11 流通
◯ 11 流通
世界のお金の仕組みが変わったガリェンツリーの人界では、二極化が進んでいた。ヴォレシタンさんや、ナヴォーシェン秘密結社の流通させている物は全て世界樹のお金で取引されている。
ベテランの冒険者や引退した人達が集まって、新しい冒険者組合を立ち上げてそれが認知されるようになった。出入りする業者も揃い、密やかながらも順調に勢力を伸ばしている。
資金は神界が殆ど出している。素材買い取りが必要だし、ダンジョンも細かく管理をする必要性があるからだ。全てはこの世界の未来の為でもある。
それに連れて、人族の貴族が発行している貨幣を使っての取引は減り続けている。世界樹のお金は多種族間でのやり取りも入った物資の種類の豊富さに、人族の商人の仲間内では二重になってややこしくなるけれど、商売を新しく切り替えて手を出す者が多くなった。ここのお金の『リルト』と『ガリュ』との力関係が逆転するのももうすぐと言ったところで貴族達に……血族内転生術者達に邪魔をされるようになった。
いや、邪魔してるつもりの様だけど、邪魔にはなってなかった。
「『リルト』をお金とは認めないと言ってきたんだね?」
僕は久しぶりにシュウと永井と西本さんに会っていた。
「そうなんだよ」
シュウが苦笑いしながら肯定した。
「でもさ、それってこっちが言う事な気がするんだよ」
永井は腑に落ちないと言った感じで文句を言っている。
「そうだね。最初から言っているよ。『ガリュ』と『リルト』の交換は出来ないってね」
僕も苦笑いしながら認めた。
「そういえばそうだよな。物品での交換は出来ても両替はやってなかったよな」
シュウも納得した顔で自身で確認するように呟いた。
「金貨が銅貨と同じ価値ってのはお笑いだよな?」
永井も何処からか聞いたのかそのことに気が付いたらしい。
「『ガリュ』だとミスリル金属が買えないし、流通すらしないけど、『リルト』だとミスリル金属どころかダマスカスだとかオリハルコンとかのファンタジー鉱物が出回るんだ。これで商売してる人は『リルト』を扱わないとダメだって慌ててたよな?」
最近はミスリルが黒の『リルト』で取引がされるようになってて、それが切替の決め手になっている。
貴重な薬の材料やらも冒険者組合経由で手に入る。クーラーとか暖房の空調の出来る物やら、保温が出来たり、大容量の魔法のカバンを仕入れ出来る。
新しい物では結界を張る装置も入れて魔物からの襲撃を少しの時間は避けれる物もある。それらは『ガリュ』では取引出来ないようになっている。
「商人達はどうにか紹介を取り付けようと必死だったぜ? こっちの条件を全部飲ませて審査して、魔法契約で裏切らないと誓約してもらってからの取引だから、今のところは問題は起きてないよ」
ヴォレシタンさん達の活躍で随分短期間で増えたとは思っていた。
「そんなことまでやったんだね」
貴族達が手を打ち損ねたのは、慎重に且つ迅速に根回しをしてくれたおかげだと分かった。魔法契約は僕の持ちこんだ魔法紙とインクを使っているみたいだ。取引も多くなるからと念のために渡したのだけど、そんな使い方をしていたのかとちょっと驚いた。
「アキは知らなかったのか?」
「うん。そういうのは全部下の人が決めた方が発展し易いし、場を整え易くするのが僕達の仕事だって言ってたから」
「そっか。信用してくれてるんだな」
「そうだね。シュウ達には感謝してるって神樹は言ってたよ」
「へへ。良かったな」
永井がシュウと西本さんに笑いかけている。
「そうだな。でも、俺達だけでは上手くは行かなかった。ヴォレシタンさんがずっとやってくれてたおかげだ」
「そうね。私達のしたことって本当に小さなことばかり。何か比べるのが恥ずかしいよ」
積み上げてきた長さが違うと言えば違うからね。シュウと西本さんはその事を良く分かっているみたいだ。申し訳なさそうな感じが伝わる。
「でも、シュウ達が表立ってこれまでやってたから、ヴォレシタンさん達が大胆に動けたって言うのもあるみたいだよ? だから、素直に喜んでいいと思うんだ」
「本当か? いや、でもな……」
「役割の大きさで言ったらシュウ達もすごく大変だったと思うんだ。命がけのことも多かったみたいだし……貴族達も手を出しにくいくらいには実力もあるし」
「実力というか、まあ、随分前にネクロマンサーに勝ったくらいだろ?」
「そうだね。表立って兵を動かしたら神樹を敵にするから、そういう形を取って攻めて来たんだよ。ちゃんと追い払ってるし、神僕の印を持つ者を直接攻撃するのは信仰のせいで、兵士も本来は嫌がるからね。ちゃんと存在していることだけでも効果はあるんだ。変な攻撃に負けずに生きて来れたんだから、それだけでもすごいよ」
「……何か存在してるだけって言うのはぐさっと来るぞ?」
「え? そんなこと言ったかな? 殺されそうになってもちゃんと露払い出来る強さを褒めたんだけど」
「まあ、そういう事にしといてやるよ、アキ」
少々お怒りのシュウは、僕の肩に腕を乗せて額に筋を浮かべつつニッコリ笑っていた。いや、誤解だよ。そういう強さは僕にはないから単純に尊敬出来るんだけど、な……。




