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世界を繋ぐお仕事 〜縁切り結び編〜  作者: na-ho
へんかくのよあけ
11/203

10 権威

 ◯ 10 権威


「みかんの町、第十二回商業組合会議を開きたいと思います」


 僕が始まりを宣言した。毎回これだけが僕の仕事だ。後はマリーさんと浅井さんがやってくれている。


「町長」


 僕のあだ名だ。役所も無いのに町長とはあだ名でしかない。呼ばれて見ると落ち着いた感じの黒髪の女性がいた。

 今日は町長としての変装をしている。顔型も服装も髪の色も少し変えて、自分でも落ち着いたブラウンの髪が新鮮だ。ちなみにこの町長変装セットは、女の子変身セットと同じように、全部僕専用の魔術の服でセットしてあるので一瞬で変身可能だ。スフォラが全部管理してくれている。


「なんでしょうか?」


「移動式の円形商業施設に動こうとしない店が一つあります。あそこは固定ではおかしいと思います」


 と、言われてから女の人が昨日カフェに来て大声で叫んでいた人だと気が付いた。随分印象が違う。衣装とお化粧が違うのかな?


「そんなはずはありませんが」


「いいえ、『みかんなカフェ』は円形広場にいるのに動いていませんし、あそこは最上級の立地です。あそこが動かないなんてふざけていると思います! ここに町の住人の四分の一の署名を集めています。即、あそこを立ち退かせて下さい!」


 黒髪の女性は獣人の店を構えたオーナーだった。そのオーナーのアリシアさんが署名の紙を持って睨みつけてくる。


「あそこは警備施設です。地下には牢もあり、警備員が回っているはずですが、何故そのようなことを言っているのか理解出来ません。ちゃんと町の案内板にも困った時は警備と繋がっているので、『みかんなカフェ』まで、と書かれています」


 浅井さんは片眉を上げて理解しがたいと言った顔で女性に向き直った。若干会議室に動揺した人達が見えた。多分知らなかった人達だろう。


「えっ、え、でも、カフェですよ?」


 ここまで堂々と施設だと言い張ると思ってなかったのか、アリシアさんは一瞬ひるんだが、最後の言葉に皮肉を込めた感じで返してきた。


「みかんの中間界の成り立ちとしては、あれで立派に警備施設となります。そもそも、隣の宝箱の中身を交換する施設よりも古いのですから当然重要施設です。あれこそがここの歴史と言っても良いのです」


 きりりとした真面目な表情で浅井さんは反論した。確かにそう言われると、そうだと思えてくる。実際にそうだ……というか、僕達がそうだと決めたなら歴史だと決まってしまうことなのだ。


「では、あそこは町の重要施設だと言うんですか?」


 諦めきれない表情で女性は確認してきた。知っていて文句を付けて来ているのは分かっている。まだ付け入る隙を模索しようとしている感じが見て取れた。


「その通りです。ここを襲ってきた悪魔を倒し、悪神達を押し返した直後にオープンした癒しのカフェです。あそこには悪魔三体を倒した猛者とその仲間が警備についていますし、冥界とも縁の深い店でもあります」


 説明を終えた浅井さんは、冷たい視線をアリシアさんに向けていた。


「どこにその警備員がいるのよ」


 眉をひそめ、嫌みを込めて吐かれた台詞には棘が仕込まれている感じだ。


「店員です」


「あれが?」


 馬鹿にしないでと顔には書いてある。


「そうです。店員が働いている他にも町を巡回している警備員もいるはずです」


「……よく抱っこされて町を回っているのを見るけど、あれが? とてもそうは見えないわ」


 嘘の様な話だし、信じれないのだろう。額に筋が見えているので、怒っているのが分かる。こっちもふざけてはいないが、見た目からはあり得ないことだろうから認めたくない気持ちは察する。けど、同情は出来ない。

