私はあなたに結びつく~朝顔/愛END
今日は、誓也と恋人同士になって初めてのデートの日だ。
水原家のリビングで歩美が朝食を作っている間、愛は遠足にでも行くように、バッグの中身を何度も確認している。
「楽しみだぁな、楽しみだぁなあ!」
しかし愛には緊張感というものはなく、まるでいつも通り”幼馴染のお兄ちゃん”に会うような感覚でいる。
しばらくすると、愛の好物であるホットケーキがテーブルに運ばれてきた。
朝食を運んできた歩美の表情は、楽しそうである。
「愛ちゃん、今日は頑張ってね!」
だが声を弾ませて言われた言葉の意味が、愛には分からない。
「んん?」
ホットケーキを頬張りながら、姉の瞳をきょとんと見つめると姉はまた笑顔で返す。
「デート、楽しんできてね?」
「うん!うん!」
初めてのデート場所は、愛が行きたいと言ったスカイランドだ。
また一緒に誓也とメリーゴーランドに乗れることが、今日の愛の何よりの楽しみである。
「スカイランド到着~!」
「こらこら、あんまりはしゃいでいると逸れるぞ?」
スカイランドに到着すると、そこには休日のためか人で溢れている。
活発な愛のこと。いつテンションに身を任せて自分から離れていくか分からない。
誓也は慌てて愛の手を引いて彼女を制した。
「おてて、結んで行きましょう~」
誓也に手を繋がれたのが相当嬉しかったのか、愛は意味不明な歌を歌いながらスカイランドに入場した。
「どれに乗りたい?……メリーゴーランドか……」
誓也はさっそく愛が乗りたいアトラクションを訪ねたが、それと同時に彼女が答えるだろう回答が頭に浮かんだ。
メリーゴーランド。
前にみんなでスカイランドに来た時も、一緒に行動した時、彼女が真っ先に乗りたいと言ったアトラクションだ。
単純な愛のこと、きっとまたそう言い出すに違いないと思っていた。だが、答えは意外にも違うものだった。
「う~ん……それはもうちょっと後がいい!まずはあれ、ゾウさんの乗り物!」
愛がメリーゴーランドに変わって指差したアトラクションは、明らかに子ども向けのゾウの乗り物だった。
(まあ……メリーゴーランドとそんなにジャンルは変わらないんだがな)
そうして段々と愛の乗りたいという乗り物を制覇し行くうちにあっという間にお昼過ぎになっていた。
パワフルで空腹を中々訴えない愛に、とうとう心が折れ誓也は愛に昼食を取りたいと頼み込んだ。
今2人は、スカイランド内の食堂にいた。
「はあ……やっと食える」
「誓也くん、誓也くん!私、ミートスパゲティ!」
「わかった、わかった」
メニューを注文し支払いを済ませると、食堂に移動した。
昼時は既に過ぎていたので、混雑はせずスムーズに席を取ることができた。
「って、俺の隣に座るのか?」
2人で食事をするときは、普通なら向かい合って座るのが何故か一般的になっている。
それなのに愛は、誓也の隣の椅子に座った。
「うん!隣同士がいい!」
愛はそう言うと、”いただきます”と両手を合わせミートスパゲティをフォークに巻き付けて、一気に麺を頬張った。
「おい、あんまり詰め込み過ぎると喉に詰まらせるぞ」
そう誓也が注意したその時だった。愛は眉を顰め、涙目になって自身の胸を叩いた。
「んんっ!?」
誓也の言った通り、喉に麺が詰まってしまったのである。
誓也は慌てて水を愛に渡し、愛はそれをゆっくりと飲み干した。
「ぷは~…。助かったぁ~!」
「良かったな……」
昼食を終えた後、スカイランドを満喫するべく誓也と愛は再び様々なアトラクションを楽しんだ。
イルカのショーや回転ブランコ、ミラーハウス、王道のジェットコースター。
そうしている内にも2人の時間あっという間に過ぎ去り、気が付けば営業時間が終了する1時間前を切っていた。
あたりはすっかり陽が落ちて、遊園地内は美しいイルミネーションのような輝きを放っている。
「もうそろそろ時間だな。愛、そういえばまだ……」
誓也は気になっていたことがあった。愛が大好きなはずの、メリーゴーランドにまだ乗っていない。
すると愛はふわりと微笑んで、誓也の腕と自分のそれを絡めた。
「うん……最後に取っておいたの!」
誓也が自分の好きな遊具に乗っていないことに気付いてくれて、嬉しい。
そんな当たり前のことにも素直に喜ぶことができるのは、愛の専売特許と言ってよかった。
今日の締め括りを飾るメリーゴーランドを見れば、他の遊具にはない幻想的で可愛らしい照明に包まれている。
愛はその頃合いを見計らって、あえて最後まで乗らなかったのだ。
遊具内に乗り込むと、この間来た時と同じ、愛は白馬を指差した。
「よし、乗るか」
誓也は前と同じく、愛の背中を後ろで支えられるよう彼女に先に乗るようにと促す。
しかし、愛はその考えと全く逆を思っていたのである。
「誓也くんが前に乗って!」
「はあ?別に構わないが……危ないんじゃ……」
「あのね、誓也くんの背中にぎゅーっとしたいの!」
「……」
可愛い、とそう思った。愛にここまで言われてしまえば、彼女の気持ちを尊重せざるを得なくなる。
昔から彼女に甘かった自分に、少しばかり悔しさがあるものの、それも白馬に乗った途端、もっと深い愛情に変わった。
背中に確かにある、温かくて柔らかい彼女の存在。
「しっかり掴まってろよ?」
「うん!」
暖かい、誓也くんの背中。
彼の温もりに充分浸りながら、愛は誓也に結びついた。