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黄昏に出で暁に去る  作者: ちあき
第一章 第一部 東京編
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第一部第一話  悪童 又は 才女

ジャンルがわかんねっす。なんつーのかな、吸血鬼ってホラーをモチーフに、現代を舞台としたピカレスク風味なアクション活劇を描きたいんだけども、、、「冒険」であってんのかな笑。ってか吸血鬼登場がいつになるやら泣。

<2015年4月 日本 東京>

桜の木の下には死体があるって話、聞いたことあるなぁ…たぶん桜の廻りに転がってるのは死体とは言えないよね…。

そんな、とりとめも無い感想を抱きながら、彼女は校舎の裏側の一角をグルリと見渡した。


「いやね、舞。これは不可抗力だよ、降りかかる火の粉ってやつだからさ、むしろ被害者だし」


舞と呼ばれた女性の前に、達者な姿で居並ぶ男が三人。


倒れている一人の背中から足を下ろしながら答えた男は、身長は170cmを少し超す程度か、隣に並ぶ二人の男たちよりもやや細身で学ラン制服の着こなしもよく、キラリと光る眼鏡は、なるほど豊かな知性を感じさせる。

惜しむらくは、その右手に握られた、ギラリと光る特殊警棒がその雰囲気を台無しにしている点か。


「過剰防衛じゃん!どう見てもサダ君の」

「なに言ってんの!見ろよこの数!あ~、えっと…十三人だぜ。何人からなら正当なんだっつー話だよ」

「そういう問題じゃ…って、ちょっ、ちょっと!タツヤ君!なにやってんの!?」


サダと呼ばれた眼鏡の男の横では、筋肉質で制服を着崩したスポーツ刈りの男がかがみこんでいたが、タツヤと自らの名前を呼ばれて彼女を仰ぎ見る。


「ちょっとした罰ゲームだよ。マイちゃんは見ちゃダメだぜ」


シッシッとばかりに片手を振り扇ぐが、いかんせんその手が血塗れではさながらスプラッターのワンシーンである。

残る片手は器用に傍らに倒れ伏した男のズボンを脱がし、いままさにトランクスに手をかけたところである。


「ほれ、カズキ。シャッターチャンスだ!」

「もうっ!なんで脱がすの!?意味わかんないっ!!」


そっぽを向いてそう言いながらも舞という女生徒は、チラリと二人の男の後ろに立ってスマホをかざす男を覗きみた。


相変わらず無表情だなぁ…カズキは。男同士の時はけっこう楽しそうに笑ったりしてるのにさ、そんなに私が近寄るのがご不満ですかね…、まぁ避ける気は全く無いけどねっ!


そんな舞の思考とは裏腹に、カズキと呼ばれた三人目の男は舞の視線に、殊更に感情を感じさせない声で答える。

その眼は倒れている男たちに向けられているが、まるでモノかムシを見るような、およそ人間を見る目付きには見えない、と舞には思われた。


「こいつらには去年から言ってあるんだ。去年の四月と、八月にも一度な。俺たちに関わるなって、イヤって程に教えてやった筈なんだがな…。先輩の意地だかなんだか知らねぇがよ…、もう飽きたわ。こいつらの顔見るのもよ」


淡々と話すカズキは、やはり煩わし気に廻りを見渡す。

なんとも異彩を放っている風体である。

学ランの下こそ制服そのままだが、上半身は黒一色に薄くラメの入ったストライプを刻んだドレスシャツに、首もとには歪なモチーフを連ねたシルバーのネックレスが光る。髪型はさほど長く伸ばしてはいないがオールバックに近い。

