102 縁結び
◯ 102 縁結び
「聞いたよ? 縁結びと言ったら恋愛成就までやらないとだよね」
腰に手を当てて、待ってましたとばかりにアストリューの家で待ち構えていたレイが話し掛けてきた。
「はっ、それもあったか……」
仕舞ったよ。
「おせっかいをやるんだよ?」
「レイは得意そうだね……」
「当然だよ。恋愛の神は伊達にはやってないからね?」
「おおー!」
レイは上機嫌で顔を上げている。目の前に光が降りたよ。
「まずはアキの恋愛成就だね? 好きな人は?」
「……」
具体的に聞かれると分からない。漠然としている。彼女にしたい女性はまだ出会っていない。というか誰にもそっち方向には相手にされてないのが悲しい。何故かお友達どまりだし。
「周りにいる人を上げていって?」
言われた通りにフィトォラの画面に一人ずつ上げていった。目の前のレイに家に住んでるマリーさんにマシュさん紫月にポース、アロア達に獣守達、メレディーナさんや宙翔、地球の家族に仲間にガリェンツリーの皆、管理組合の友人に……上げていったら切りがない。
「一緒にいて楽しいと思えるなら好きな人だよね? 沢山いるよ。もてたいって言ってたけど今はどうなの?」
「今は……余り思わないよ。あれは強く望むと良くない感情だね。周り中に興味を持って欲しい、とか一方的な念いを寄越せと言っている感覚だよ。注目させたいまでは行かないけど、いい面を押し付けて評価を付けさせているのかな?」
新人のサバイバル訓練での中で思った事が役に立っている。
「そうだね。ちゃんと向き合う中では必要ないよ。不特定多数に自分の魅力を無理矢理にでも認めさせたいという願望の象徴だよね。自分の魅力が一般受けかを試すなんて若いうちだけだよ。個性で勝負しなくちゃね」
「不特定多数……そうだね。自分を認めてと一方的に押し付けてるね。その上、自分のありたい姿を追究するんじゃなくて、世間から受けの良い姿をとろうとしている気がする。自身を歪める感じだね?」
外見と中身が大きく違いすぎても良くない。認めて欲しいという気持ちを押し付けるのもおかしい。もてる人はもてる、そうじゃない人はそうじゃないと受け止めないとならない。
外面だけを見てよって行く人間に、振り回されてる場合じゃない。目立つから良いとかではないと知ったから、もてようという気持ちは消えた。自分はそれを望んでないと知ったから、もう振り回されたくないと思う。
意外と押し付けられる気持ちは重く感じたりするものだ。感情の重さが釣り合うくらいが調度いい。
「多少は自分の念う美を入れないと不自然さを感じるよね。でも、もてたい気持ちは誰にでもあるかな。認めて欲しい、好きな人に嫌われたくないという心理を付いた洗脳でもあるよ」
「洗脳?」
「誰とでも仲良くは出来ない様に、誰にでも受け入れてもらえると思うのが間違いなんだよ」
「確かに。もてたい気持ちって受け入れて欲しいって願望かも。不特定多数にまで広げているのが不自然なんだね?」
「引きつける力はその人の持つ人間的魅力だよね。ただ、もてたいじゃ、子供の癇癪だよ。自分を知らなくちゃ磨き様がないからね。出会いの妨げになってる事が多いよ」
「何か分かったよ。外側だけ磨いてもダメなんだね?」
魅力を磨くには心の深さも広さも色も響きも多岐に渡っている。知識や話術だって磨いて行かないとダメだ。相手の心理を考えてみたり、時には意志を通す強さもいる。自分は何処を磨くべきかは周りの人が教えてくれる。
「勿論だよ。気になる人に、自分らしくいるのに受け入れられないのは諦めた方が良い。あってないだけだよ。付き合えば分かる。あわないってね。ちゃんと向き逢うから深く好きになる。そんな物だよね。時間が経ってから付きあえる人物になったりとか、タイミングもあるし、難しいよね」
相手がいるから尊重し合わないと難しい。一緒に成長して行くのか、片方が育てるのかとか立場も違ってくる。ただそばにいるという癒しを求めるのか、穏やかさを求めないで激しさを求めているのか、それだけでも随分違う。ない物を強請るのはおかしいんだ。ぴったり合う人は中々いないし、難しい。
僕はお互いに思いやれる相手が理想だ。考えたら僕の周りはそんな人が多い。ちゃんと返せているか不安なくらいお世話になっている。僕はまだ恋愛が出来る状態じゃないのかもしれない。
「仕事の出来る、眼鏡のキャリアウーマンは僕の憧れをいれた理想だったかも。でも今はそれにこだわるのは止めたよ。僕に出来ない事を押し付けるのは違うね」
僕がビジネススーツを着たら全く似合わない。びしっとしたスーツが、僕が着るだけでかっこ悪くなるなんて悲しい。憧れてもあわない時はあわない。
「その通りだよ」
「ちゃんと自分を持って主張していたら、合うあわないは自然と淘汰されるってことだね?」
「そう。自然と好意を持てる人が正解だよ。距離を縮めたいってお互い思えるからね。だから失恋も成就のうちなんだよ。アキは既にキューピットをやってるしね」
ギダ隊長とネリートさんだろうか? レイがニヤニヤしている。
「そっちも順調だけど、竜人の夫婦もそうだよね?」
「あれは……」
コウさんの事だ。あれも入れていいのだろうか? ものすごく複雑だ。
「管理神として手伝ってるから、愛を無視した祟りにまで発展してるからね。あの夫婦は生まれ変わっても夫婦だね」
にっこりと微笑まれてしまった。僕はその事実に胃が縮む感じがしている。今初めて知ったよ。祟りって……。
「逃げた子は肌に合わないのを我慢していたんだよ。主張の押し付け合いをする似た者夫婦だから、あそこには普通の神経では近寄れないよね。竜人の夫婦は、あれを自力で抜け出す迄は、あのままだと思うよ」
取り敢えずは僕のパートナーは、しばらく現れそうにない。
「アキのパートナーはカシガナでしょ?」
「そうだね。そうかも……」
思えば何時も一緒に支えてくれてる気がする。いなくなるなんて考えられないよ。つまりは紫月がお相手? 分からない。
「まだまだ分かってないね?」
「全然分からないよ」
「動物じゃない姿を選んでいるんだから、少しは自覚すると良いよ?」
……動物じゃない体。人間も動物だっけ。そっか、人の考え方はもうあわないって事なんだ。
「いきなり変えるのは難しいけど……ううん、少しは気付いてたはずだよ?」
確かに。体の暖かさ……ううん、肉体の暖かさよりも、思いの優しさや暖かみを感じれる姿を選んだということだ。いや、毛並みを味わう為にも体は必須だし、中間的な感じかな?
ところでこの体だと体の関係はどうなるんだろう?
「そんなに心配しなくてもそれはそれで楽しめるよ? ボクのラブレッスンは、それこそそこからが本番だよ。熱く燃える夜を演出しないとね?」
ウインクしてくるレイの表情は悪戯っぽい。しかし内容は未知の領域だ!
「おおーっ!!」
「アキも月夜なんて夜の名前がついているんだから、そっちの知識もたっぷりいるよね?」
是非ご知識伝授をお願いしたいよ。
「さすがレイだね」
「ふふふ。まあまずは夫婦の営みでも覗きに行く?」
「え?」
明日はレイの恋愛事情の一端が露見するやも。