 そもそも抱っこしている人も何処かの闘神だったり死神だったりするし、自主的に治安維持に協力してくれている人達だ。


「大変人気がありますからね。アイドルです。いえ、英雄ですからね」


 言っている浅井さんの口の端がピクピクっと動いたのを僕は見逃さなかった。笑いを耐えてそうだ。僕は顔がニヤついて仕方が無い。他の事情を知っている人達も似た感じだ。


「アキちゃん、我慢よ〜」


「マリーさん、それを言うなら自分も出来てないと」


 僕達はこそこそと言い合いながら、肘で突つき合った。浅井さんを尊敬しちゃうよ。


「反論は無いようですので、今日の議題を進めます。この移動式の円形商業地についてですが、全てが埋まった時の隣の店との入れ替えなどをどうするのかを話し合っておきたいと思います」


「確かにな。隣のミニスカートのカフェの姉ちゃんが、うちの客を引っ張って行くのは営業妨害と思うんだ。隣からは外れたいからな」


 声の上がった方を見ると、アリシアさんを睨んでいる集団がいた。


「なんですって!! うちの店の方針にケチをつけようって言うの?!」


 飲食店の引き込みにもそんな被害が出ているみたいだ。避難されて逆上し掛かっているアリシアさんは思い切りその集団を睨みつけている。


 ここに来る人たちは闘神、死神としてもエリートコースを行く人達でもあるから、店の女の子達もお客さんを引き寄せようと必死になるところがある。

 それがカフェらしくない接客や、引き込みに発展してしまっている。別でデート商法的なことまでやっている子がいると聞く。

 従業員のプライベートは縛れないけど、何か違う方向に流れてなくもない。夜のお仕事のように経営しているのは問題だ。周りの店との系統が違ってくると摩擦が出るし、そんな店が増えても困る。それにしつこいお誘いが嫌だという意見もよせられている。地獄の気に当てられてるから、敏感に反応してしまうと苦情も来ている。

 その上にアリシアさんは『みかんなカフェ』を動かした後は自分達が入って、ここはメイン通りの方に移るので動かないと申請してくるつもりなのも分かっている。向かいの宝箱の中身交換所にここはメイン通りに属するのかを聞きに行ったとういう情報が上がってきているし、その許可を取るのは可能か聞いていたらしい。

 小さな町だし、そんな噂はすぐに来る。署名集めもすぐに分かった。だって、アリシアさんの店の従業員が僕にサインしろと付きまとって仕方なかったからね。ノルマがあるのと泣きつかれて困った。

 管理組合の経営する交換所の方が権力があると勘違いしているが、ここはちゃんと独立しているみかん界だし、管理組合は単にここでの営業許可を持っているだけだ。地獄型ダンジョンの訓練施設やら訓練内容は、マリーさんの知り合いとマリーさんが計画を立ててやってるので別だ。


「落ち着いて下さい、アリシアさん」


 今にも魔法攻撃しそうなくらいのアリシアさんに向かって、浅井さんの注意が聞こえる。


「お色気で戦いの後の弱った連中を嵌めて、金品を巻き上げてるって聞いてる。やり方が汚いぞ?」


「トラウマにして客が減ったらこっちだって困る。彼らを冷静にさせる為のここでのルールを無視している!」


 と、アリシアさんへの店主達の避難がここぞとばかりに出てきている。確かに色々と不満はあったみたいだが、このことに関しては被害はまだ微妙なところだ。金品巻き上げはともかく、そういう慰めが欲しい人もいるからだ。

 あえて収まる迄待っていた浅井さんは、静かになった瞬間に口を開いた。


「では。営業妨害だと思う方が半数以上出るようでしたら、立ち退きということにしましょうか?」


 成る程、多数決か……周りが迷惑だと思っているのならその方が良いかもしれない。場所を変えた方がうまくいくかもしれないし。


「良い案ですね。今回は警告ということで、次回の会議までに改善されない場合は、立ち退きを命じることにします」


 僕は浅井さんの案を採用した。周りの皆も頷いているので、反対はないようだ。町長の権力は何処かの管理神と違って意外と絶大だ。


「ちょっと、町長! 勝手に決めないでよ」


 睨みつけられて仕舞った。


「おや、署名を集める貴方が、この方法を嫌がるのはおかしいと思いますが?」


 浅井さんのナイスフォローが入ってアリシアさんはひるんだ。


「き〜い〜!! 分かったわっ!!」 


 この後は解散になった。

 アリシアさんは暫くしてから固定の場所に移ろうとしていたが、隣になる人が嫌がったので緑の多い小さい公園を挟むことにした。ベンチが中央にある簡素な公園だ。

 円形広場の中央の公園も良いけど、間に挟むこの休憩所的な公園は評判が良かったので、店の間に所々入れることになった。公園の掃除などは店の人達が時々やってくれている。商業組合で決まったことだ。


