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Summer Sky  作者: あっきぃ
Summer Sky*
21/28

夏祭り Part2

誓也が自室で携帯越しに歩美と話している内容は、今年も催されることになった夏祭りの件だ。


今年の夏祭りは野岩神宮で行われることになった。


場所はこの島の最北端に位置し、誓也たちの家からは少々距離があった。


無論、だからといって祭り自体や花火大会に行かないという答えにはならない。


「だからね、車で愛ちゃんと誓也くんと、祈と私の4人で行こうねってお話しになったんだけど…そうなったらスナちゃんや真心ちゃんがどうしましょうってなるでしょう?」


祈が去年の冬に運転免許を取得したため、彼女の車に他の3人を乗せて行こうと思ったのだが、それだけでは他のメンバーが連れて行くことができない。


「素直は面倒臭がって行かない可能性が高いが……真心がな」


それに、想像したくないがヘタをすれば優輝も来るだろう。


あと、最近では希望もちょくちょく誓也の教室を訪れ、行動を共にすることが多くなってきた。


勿論、2人きりではなく素直や真心も一緒にだが。


だからこそ、彼女も今回の夏祭りに誘うべきだと誓也は考えている。


ましては引っ越してきて、初めてこの島で夏を過ごすのだから。


「いっそのこと、電車に乗っていくか?」


路線は一本。だが、この島にも一応電車は存在する。


「そうね!誓也くんならそう言ってくれるって思ってた!」


そうして、携帯電話での会話は終わった。今年は恋人になった歩美と初めての夏祭り。


本音を言えば、2人きりで行きたいという気持ちもあったが……。


(そうじゃなくても……2人で出掛ける機会なら、この先沢山ある)











野岩神宮は星山神社と比べ、域が広い。そのため屋台も人も、去年以上に賑わっていた。


「こりゃあ逸れ易いな……」


今回のメンバーは素直と優輝を除く6人である。


そこで最も、迷子になりやすいであろう人物が急に手を繋いでいた人物のそれを放して、とある屋台を指差した。


「お腹空いた~!お姉ちゃん、たこ焼き食べたい!!」


「愛ちゃん、逸れるから手放さないで……!」


愛が歩美と繋いだ手を放したのである。歩美は慌てて愛の手を再度繋ごうと試みたが、空腹に負けた愛はそのまま屋台へと走っていってしまった。


「あ、愛ちゃん…!」


「歩美先輩、愛ちゃんはあたしに任せてください!」


愛の行動に動揺した歩美にそう言い残し、真心は即座に愛の姿を追っていった。


「まあ……まだ来たばかりなのに……」


そう言って歩美が途方に暮れかけた時、隣から親友の声がした。


ただし、歩美の耳元で、彼女にだけ聞こえるような囁き声で。


「いいんじゃない?この後、沢中君と2人きりになりやすいと思うし?」


“それにあの希望って子も、後で私が何とかするから”、と付け加え他にも歩美に何かを伝えた後、誓也と希望に向き直った。


「それじゃあ、4人で周りましょうか」


「はい、祈先輩。……歩美?どうしたんだ、そんなに愛が心配か?」


祈の言葉に返答した後、歩美が少し俯いているのに気がついた誓也は彼女に声を掛けた。


歩美は誓也の言葉にパッと顔を上げる。


「う、ううん!折角のお祭りだから、皆で楽しみましょう!」


「……?」


歩美の顔が少しばかり赤く見えたが、きっと縁日特有の明かりの所為だろうと、誓也は特に気に留めなかった。








4人とも自宅での夕飯は抜きにしていたので、愛のようにみんな空腹だった。


そのため……でもないが、遊び場よりも食べ物の屋台に目が行く。


お祭りならではの食べ物をある程度食べ歩くなか、希望はたこ焼きを買った。


「鮎川さん、結構食べるんですね」


先ほどから少しばかり気になっていたが、予想以上の希望の食いっぷりに、祈が驚き放し掛けた。


彼女はたこ焼きの他にも、焼きそば、アメリカンドック、おでんに焼きとうもろこしも綺麗に平らげていたからだ。


「こういうの好きなんですよ。それに、人も都会よりそれほど多くないから買いやすいっていうか……うん!美味しい」


ふと、たこ焼きのソースの匂いが誓也の鼻孔をくすぐった。


他の人間が食べているのを見ると、無性に自分も食べたくなってくる。誓也は何気なく言った。


「はあ、俺も買えばよかったかも……」


しかし、その”なんとなく言った”ことに、過剰な反応を見せたのが2人いる。


一方は不敵に微笑み、一方は眉を顰めて窘めるように声を上げた。


「沢中君!」


「えっ!?はい!なんでしょう……」


1人は祈である。いきなり名前を呼ばれたことに驚いた誓也が背筋をピンと伸ばしたが、なぜ呼ばれたかは分からなかった。


だが祈の目を見ると、何やら自分は只ならぬことをしでかしたらしいことに勘付く。


目にとても力が入っており、怖いのだ。祈にとっても、これは必死の窘めなのだ。


(そんなことを言ったら、お約束と言っていいほどの展開になるでしょう!!)


