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Summer Sky  作者: あっきぃ
花言葉~夏の花で5題
27/28

密会~グラジオラス/希望END

希望が自分自身、ロマンチストな一面を持っていることには最近気付いたのだが、自覚してからは更にそれが加速したように感じた。


彼女がいつも好んで観る映画は、大体アクション映画だった。


しかし、それさえも代わり、


「誓也先輩!今が旬の恋愛映画、一緒に観に行きましょうよ~」











今日は快晴。最高のデート日和となった。


だが希望は心中、相合い傘ができないと愚痴をこぼす。


「まあ、いいや。今日のメインは映画なんだし。それに昼からは雨が降ってくれるかも!」


そんな時のために、希望のバッグの中には常に折り畳み傘が入っている。


しかし、今日の天気予報では一日中快晴と報じられていた。


それにもかかわらず、望みを捨てないのは、やはり彼女のプラス思考な性質にあるのだろう。


「悪い!遅れた!」


「もう!誓也先輩ったら……5分遅れた代わりに、今日は5回キスしてくださいね!」






今日2人で観ることになっている映画は、男女の複雑な三角関係を描いた昼メロをイメージさせる愛憎劇である。


「おい……鑑賞できるのは15歳以上って、どんな内容なんだよ……」


「それは観てからのお楽しみです」


希望は不満そうに映画のパンフレットを見る誓也を、いつもの如く適当にあしらう。


実は希望もテレビのCMを見ただけで、詳しいストーリーは分からない。


(だって面白そうだったんだもん。その前にネタバレとか、絶対嫌だし)


程なくして、映画会場は暗くなり、スクリーンには映画を観賞する上での注意事項や他作品のCMが流れ始めた。


だが、このCMなどの放映は10分前後続く。


あまり気の長くない希望にとっては退屈極まりない時間だった。


そんな退屈を紛らわそうと、自然と手が隣にいる誓也のそれを弄っていた。


「おい。なんなんだ」


「先輩の手って、子どもみたいに柔らかいですよね。いつも思うんですけど」


小声で会話をしながら、なおも自分の手を弄る希望に誓也は次第に呆れてきた。


だが、誓也が”はあ”と溜め息を吐くのと、ほぼ同時に希望の手の動作は止まった。


「先輩、始まりますよ」






映画が中盤にまで差し掛かってきた時、段々と濃くなっていく三角関係に誓也も希望も釘づけになった。


妻を差し置いて、親友の妻と浮気をした男と、その不倫相手である妻が密会する場面である。


パンフレットには”15歳未満の方はご入場をお断りしております”と、赤字で書かれていた。


案の定、かなりきわどいシーンに差し掛かってきたのだ。


「……」


希望は顔色も変えず、スクリーンに集中している。


しかしその横に座る誓也は、かなりの冷汗が出て、目を両手で覆いたい気持ちになる。


(恋人と不倫の映画見るって、どうなんだろう……)


今さらながらにそう思えてきて、あたりを再度見回すと、鑑賞者は中年の女性が圧倒的に多いのに気付く。


恋愛映画は恋愛映画でも、もっと違うチョイスがあったのではないだろうか。


例のきわどいシーンが過ぎ去るまで、誓也はずっとそのことを考えていた。






「最後は衝撃の展開でしたね!続編も出るみたいですから、その時はまた見に行きましょう!」


「いや、見ないから……」


「あの不倫相手と密会するシーン……いいなぁ。私もあんなことしてみた~い」


「いや、やめてくれ……」


「誓也先輩!今度、夜中にこっそり家を抜け出して、私と密会しません」


「いや、しないから……」


映画を観終わった後、2人は喫茶店で先ほどの映画について話していた。


だが、映画の感想はほぼ一方的と言っていいほど、希望しか言わない。


しかし、もうあんな恥ずかしい映画を見るのは嫌になり、誓也は少しずつ話を逸らしながら、喫茶店から外へ出ようと希望を誘導した。


そして2人が外に出ると、先ほどまでは曇りのない青空が広がっていたのにも関わらず、不穏な雲が空を一面支配していた。


「雨が降りそうだな……」


誓也がそう言った時である。ぽつり、ぽつりと雨が降り始めた。


「あ……」


「あ~あ。先輩がそんなこと言うからですよ?」


誓也をからかいつつも、希望はバッグの中に入れてあるピンクの折り畳み傘を取り出した。


「お、持って来てたのか」


「はい」


そう言って希望は折り畳み傘を広げ、誓也とそれを共有しながら街を歩き始める。


希望が望んだとおり、今日の天候は大逆転。2人は同じ傘の中にいた。


天気予報が大外れしてくれたことに寄り、希望は密会ならぬ、密着に成功した。




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