「町の景観にも影響があったわね〜」


「そうだね。野菜を植えようとした人がいたのは驚いたけど、畑にされるのは困るよね」


「あの女のやりそうなことよね。大体裏庭があるのにおかしいのよ」


「緑の無い公園になってるからあそこの公園は人気無いよね」


 あえて僕は手を出していない。やった人が元に戻してくれないと困る。


「そうね〜。他は綺麗のにあそこだけ変ですものねぇ」


 むき出しの地面に斜めに傾いたベンチが置かれている公園の異様さに、何か気が付くお客さんも多い。アリシアさんには野菜を植えないように注意をして、元に戻すように言ったらそんな感じに放置されている。


「折角植えた木を抜いて、野菜を植えるから……」


 調度いい木陰がないから丸見えだしベンチも使えない。折角の町の雰囲気が台無しである。


「私物化されたら困るって、反対を皆がしたものねぇ。共同管理する場所をあんな風にされたら、仲良く出来ないものね……」


 それでやっと野菜を植えるのを止めてもらえるようになった。アリシアさんは通りから見える公園を活用して隣の畑から取ってきて、新鮮野菜を使っているというのをアピールしたかったらしい。

 街の外にある畑を借りて作れば良いのに、それにはお金を出そうとしない。何かが間違っている。それとも嫌がらせだったんだろうか?


「それでも少しは馴染んできたと思うよ」


「そうかしら〜? 余計に浮いてるのが目立ってると思うんだけど」


「店は、そうだね。両隣を変な公園に囲まれてるから……」


「でも、あの公園は自分でやったのに、私達の嫌がらせだって言ってるらしいわよ〜」


 それは知らなかった。


「……そんな噂を流してるの? 商売出来ない人なの?」


「そうかもね〜」


 僕は溜息を付いた。何でここに来たんだろうかあの人。うちの店に対するライバル意識もすごいし、問題ばかり起こして困る。

 しかし、あれでそんなに悪意を込めてやってるのでもないらしい。真剣に店にとって良いと思ってやっているのだ。

 ルールは破る為にあると言っているマシュさん並の破壊力を感じる。いや、それ以上かも知れない。

 素で周りにいる人達の嫌悪感を煽る人っているんだと勉強している。誰かが周りとの摩擦を軽減する為の何かをし続けないとならない人種なんだと、僕は諦めていた。

 ……考え方が違いすぎてここに馴染めていないんだと。


 時間を置いて頭を整理したときに、彼女の想いを何となく理解出来た気がする。アリシアさんが無意識に要求していることは、ここの決定権の譲渡なんだと。

 暫くしてから、公園をちゃんとするべきだと自分のしたことを棚に上げて文句を言ってきたアリシアさんに、僕は何も反論せずに要求をのんだ。

 アリシアさんのカフェの両隣の公園を大きく改変した。

 大きな公園の中にぽつんとあったカフェはいつの間にか無くなって何処かに出て行った。

 ……このくらいの距離を置かないと僕には面倒見れない、という意思表示をしただけだが、やっと伝わったみたいで嬉しい。

 要求の高さから思うに、彼女は権力を嫌ってもぎ取ることを考えて行動しているけど、逆に敵対せずに取り込むか自身が持つべきなんだと考えている。あのタイプの人は、協調性を必要としない自身の権力を振るえる居場所を作るくらいをしないと、自分に合う場所は見つけにくいと思う。

 僕はそんな場所には行きたくないけど、ね。


マリーさん=保安官的立ち位置のつもり

イメージは開拓中の町です。

移民?が流れ着いては、新天地での夢を追い求める……?


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