そう叫びたかったが、歩美は何とも思っていないようだし、余計”彼女”を煽ることにもなるので、声をグッと堪えた。


そして、もう一方の不敵な笑みを浮かべたのが、希望である。


そして、祈が予想した通りの言葉を誓也に放った。


「誓也先輩、私のたこ焼きでよければ食べませんか?」


その言葉に祈は眉間に皺を寄せ、歩美は心臓が跳ね、目を見開いた。そんな中、誓也は即答する。


「いや、いい」


これは意外すぎるほどの反応だったらしく、祈と歩美は呆気にとられながらも、ホッと胸を撫で下ろした。


だが、希望は違う。彼女はそれさえも予想通りだと言わんばかりに目を細め、なおも誓也に言い寄っていった。


「そんなこと言わずに、我慢は良くないですよ?」


先日、歩美と誓也の邪魔をすることをやめようと心に誓ったにも関わらず、希望の行動は自然といつも通りに戻ってしまった。


(だって、彼女が天然っぽいから……)


それに自分よりも美人で、優しそうで。


嫉妬だと分かっているからこそ、小悪魔的な希望の性質を余計煽ってしまっていた。


歩美が不安そうな表情を浮かべているのに気付きつつも、自身のたこ焼きに爪楊枝を刺し、誓也の口元まで持っていった。


しかし……。


「ほい、祈先輩!」


「んっ!?」


「あ……」


誓也は差し出されたたこ焼きを口にせず、そのまま希望の腕を掴み、左隣にいた祈の口にたこ焼きを入れた。


これにはさすがの希望も想定外だったらしく、声を上げる。


「あ~あ……そんなに”あ~ん”が嫌なんですか?」


更に口を尖らせ不満げに言うが、誓也の態度は平然としたままだった。


そうやって澄まし顔のまま腕の時計を覗くと、花火大会までの時間が迫ってきていた。


「そろそろ花火大会、始まるぞ」


そうして言った何気ない一言が、歩美の表情を一変させた。


「えぇっ!?嘘……ど、どうしよう……」


「?」


急にそわそわし始める歩美に、誓也の頭上はクエスチョンマークに支配されたが、歩美に釣られて祈も慌てふためいていた。


「……っ…!…鮎川さん!」


「は、はい!」


そうした中、瞬時に行動を起こしたのも祈である。


祈は希望を呼ぶや否や、その腕を強引に掴み一気に走りだした。


「えぇっ!?なななななんですか~!」


希望はそのまま訳が分からないまま、祈に引っ張られ誓也と歩美の元から離れていってしまった。


これには誓也も希望同様、祈の行動の意図が分からず唖然としてその場に立ち尽くす。


しかし、誓也の横ではホッと胸を撫で下ろす歩美がいた。


「ありがとう、祈……」








祈と希望が何処へ向かったのか知れないまま、誓也と歩美は2人きりで花火大会の開催場所へ向かった。


開催場所は野岩神宮の近くの港。花火の打ち上げ開始まで残りわずかとなった。


「去年は一緒に見られなかったから、嬉しいわ……」


「そうだな」


しかし、いざこういうシチュエーションに導かれると、経験の浅い2人は何処かぎこちなかった。


(なんとなくだが、こういった類のイベントは普段とは違う意識下に追い込まれるというか……)


内心、少しばかり困惑していた誓也だったが、次の瞬間にそれが吹き飛ぶ。


「うわぁ…綺麗」


花火が空に舞い始めた。


金色の花を中心に、時には赤、時には緑に花々は色を変え、巧妙に人々の心を奪っていく。


歩美の感激した顔を横で見つめながら、誓也も空に美しく咲く花に見惚れていった。


どれくらいの時が一瞬にして過ぎ去ったのか、気が付けば一際大きな花が豪華絢爛に咲き誇る。


歓声と拍手が地上から星空へと木霊した。


最後を飾るに相応しく、その花が散った後も残像が残り続けている。


「すごいな……」


「はぁ……うふふ」


「歩美?」


ホッと溜め息を吐いた後、幸せそうに微笑んでいる歩美に誓也はふと声を掛けた。


するとその声に反応した歩美は、そっと誓也を見上げて言った。


「実はね。星占いをしたの……」


「星占い?」


「ええ。小さい頃に遊んでいたタロットカードの占いなんだけど、久しぶりにやってね。ハッピーアイテムが”花火”だったの!」


誓也は目を丸くしながら歩美の説明を聞いていた。


そしてそれが終わった後には、頬を自然と緩ませて彼女の頭を優しく撫でた。


「そうか、良いことがあるといいな……」


「あのね……それで、その占いには続きがあって――」


「お2人さん?仲睦まじい中、申し訳ないんですけど!」


歩美が何かを言い掛けたのと同時に、聞き慣れた声が誓也の背後からした。


「鮎川さん……?」


そこには、少しばかり不機嫌そうに顔を顰めた希望がいた。



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