第一部第五話 気配 又は 余韻 ①
なんか微妙な長さになりそうなんで、①と②に分けますね
<2015年3月下旬 東京 池袋 池袋駅東口>
駅周辺はひどい混雑だ。
世間はまだ春休みの為、学生とおぼしき若者たちが昼日中から大小様々なグループで駅を出入りしている。
時刻は、午後一時になろうとしている。
仕事中のビジネスマンや、待ち合わせ中の若者たちの目を一際引いている女がいる。
…やっぱり、何処に行っても注目されるわね…。
これだけ盛えている街なら、外国人だって珍しくないでしょうに…。
女の名前は、アンナ=フリーマン。
二週間ほど前に、英国より来日した女性だ。
…なにかしらね、イヤな目付きが多い気がする…。
それなりに異性の目を引く容姿だという自覚はある。
だがそれでも、日本に来るまでは、精々がすれ違いざまに流し目を送られる程度のものだった。
……やっぱり、この格好が問題だと思う…イレイヌめ、またやってくれたわ。
なんとも扇情的な格好である。
いや、よくあるビジネススーツであることに疑いは無いのだ。
ただ一点、サイズが微妙に身体より小さいことを除けば、である。
かと言って被服など買い直す程の予算が与えられたわけでもなし、組織からの支給品と思えば扱いも疎かには出来ぬ。
ちなみに、この度の日本潜伏にあたっての衣装を支給したのは、いかにも組織事務方のイレイヌ嬢であるが、選定したのはアンナの同僚であり教導者でもあるティトである。
海外からあらゆるメディアツールを駆使して日本の風俗を知悉した男が、ジャパンの新人女性教師、をデフォルメした結果がコレである。
…しかし、あの子たち、面白かったわね…。
周囲の喧騒や注目も次第に意識から外れ、つい先ほどの出逢いに思いを馳せる。
周りの者たちからは、路線図の前で立ち尽くす異国の女性といった雰囲気だが、みだりに話し掛けるには躊躇われるほどの佇まいである。
三人が三人とも、平和な国の若者という典型像から外れた、歳に見合わぬある種の凄みを感じさせる子どもたちだった。
…あの眼鏡クンは良かったな…私を守ろうとしたのかしら…フフッ。
良い目をしてたわ…適切な情報を、最低限与えただけで最適解を導き出せる…得難い才能だわ…メンタルに難有りだけど。
…あのマッチョクンも痛快だったわね。迷わず私もヤツも敵に回して、それでも勝てると踏んだのかしら。
並みの人間じゃあの怪力に太刀打ちできないわね、そのうえダウンしてたアイツを守ろうとして…眼鏡クンもだけど、健気なものね。
…それに…アイツ。
と、最後に、自分が久し振りに力を振るう先の一般人となった相手を想う。
知れず顔が綻び、ともすれば笑い声まで周囲に漏らしそうになる。
…なんだったのかしらね、あの執念は…。
ヤツに誑かされてたのかしら…ううん、そんな顔付きじゃなかった…。
なんか凄かったな…あんなに生々しい感情をぶつけられるなんて…いつ以来かしら。
任務に就き始めてから、もう五年以上が経つ。
組織に庇護されてからは、既に三十余年に及ぶ。
これまでの足跡を振り返った時、彼ら三人を羨ましがっている自分に気付いた。
彼らの見所とも言うべき箇所は、いずれも若かりし頃の自分には欠けていた資質だと思われた。
今ではどうだろう…と、自問を浮かべ、…不要だ、と自らに結論付ける。
彼らは三人だからこそに育まれた美徳なのだろう…自分は一人なのだ。
任務に就き始めた時から、ずっと一人だった。
自分より先に仕事を与えられた、たった一人の兄もそうだった。
私たち兄妹だけは、一人で仕事を遂行することを求められた。
余人と異なりそれだけの能力を有していたし、私たち兄妹と班を組もうという団員もいなかった。
当然、自らの異能を駆使して、任務には全力であたり、また成功を収めてきた。
ごく稀に、失敗することもあった。
しかしそれは、ただ単に相手の力量が絶対的に上回っていた、というだけのことだった。
人数が揃っていればどうにかなった、というものでもない。
二年前だったか…。
手酷い傷を蒙って、本部に逃げ帰ってきたことがあった。
珍しいことに、本部が在るブリテン島の北部でヤツラの出現が確認出来たのだ。
