119 冷酒
◯ 119 冷酒
店に戻ると、デローさんが外に出てきていて周りを見回している。手を振れば僕に気が付いた。
「遅刻だぞ!! 迷子か? 今様子を見に出て……」
僕に声を掛けてくれてたけど、後半が声になっていない。多分後ろに金の甘王子の集団が、通りに現れたせいだ。
彼らの集団は二分している。質問をしてきた五人は中心メンバーだけど、その周りにも実は彼の取り巻きはいた。防音結界の外に閉め出されていたから、僕の呼び出しが何か詳しくは教えられてない人達だと思う。多くは女性の集団と、おこぼれを預かりたい男性集団だ。
「今行くよ。集団の邪魔になるから入ろう」
「ああ。彼らも呼んだが、来るとは思ってなかった」
「そうなんだ?」
僕達は店の中に入った。どうやら集まったのは、僕を入れていつもの十人と、見た事のないメンバーは六人。それから後ろから今、店に入ってきた金の甘王子達七人だ。
「おー、来たな……来ると思わなかったな」
ナオトギが僕を見て嬉しそうに笑っている。試飲用のお酒を持って行く事は伝えてあるせいだ。しかし、後ろのメンバーを見て、デローさんと同じ台詞の独り言が思わず出ていた。
「おや、これだけかい?」
僕の直ぐ後ろから、金の甘王子がナオトギに声を掛けた。
「いや、遅れて後三人来るが、時間だから始めよう。席に適当に着いてくれるとありがたい」
「分かったよ」
爽やか笑顔を残してナオトギの前を通り過ぎ、中央横の席を七人が占領した。店は貸し切りになっているみたいだ。
「じゃあ、自己紹介からかな?」
全員が座った瞬間に金の甘王子が立ち上がって、周りを見回しながら言った。だけど、直ぐにナオトギが立ち上がってにやりと笑った。
「そうだな。その前に、一言良いかな?」
どうやら、進行を勝手にされたのが気に入らなかったみたいだ。その前に、の声に力が入った。
「勿論」
にっこりと微笑んで金の甘王子が座った。ここは譲ると決めたらしい。が、取り巻きの何人かが、ナオトギを睨んだ。これが王子(?)同士の派閥争いなるものか……。微妙な汗が背中に浮いてきた。緊張のシーンだ。
「全員、忙しい中集まってくれて嬉しいよ。アシスタントタイプ『スフォラー』持ちの第一回情報交流会を始めたい。場所移動もあるから料理は各自で選んでくれていいし、店主は知り合いだ。なので連絡を入れた通り、今回の交流会のみ持ち込みもありだ。以上、楽しんでくれ!」
「紹介にあずかりました店主です。今回は持ち込みがあるとの事で、料理は少なめですが、この場をお楽しみ頂けるように務めさせて頂きます。ではグラスなどはあちらですので、ゆっくりとお楽しみ下さい」
店主は頭を下げた後は下がって行った。雰囲気あるインテリアに音楽や照明が良い感じだ。気を使っているのが分かる。掃除も行き届いて清潔だし、チリ一つ落ちていない。綺麗な川岸の風景も良い。カフェとは違ったお酒を飲むお店らしく、ぐっとシックな店の感じは楽しめる。
ナオトギの目が、フィトォラに釘付けだ。
「で、試飲の酒は出来上がっているんだろ?」
視線はフィトォラを食べそうな勢いだ。
「勿論だよ」
ギベロさんが嬉しそうだ。
「待ってました!!」
セドリックさんはグラスを皆に配っている。僕は急かされるままにフィトォラにここで飲むお酒を渡してもらった。エール、ワイン、ウイスキー、スピリット、ブランデーにラム、日本酒、泡盛に似た擬きなお酒各種を次々出した。二日酔い対策にムアーの実も持ってきた。
店主が奥から出てきて、目を輝かせている。しっかりとグラスが手に握られていた。
「美味しいお酒を飲ませて頂けると聞いて、持ち込み許可を本日はお取りしました。ええ、この楽しみが無ければ、普段はそんなのは許しません。手作りの貴重なお酒とあれば、特に珍しいですからね。出来ればうちの店に卸してもらえるなら……」
まだ飲んでもいないのに、そんな事を言っている。食品鑑定を持っている品質管理のセドリックさんも似た感じだ。隣で既にナオトギに説明している。全部、十本以上ずつ持ってきたから、余程のワクかザルがいない限りはこのメンバーで足りないとかは無いはずだ。
「この実は?」
「あ、それはムアーだよ。二日酔いには効くんだ。先に食べとくと良いよ? お酒に漬け込んだ方が良いみたいだけど、今日は元のお酒の味が知りたいし。え、と、みんな遠慮無く飲んでくれていいよ。出来れば、このアンケートに感想を書いてもらえたら嬉しいです」
後半部分はお酒を遠巻きに見ていた、今日の交流会メンバーに向かって声を掛けた。見ていた皆はすぐに近寄ってきて嬉しそうにしている。ボトルごと回して、皆に行き渡るようにした。既に交流会の事はそっちのけだ。
「それで成人の祝いに貰えるのって、どれにするんだ?」
