W(ダブル)巨人ファン連続殺人事件
ヤフーブログに投稿予定です。
おれはついに十人のリスト、つまり「排除者予定リスト」を作り上げた。
「殺されて当然の人間などいない」と、杉下右京があるドラマが言った。ポアロが“オリエント急行殺人事件”でも同じ台詞を吐いている。まさに“正論”だ。一点の曇りもない“正論”だ。
でも、“正論”は面白くない。さらに、この世には存在しないほうがいい人間がいることも事実だ。
なら、当然、それらを排除すべきだとおれは思う。
「排除者予定リスト」作成基準は“傲慢”。自分のことしか考えない、他人のことなど考えない人間だ。つまり“おれが神だ”というタイプの人間だ。
「そんな人間、そんなにいないだろう!? 簡単には見つからない?! 」と言うかも知れないが、ちょっと注意して街を歩けば、そんな人間が少なくないことに気づくだろう。例えば駐車場に車を止めずにスパーの出入り口に車を止め二十分も三十分も買い物をする者。“おれは客だ”という態度の客。突然車を止め、タバコの吸殻やごみを捨てる連中。車を走らせたまま、窓から空き缶を放り投げるのは論外。即、“排除”だ! 等々。
リスト中、女は三人だ。
十七歳の高校生から七十三歳に老人で住んでいる地域も別々。使っている店も違う。つまり“無関係という関係”だ。勿論、おれは誰とも面識がない。だから、“排除”した人間の人間関係をいくら捜査しても、おれのところには行き着かない。
それとおれには大きな優位な点がある。おれの住む町は三つの県が接する地域で、あっちとこっち川一本渡ると別の県に行ける。警察権力は縄張り意識が強いから隣の県で起きている殺人事件などに関心がない。それにおれは排除の方法をその度変える。普通、連続殺人犯は同じ殺害方法を用いるらしい。おれが用いる方法は絞殺、毒殺、高所からの転落死。それからひき逃げもいい。権力の手先は連続事件だなんて少しも気が付かない。本当! 愚かな連中だ。
“殺人”、否、自分で間違えてはいけない。“排除”は月曜日の夕方から夜に決行する。他の曜日はやることがある。忙しい。
それと、おれは排除の記念に何かを死体から何か小さな物、眼鏡とか腕時計とかを頂く。これをコレクションするのだ。
それと、おれは自分に名前を付けることにした。“マンディー・キラー”。
でも、愚かな権力の手先はおれの“連続排除”を気が付かないからこの名前はおれだけのものだ。
……でも、物事は計画のとおりにはいかない物だ。
三つの県で五つの排除は成功したものの、六つ目の排除をする前におれは検問で逮捕されてしまった……。車の中からあのコレクションを見つけられてはどうしよもなかった。
三県の警察はマスコミには公表していなかったが、おれの“連続排除”を“連続殺人事件”と考えていた。で、名前もつけていた。“マンディー・キラー”。防犯カメラ(街には防犯カメラがあふれている。困ったものだ)の映像からおれに目星をつけていたところへ、のこのこ出向いて行って捕まったわけだ。とんだ“大笑い”だ。
それから警察は“連続殺人事件”の被害者の共通点を見つけていた。“連続排除”リスト作成者のおれ自身が気が付かなかったことに気づいていたのだ。喜ぶべきことか、悲しむべきことかおれには判断できないが日本の警察はたいした物だ。
彼らは全員“巨人ファン”なのだ。“傲慢”を理由に選んだ者全員が“巨人ファン”だったなんてとんだ大笑いだ。でも、納得しないでもない。
「ところで君はどこか野球チームのファンか? 」刑事が大体の取調べが終わった後、おれに聞いた。
おれは答えた。「当然、巨人だ! 他のチームを応援している連中は糞だ! 」
おれはこの“連続殺人事件”(“排除”なんて格好つけているのが自分でも馬鹿馬鹿しくなった)に名前をつけた。“巨人ファン連続殺人事件”。……。殺された方も殺した方も巨人ファンだったので“W巨人ファン殺人事件”の方が適当か!?
作品中の意見は主人公の意見で、作者の意見ではありません。