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Summer Sky  作者: あっきぃ
花言葉~夏の花で5題
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無言の恋~月見草/素直END

今夜、誓也と素直は野岩神宮で催された夏祭りに2人きりで出掛けた。


祭りの途中では花火大会も開かれ、夜空に輝く一瞬の花を愛でながら、2人は帰路についた。


そして今は沢中家の二階、ベランダのある部屋に2人はいる。


理由は簡単。ただ単に夜空を見上げる。


夏は色々な行事が開かれ、その都度周囲はそれに浮かれ楽しむ。


それは日常の当たり前のワンシーンかもしれないが、当たり前が故に目の前に広がる美しい景色を見落としてしまいがちになる。


先ほどの花火大会もそうだった。


空一面に光る花火に目を奪われ、それ以前に元から空にある、花火よりも自然な美しさを放つものに気付かないのだ。


月と星。それこそが、もっと当たり前で、もっと自然な美しさではないだろうか。


それを再確認するために、2人はベランダに立ち、空に輝くそれらを眺めていたのだ。


しかし、それも最初の5分程度。気が付けば2人はお互いに全く別の趣旨を思い浮かべていた。











この間、定期考査の最終日を迎えた。


テストの終わりは生徒にとっては羽を思いきり伸ばす時でもある。


恒例行事とまでは言わないが、真心の誘いでテスト終了後にみんなでケーキバイキングに行こうという流れになった。


当然、甘いものが好きで大食の素直は行きたいという気持ちになる。


しかし素直と違って誓也は甘いものは、少しは食べるもののバイキングをするほど好きというわけではない。


『誓也は来る?』


何気なく聞いたが、とても恋人に問うようなこととは思えない。


それを間近で聞いていた真心は、素直の態度が面白いとばかりに喰いついてきた。


『”誓也は来る?”って……彼氏にそういうこと言う、普通?ここは……”誓也!私ケーキ大好き!ねぇ、誓也も一緒に行きましょうよ!”でしょう?』


『素直、お前そんなキャラだったっけ?』


『そういうのは愛に任せていたような気がする……』


冷静に真心のツッコミに反応を返す2人に、真心は面白くなさそうに溜め息を吐くと、誓也と素直は本当に恋人同士なのかと2人に問った。


その問いに誓也と素直は首を傾げ、互いにアイコンタクトをとる。


『だから!何というか、2人とも”恋人”って感じじゃなくて、”幼馴染み”って感じがするのよね』


『……だって、元はそうだったし』


『それは昔の話!今は幼馴染みでもあるけど、恋人なのよ?』


「……」


先日のことが突然と頭をよぎったが、素直も誓也もその真心の言葉を進撃に受けることはなかった。


(だって……)


自身の横で、無言で、自分とは何か別のことを想っているのであろう恋人の姿を横目で見る。


(そういうところがいいだもん……)








隣に感じる彼女の気配に、妙な安心感を覚えるようになったのは、いつ頃からだったろう。


幼稚園の時、自分とまだ同じ背丈だった頃の素直は、その名の通り素直で純真な女の子だった。


あの頃、自分は彼女のことをどう思っていただろう。


くだらないケンカをした日。一日中、口を聞かなかった。


もう絶交だから!と、よく子どもがいうお決まりのセリフをお互いに投げ合って。


けれど、またすぐに仲直りして、2人で公園のブランコに乗って、一緒に笑い合った。


純粋に素直が好きだと、思っていた日々。


小学校の頃は、最初こそ見られなかったが学年が上がっていくとともに身体的、精神的な成長が見られるようになってきた。


そのため、素直をわざとからかったり、一時期は照れ隠しのために彼女と会話をしなかったりする時もあった。


大人の事情にこそ無知だったが、”恥ずかしさ”というものが分かり始めた日々。


中学校の時は、ついに彼女への呼称を”スナちゃん”から”素直”に替えた頃だった。


それに釣られるかのように、彼女も自分への呼称を”誓ちゃん”から”誓也”に改めた。


初めて彼女の名前をニックネームではなく、本名で呼んだ時。


なぜか心臓が跳ねあがり、穴があったら入りたいほど恥ずかしかった。


それにも徐々に慣れていき、彼女を”素直”と平然な顔をして呼べるようになった日々。


そして……。


彼女と出会って、17年目の夏。今までの想いが一気に解放された。


素直に自分の気持ちを伝えた瞬間、もう彼女とまともに会話することができなくなるかもしれないという恐怖心が湧いた。


けれど、自分へのけじめと戒めのために吐露したことを誤魔化さなかった。


自分でも驚くほどに、潔い態度だったと今振り返る。


(というか、結局……)


彼女のことは一体いつ、好きになったのだろう。


(思い出せねぇ……理由はなんだったかな?というか異性として意識し始めたのって……?)


どんなに思い出そうとしても、思い出せない。だけど。


自身の横で、無言で、自分とは何か別のことを想っているのであろう恋人の姿を横目で見る。


(そんなこと、どうでもいいか)


美しい夏の夜空が2人を優しく見守っている。風の音も、何もない無音の空間。


どこか物寂しげで、何かに呑み込まれてしまいそうなこの空間。


しかしそれこそが、2人にとっては大切な世界なのだ。


2人はそのまま何も言わず、どちらかともなく身を寄せた。



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