ヴァリーがムアーをかじりながら近寄って来て、皆が騒いでいるうちにこっそりと聞かれた。
「それがもう出来上がったんだ。これを造っている時に、龍のお酒造りを教わったから、それを参考にして造ったよ。味見は本番迄お預けだよ?」
「それは……本格的だな」
「そうだよ。最高の出来にしたからね?」
「それはヴァリーの正装よりも楽しみだ」
ホングが後ろから話し掛けてきた。エールを片手に笑っている。
「味は?」
「旨味が出てる。常温でもいけるタイプだ」
言った後、機嫌良くごくりと飲んでいる。
「食欲増進は分かるが、食欲減退は何で必要なんだ?」
セドリックさんが首を傾げながら聞いてきた。
「ダイエット用」
「ああ、女性には嬉しいか……。いや、わざわざこれを飲むくらいなら要らないだろ?」
「そ、そう?」
「アルコールを飲むなら、何か胃に入れた方が良いからな」
「そうだったんだ。メモっとくよ」
「浄化作用の上昇は良くあるが、気分上昇って何の付与だ?」
デローさんはそんな事を聞いてきた。
「闇の魔法……精神治療だよ。寝酒用の精神鎮静、筋肉緩和、肩こり改善もあるけど、今回は要らないと思って置いてきた」
「確かに今日は要らないな。今度試したいから送ってくれ」
「了解。メモっとくよ」
「全部に瘴気、邪気への耐性、もしくは抵抗力上昇が付いているのね」
リンさんとベスさんが、少し酔っているフローラさんを連れて向かいの席に座った。リンさんは嬉しそうに残っているボトルを見ている。
「治癒効果を高める物もあったけど、あれは良いわね。精神安定化って、冷静になれるって事でしょ? お酒を飲んで冷静になるって変な感じだけど」
ベスさんが首を傾げている。
「ある程度だよ? 暴れ回ったり、キス攻撃してくる人にはあれを飲ませたら実行しないはずなんだ」
それでもする人は狙ってやってると思う。元々、理性のタガを外すから、本来の姿が良く出る。その上で出てくる欲を押さえる為の沈静化だ。本来の習性が出てる人もいるけど、ちょっとだけ冷静になれるように精神を保護する形だ。ちゃんとほろ酔いは味わえる。
「それは、良い事を聞いたわ」
「やたらと脱ぐ人がいるから、奴にはあれが必須ね」
「納得したわ」
リンさんとベスさんが顔を見合わせて誰かの事を言っているが、確かに迷惑な酔っぱらいには飲ませるべきだと思う。お酒の席の無礼講を思ってわざとしている人には一発殴る、と言ってから三人は交流会の席を回り始めた。
ちなみに僕は酔うと意識不明になる。その間は笑いながらふらふらと飛んで、何処かに行ってしまうらしいので、飲むなら家で飲む事にしている。冷静になるお酒ですら意味が無いくらいだから危険だ。
「このお酒は何処かに卸す予定はあるのですか?」
今度はここの店主と、ナオトギが二人で来た。丁寧に聞いてきたのは店主だ。
「どうなんだ、アキ? 出来ればここに卸してもらえると嬉しいが、無理ならそう言ってくれ」
ナオトギが頼むと行った感じでお願いしてくる。
「試作はもう当分作る予定はないんだ。これは調理魔法の応用と特殊の資格試験用に頑張ってるから造っているんだ。卸先は実は一つだけ決まってるから、多分全部そっちになると思う」
神力酒を神殿に卸すのも決まっているが、魔法効果付与の方も評判がいいので、マリーさんと一緒にケーキに使ったりしてブランデーケーキとかチョコレートに入れたりとかを考えている。マシュさんはバーを出すべきだと鼻息が荒い。
「『みかんなカフェ』は酒は出さないだろ?」
首を傾げたナオトギは疑問を聞いてきた。
「うーんと、ブランデー、ラム酒のケーキとか、チョコレートに入れたりとか?」
「そっちか。でもそれじゃ勿体無い」
「ええ、この美味しさを活かすなら、このままで充分。酒通でもかなり良い評価が望めます」
二人は食い下がって来る。
「うんと内緒だけど、『みかんなバー』の計画があるから……」
「という事は量を作るだろ? 一種類で良い、同じ物が卸せるって言うだけでも助かる。な?」
ナオトギはどうやら店主とはかなり親しい仲のようで、融通を利かせて欲しそうだった。
「まあ、そんなに言うなら……時々、ナオトギ経由でなら回すよ。ちゃんと許可を貰えてからだから、約束は出来ないよ?」
「良いさ。検討してくれるなら」
満足げに、ナオトギは頷いた。そこに金の甘王子の使いの、黒髪紫目の人が来た。
「このお酒は君が造ったのか?」
「あ、はい」
ボトルを指さして聞かれたので答えた。
「美味しいよ。良かったらこれに合うつまみがあるから、こっちに来て食べないか? 是非味見して欲しい。君達も、良かったらどうだい?」
ヴァリーとホングは既に金の甘王子の近くで何やら食べている。いつの間に……ナオトギと、店長はニッコリ笑って遠慮無くと言って、一緒に近くに行った。
対決は続くのです!