偶然にも、本部に詰めていた自分が抜擢され、速やかな討伐を団より命じられた。
あろうことか…ヤツラの長老格の一人とも目される女怪が相手だった。
むろんただ逃げ回っただけではない。
手傷を負いながらも適切な情報を収集し、命からがらだが、本部にそれらを持ち帰ったのだ…後に役立てる為に。
血塗れに泥まみれに、最後は雨に打たれながら這って本部の庭に帰ってきた。
半狂乱になって迎える兄。
周囲に鬼の形相で何事か指示を出し続けるティト。
医療班とともに駆け寄るイレイヌ。
『ざまぁねぇ…』
雨音を縫って、誰かの呟きが聞こえた。
きっと聞こえたのは、兄と私だけだろう。
あの呟きが聞こえた瞬間、本部の前庭は戦場に変貌した。
黒い影が本部二階の一室のバルコニーに飛び上がり、同僚の一人を引き摺り降ろしたのだ。
止めに入った者たちが宙を浮いて壁に叩きつけられる。
兄が、初めて恐いと思った。
ティトに絡め取られ、組伏せられた兄がなお何事かを叫び続けている。
それでも視線は私だけを捉えていたように思う。
…堪えきれず、視線を外してしまった…意識が絶えたように。
「大丈夫ですか?…えと、Can I help you?」
ハッと覚醒する。
住み慣れた、あの古めかしい砦ではない。
駅の雑踏が視界に戻る。
そう、ジャパンだ、私は今、任務でジャパンにいる。
『Excuse me?』
「あー、Did you lose your way?」
『Oh! Everything`s ok. No problem. Thank you!』
目の前では小柄な愛らしい少女が懸命な表情で自分に話し掛けている。
笑顔で返事を返すと、少女も笑顔を見せて軽く会釈をしてから友人と思われる二人組の許へと戻っていく。
物怖じせず外国人の自分に話し掛けた少女に少し興味を引かれ、視線を追い巡らせる。
「ゴメンゴメン!なんか気になっちゃって!」
「ハイハイ、おかえり。そんで、池袋まで来てどうすんの?見つかるわけないじゃん?わたしも、池袋、ってのが聞こえただけだよ?」
「たぶん大丈夫!クレナイってお店だよ!」
「場所は?」
「…知らない、教えてくれないんだもん。ミクちゃん知らない?」
「知らないよ!よくそれだけで行こうと思ったね!?」
「ぅう…、リッちゃんは?」
「知るわけないじゃん?ってか捕まえてどうすんの?」
「説教だよ!なんでよりによって補習の最終日をサボるの!」
「あー、また始まった…」
あの年頃の女の子が喧しいのはどこの都市でも同じか、とアンナは思う。
…自分には無縁な情感だな、とも思う。
『無理すんなよ、ボチボチやんな…』
ティトが別れ際に掛けてきた言葉を思い出す。
…ドキドキする、なにを考えているんだろう…
さっきのアイツの所為だ、あんな感情をぶつけられて…
一歩二歩と、少女たちに向かって歩み出す。
「コンニチハ」
「うわ!びっくりしたっ!」
「……ふわぁ、すごい美人さん…」
「ワタシ日本語ハナセマス。カイモノニイキタイノデス。ドコカオススメアリマスカ?」
なんともたどたどしい日本語だ。
さっきまで饒舌にあの男たちと話していたのに。
…緊張してるな、わたし…
あの親切な少女が答える。
「なにを買うんですか?」
「日本に住むのです。Daily necessities …あー」
「日用品!?」
「Yes!何処かお勧めは知っていますか?」
少女たちは顔を見合せ、
「「「ハンズッ!」」」と声を揃えた。
「Hands?」
「Yes!OKです!案内しますよ!」
少女たちは楽しげに歩き出す。
戸惑っている私ににこやかに話し掛ける。
「こっちですよ!一緒に行きましょう!?」
…ぁあ、どうしよう………すごくワクワクしている。
ミク「んで、結局どれ狙いなのさ?」
マイ「っはいっ!!??」
リツコ「どれにしても、どこが良いのか理解できないわ…」
マイ「ち、違うよ!?ただの幼馴染みってだけだから!?」
ミク「出たわー、その台詞、マンガだけにしときなよ」
リツコ「萌えどころか狙って言ってるならドン引きだわ」
マイ「狙ってないもん!ってかいつもそう言ってるじゃん!」
ミク「こういうの何系?」
リツコ「天然悪女系少女」
マイ「違うってばー!やめてー!」