。原始に戻ったと思っていいかも。土地に値段が付くのも税金も都市に住んで恩恵があれば分かるけど、田舎だと分かり辛いよね」


「まあそうですね。道の整備だとか設備の維持費だとかは分からないことばかりですし」


 頭を掻きながらヴォレシタンさんは苦笑いしている。


「そういうのはずっとやってなかったから、町の道もボコボコで馬車が余り通ってないんだよね」


 今までの町は基本的なことは全部抜け落ちている。税金の使い道はこういったことに使われないとダメなのに、そんなことも知らない人が多かった。


「定期的に通る道は自然と皆がやりますが町の全てはやれてませんね……スラムが多いですし、逆らえばすぐに殺されますから、誰も騎士には逆らったりしません。兵は戒律が厳しく、上の言う事は絶対だというのを入隊の時分から叩き込まれますからね。それに町の秩序を守る、というのが分かっている者がいないのは残念ですね」


「確かに、それは良くないですね」


 守るというよりは虐げると言った方が正しい気がする。商売人は見回りをする衛兵にお金を握らせておかないと、難癖をつけられて捕まり、牢屋に入った後は奴隷になるとか恐ろしすぎだ。何の為に兵がいるのか分からない。あり方を間違っているのは明白だ。


「町の景観は誰が保っているんです?」


「町の人達です。主に商人達がやってます。やはり見た目が悪いと商品の善し悪しにも心証としては良くないですからね。自主的にやらざるを得ないというか、そう言ったことも含めて話し合いが持てないと、難しいかと」


 今までは商人達がやっていたのだと知った。何故、商業組合が力を持っているのが良く分かった。


「そうですね。自治区の代表が話し合う機会を作るのと同時に、道の整備だとか施設の維持費をどう調達するかが問題になります。それでも今、町にいるよりは良いと思いますよ?」


 国の崩壊と共に再生が行われている。同時進行だ。


「ええ。人が増えてますし、役割を振ってやるしか無いですね。兵士が攻めてくることもあるでしょうからそのことも対策をとらないとダメですし」


 そうか、武力を使ってくるのもあったか。


「そうだね、独立運動も難しいよね」


「ええ、ですが人族の国が全て繋がった血族の上にある限りは衝突は避けれませんし、これで普通に二国になったと思っても良いですよね?」


「そうだね。明確に国土がある状態じゃないけど、『リルト』というお金を使う、今の貴族達とは手を切りたいと願っている人達の集まりが出来たよ」


 その言葉にふっと笑った後、ヴォレシタンさんは真剣な顔になった。


「ええ。重要なことですね」


 ヴォレシタンさんは前を見据えている。何も無い宙を見つめて何かを考えていた。『リルト』を持つ国が出来たとしたら頭はヴォレシタンさんさんになるんだろうな。


「拠点がいるのです。だが、場所は要らない。心のよりどころが必要でした。『リルト』は誰にも奪うことの出来ないよりどころです。誰もがこれを拠点に踏ん張れるんです」


「……」


 確かに殺して無理に奪うことは出来ない。死んでもちゃんと大事な人に受け渡される。とても大事なことだ。

 脅しでの受け渡しは出来ないようになっているので、盗賊家業は少しだけど減っている。盗賊は品物だけ盗んで『リルト』は盗めないので『ガリュ』を出させているみたいだ。盗賊対策用に『ガリュ』を持っている商人までいるらしい。


「まあ、とりあえずは良い感じで進んでるかな?」


「ええ。最近は兵士の下っ端連中が傭兵として下って我々に付くようになってきて、冒険者組合に登録を始めたりしてます」


「下っ端だと兵士も苦しいのかな?」


「今まで奴隷がやっていた税で集めていた作物を運んだりする重労働を受け持つようになったとか……貴族連中の良く分からない遊びに使われた連中は兵を抜け出すか、怪我をしたからと休業届けを出したまま行方をくらましたりと、色々と大変なようですね……」


「そう言えば変なサロンがあったりするとか、クラブも色々と揃っているって聞いたよ?」


「気分の悪くなる話ですが、奴隷同士の戦いとかを見物する様なクラブだとか、贅を凝らした衣装を競う様なサロンを開いては家の自慢をしているようで……本業をそっちのけで遊び暮らしているようですね」


「奴隷達は随分減ったはずだけど……」


「ええ。子飼の商人や職人を奴隷化したようで……まあ、これまで虐げてきた方の商人やら職人の集まりなので我々としてはとうとう共食いを始めたかと思ったぐらいでして……」


 険悪を通り越してあきれ顔のヴォレシタンさんが頭を掻いている。


「そ、そうなんだ」


 廃退の色が濃く出た彼らの行く末は想像に難くない。……悔い改めようにももう遅い気はする。

 奴隷の戦いは兵士同士の戦いに変わっていて、開催している者が満足するまで戦いは終らず、大量の血を見るまでは終らないらしかった。兵士が逃げる訳だ。


「兵士も逃げ出してるなら、自治区を襲って来るのは余り大規模にはならないよね」


「その通りですね。元々そう多くはなかったですから」


 兵士の数はそう多くなかったはずだ。暗躍させる部隊の存在の方が大きいのだろう。


「そうだね、第五フィールドを襲った時も冒険者ギルドに依頼を出すくらいだったし、徴兵もやってたけど余り集まってなかったよね?」


「ええ。徴兵されれば、最前線に送られるのは決まってますからね……」


「訓練されてる兵が前じゃないんだ」


「そうです。彼らを盾に後ろから矢で牽制するか魔法で攻撃をするか、奴らがやりそうなことはそんなことです。盾ごと破壊もあり得るので、余程明日の食い扶持にも溢れている者ぐらいが兵に参加するぐらいです」


「はあ、何処までもダメダメですね」


 僕は感心してしまった。ここまで徹底しているのなら、いっそのこと天晴だと思うんだ。第五フィールドを攻めるつもりだったあの時期なら、まだ食い扶持にも困っている人は多かっただろうけど、今は随分回復してそんな貧困に喘いでいる人は教会にだっていない。随分変わった。

 ベテランの冒険者達が僕達の陣営にいるのは大きくて、魔物の材料の取引は殆ど独占状態だ。

 多分、手を打ち損ねているのだろうと思う。旧冒険者ギルドは最近、各フィールド内にあった支店を畳んで本店と三支店のみの営業に追いやられている。貴族達が見限ったせいだろう。

 元ギルド職員も『リルト』での生活区域では随分生きにくいはずだ。こそこそと王国の片隅にて生き残っているというが、どうやって生活してるのかは知らない。

 元冒険者出身のイバラのタトゥーの奴隷達は、ダンジョンに入って貴族の為に色々と用足しをしているのを聞いている。見つけたら、カジュラ達が片っ端から奴隷のタトゥーを解除して回っているので、貴族達の資金繰りは厳しくなっている。これからどうする気なんだろうと思う。レイ達の包囲網からは逃げられないのにな……。

 この半年に起きたことを人ごとのように考えながら、僕はヴォレシタンさんと別れて昼間の町を天門に向かって歩いていた。

 後ろから妙な気配を感じて分体のスフォラと変わって避けようとしたら、目の前が暗くなった。何やら臭い臭いがしたので薬品を嗅がされたみたいだ。薬品を出した人とともに倒れるのを見たのを最後に目の前が暗くなって気を失った……。


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