まるでチンピラの様相だが、その立ち姿から滲み出る雰囲気はそれよりも大御所ヤクザの貫禄に近い。


重いんだよな、イチイチよ…、と悪友二人も苦笑混じりに、舞を見返して肩をすくめるような仕草をする。

舞とて、いつものこの三人の平常運転っぷりには既に心配すること自体飽きてきた頃だ、という心境である。


本木 貞雄、山下 達也、そして安藤 和樹の三人はこの学校で、いや、いまでは都内でも有名なアウトロー三人組である。

本木と安藤の二人は小学校から活発なイタズラ坊主で知られていたが、ある日を境に安藤が、目に見えて雰囲気を異にしてイタズラ坊主からアウトローへと変質した。

そこへ山下が中学一年次に転校して来て、二人組から三人組へと進化したことから学内に留まらず、都内全域でそのイタズラでは済まされぬ悪行の数々が積み重ねられきた。


北條 舞は安藤と本木とは小学校時代からの付き合いである。公正な彼女の両親は愛娘に進学の度に豊富な選択肢を与えてきたが、彼女自身はこの幼馴染みたちから離れることを良しとせず、常に彼らを見ていたと知ったならば両親の心労はいかばかりであろう。


とはいえ、と、舞はこんな光景を見る度に思うのである。

三人が三人とも、数に多少の差はあれ頭のネジがいくつか抜けているとは思うけれども。

本当にどうしようもない悪人じゃないもんね、と舞は思う。

少なからず中学時代には喧嘩や破壊の跡を目にしたことがある舞だが、後日に耳にする噂は、コトの結果はどうあれ、その発端は相手方にこそ非があるように舞には聞こえてきた。


あの時だって…この三人だけが私を助けてくれたもの…。

舞の脳裏には去りし日のあの一幕が鮮烈に焼き付いている。

いつかちゃんとお礼が言いたいな…、そんな気持ちを抱えながらも、彼らを見る目はまるでイタズラ小僧を見守る母の眼差しである。

…この状況に慣れているだけ、たぶん彼女もそれなりに毒されてはいるのだが自覚はないだろう。


「二度と学校には来れないだろうさ…恨むんなら自分らの軟弱っぷりを恨めよ…」


和樹が吐き捨てた言葉に達也と貞雄が答える。

「イラついてんな…まぁ、せっかく始業式に律儀に出席したのにこれじゃあな、ムカつくわな」

「違うっしょ、こないだのクレナイ事件からずっとイラついてるもん。なぁ、和樹?あんまり考えない方が良いと思うよ」


和樹は答えず、達也がしかめっ面で応じる。

「アレか…アレは忘れたぞ、俺は」

「なになに?クレナイ事件って?クレナイってあそこでしょ?池袋の居酒屋だっけ?わたし知らないよ!報告を求めます!わたしにも教えてよ!」


貞雄と達也のやり取りから知らない単語を聞いて、舞は勢い込んで食いついている。

嬉々とした顔で問い掛けているのだから、やはり相応に彼女もおかしいだろう。

倒れ呻いている者たちを尻目に、既に四人は校舎へ向かいながら談笑しているのだ…いや、やはり和樹一人は普段に増して険しい顔付きだ。

舞の要求に貞雄が、これまた苦笑いを浮かべながら答える。


「いや居酒屋って…バーって言ってよ。んでもね~…俺もいまだにアレがなんだったか解らないんだよね…。三人揃ってトリップしてたとしか思えんわ」

「…なにそれ?変な薬とかだったら絶対怒るよ。わたし」

「違うって!俺らアンチドラッグだもん!常にイカれてるこいつらには要らないっしょ!」


噛み合わぬ会話に貞雄は笑いながらなかなか失礼なことを言っているが、確かにそういうドラッグの類は嫌っているし、ともすればそれらを扱うような連中からしたら気分次第で売人狩りなんておっ始めるこの三人は天敵のようなものである。


達也が舞の顔を見る。視線に気付き首をかしげる舞は、達也からの言葉を待つ様子を見せる。

「えっ?なに?」


「金髪の白人のネエチャンがタカシ君を剣で切ったら、タカシ君が燃えて灰になって消えた。んで、和樹がそのネエチャンに負けた」


「…えっ?ごめん、なんて?」


達也は真顔で舞を見つめたまま、貞雄は軽く天を仰ぎ、舞は理解が及ばず三人の顔を交互に見交わす。

和樹はいよいよ顔付きを険しくし呟いた。


「あの女…クソッタレ」


春うららかな陽気が、四人を優しく包んでいた。

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