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Summer Sky  作者: あっきぃ
花言葉~夏の花で5題
26/28

愛らしさ~オレンジ/真心END

「もうちょっと女の子らしくしないと、誓也も愛想尽かしちゃうかもよ~」


優輝にそう言われたのは、昨日の昼休み。


ちょうど誓也が購買に行っている時だった。











「はぁ……私ってバカ……」


誓也との待ち合わせ場所の街角で、真心は自分自身に呆れていた。


優輝にあんなことを言われるのはあまりに屈辱的なことだったが、それと同時に心のどこかで言われたことに納得している自分がいたのだ。


だから今日は、女の子らしく。それが本日の真心の目標であり、頑張りどころだった。


いつも夏ならば、ショートパンツやキュロットなどボーイッシュなものしか穿かない真心だったか、今日は”女の子らしく”ミニスカートで決めた。


それ以外には、ブレスレッドやネックレスなどの装飾品も身に付け、いつも以上に女性的なスタイルを目指したのだった。


化粧も普段はしないのだが、今日は早めに起床して何度もメイクのやり直しを行い、香水もいつもの爽やかなものではなく、甘い匂いのものに替えた。


何でも形から入るのが一番。そう誰かが言っていた気がする。


しかし、自分の姿を鏡で見た時、見慣れていないせいか、違和感を覚えた。


(でも、やっぱり恋人がいる以上、もっと女の子らしくならないと……)


そう自分に言い聞かせて、鏡で何度も化粧の確認をしていると、いつの間にか待ち人が来ていた。


「おい、何やってるんだ?」


「誓也!?……びっくりした。来たなら来たって言いなさいよ……」


急に聞こえた恋人の声に思わずびっくりしてしまい、真心の心臓は緊張と恥ずかしさに跳ねた。


普段とは違う自分を見て、彼は一体、どんな反応をするのか……。


「……お前、何か今日、変」


「ええっ!?」


折角気合いを入れていつもと違う格好をしてきたのに、誓也の反応の冷たさに真心は一気に落ち込んだ。


しかし、それはすぐに自分の早とちりだと気付く。


「いや……だってなんかそわそわしてるじゃないか。何か企んでるのか?」


「え……?」


彼が言っていたのは真心の”姿”ではなく、”態度”のことだった。


「な、なんだ……そういうことか……」


そのことに安堵しつつも、身なりのことに何も反応が無いことを真心は胸中、寂しく思った。






最近オープンしたショッピングモールに誓也と真心はやってきた。


いつも、ショッピングと言えば真心は飲食店に目を光らせる。


だが今日の真心は違った。


誓也が飲食店の並ぶ場所を教えても、可愛らしいアクセサリーを売る店に行きたいと言い出したのだ。


今日の真心は、やはりどこかおかしい。


そう思いながらも、誓也は彼女の行きたいと言う場所に付き合った。


店内に辿り着き、中に入るとそこにはどう考えても、普段の真心からは想像もできないほど女の子らしい商品がずらりと並んでいる。


「……」


真心はずっと並ぶ商品と睨めっこをしており、無言だった。


これも普段とは違う。いつもならこんな沈黙などほとんどないのだ。


「何か気に入ったものでもあるのか?」


「…えーっと、う、うん!えーっと、このハートのネックレス、とか?」


「お前、大丈夫か?」


「どういう意味よっ!?」


「何だ、やっぱりいつも通りか」


「あ……」


しまった。いつもの癖……というよりも性質が出てしまい、思いっきり誓也に怒鳴ってしまった。


これでは自分への戒めが無駄になるどころか、誓也も愛想を尽かせてしまうかもしれない。


「や、やっぱりこのネックレス買う!」


真心は慌てて再び女の子らしさを誓也にアピールした。






「腹減ったな。なんか食うか?」


小腹が減った誓也は、真心に食べたいものを聞く。


いつもならここで、ファーストフードの名前を出すところだが、これも違った。


「く、クレープ……」


この回答はごく稀な回答だった。確かに今までも1回や2回程度は聞いたことがある。


しかし、今日に限ってこの回答とはと、やはり誓也は訝しく思う。


だがそれよりも何か腹の中に取り込みたいと言う気持ちが強く、あえて追求はしなかった。


そしてクレープ屋に向かい、メニューを眺める。


「俺はツナ。お前は?」


「うーん……やっぱり甘そう……」


「はい?」


「な、なんでもない!えっと……いちごがいいな」


「へぇ、珍しいな。いつもならスナック系の食べるのに……」


「そ、そうだったっけ?」


やはり、今日の真心は少しおかしい。今日この後、誓也は何度もそう思う場面に出くわし続けた。






夕暮れ時になり、ショッピングモールから出た2人は帰り道を歩いていた。


「はぁ……何かどっと疲れた」


項垂れていたのは真心である。慣れないことをしたせいか、疲れがいつもの倍以上に感じられた。


だが、疲れていたのは真心だけではなかったようだ。


「俺も……なんか疲れたな」


「ご、ごめん!そういうつもりで言ったんじゃなくて、つい……」


「いや、別にいいんだけど……お前ってそんなんだったっけ?」


「え?」


「いや……上手く言えないんだけど、いつもと服装も違うし、なんかこう……女の子っぽいというか…」


「ホント!?……良かった」


誓也に”女の子っぽい”と言われ、今日の努力は無駄じゃなかったと、真心は胸中安堵した。


しかし、その呟きを聞いた誓也は、正直な気持ちを真心に伝えた。


「俺はその逆なんだが……」


「……?」


その逆?今、誓也は”良かった”と言った自分の発言に対し、”その逆”と答えた。


誓也のこの言葉に、真心は首を捻る。


分からないと目で訴える真心に対し、誓也は続けた。


「そりゃあ、可愛いとは思うけどさ……やっぱり、真心には似合ってないよな」


「……」


「いつもみたいに活発で男勝りな方が、俺は良いと思うんだけど……」


「……」


「もし、今日の真心が”素”の真心なら、俺はなんでお前を好きになったんだろうな」


誓也の言葉が、痛いほどに強く心に響いた。


そうだ。


優輝に何を言われようが、周囲からどんな目で見られようが、誓也は”いつも”の自分を好きでいてくれているのだ。


どうして、それに気付かず勝手に空回っていたのだろう。


それを考えた時、初めて今日の自分を振り返り笑えてきた。


「あはは!それもそうね!」


思わず大きく笑ってしまった。それは女の子にしては妙に豪快な笑い声だ。


けれど……。


「なんだ……良かった」


けれど、誓也は”この”自分を好きでいてくれているんだ。


茜色に染まる空を背景に、しばらく真心は恋人の前で腹を抱えて笑い続けた。



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