Star Sky
高校時代の最高の想い出づくりと言えば、修学旅行と答える人が多いだろう。
誓也たちは今、本州の東京へ修学旅行に来ていた。
「誓也!この神社にすっげぇ美人の巫女さんがいるの、知ってるか!?」
「そうそう、この前のテレビで見たよ。御当地美人特集ってヤツ!ホント、マジで可愛かったよなぁ~!」
星優輝をはじめ、他のグループのメンバーも、その美人巫女を拝みに行くため、研修での観光地を、埼玉県にある青龍神社という神社をチョイスした。
誓也は正直内心では、修学旅行に来てまで美人を拝みたいと思うメンバーたちの気持ちがよくわからない。
「スカイツリー、見に行きたいんだが…」
そんな叶いもしない願望をボソッと呟くと、優輝が目を光らせ一歩後ろを歩く誓也を見た。
その顔は、鬼のように恐ろしく、黒いどんよりとしたオーラを放っている。
「お前は恋人がいるからいいよなぁ~…水原先輩という美人で可憐で清楚で可愛い年上彼女がいるからなぁ!」
そう優輝が言い放った途端、他のメンバーたちも誓也に目を向け、殺気立った暗いビームを放ち始める。
さっきから、こんな状態が何度か繰り返されていた。
「うほっ!ここが青龍神社ですかぁ!生美空ちゃんが拝めるぅ~~!」
テレビの特集でやっていた、御当地美人の子の名前を叫ぶと、優輝はあっという間に神社の中へ入っていった。
他のメンバーたちも優輝に釣られ、神社の中に駆けていった。
誓也は一人、神社の門を携帯電話のカメラに収めると、歩美にその写真をメールで送った。
思わず頬が緩む。
しかし次の瞬間、優輝の馬鹿さ加減が脳内を通過し、溜め息を吐くと誓也は門を潜り、青龍神社へ足を踏み入れた。
平日の午後過ぎで、受験シーズンということもあって、青龍神社には受験生と見られる参拝者がちらほら訪れている。
「美空ちゃん、会いたかったよ!」
「御当地美人特集見ました!」
おみくじなどの受付場所を見ると、優輝をはじめとする他のメンバーたちが、御当地美人に詰め寄っていた。
巫女だって業務中だというのに…。
「ねえ、参拝終わったんなら、そこどいてくれませんか?」
「あ…」
参拝は一応しておこうと思い、拝殿のど真ん中に立って優輝たちを眺めていた誓也は、後ろから掛けられた声にはっと我に返った。
「すいません」
振り向けば、セミロングで髪の一部をサイドテールに束ねた少女が立っていた。
誓也が拝殿から退けると、そのまま両手を合わせて真剣に願を懸ける。
直感ではあったが、おそらく受験生だろうと誓也は思った。
「受験生?」
何の気なしに誓也が参拝を終えた彼女に問うと、少女は無言で頷いた。
「頑張れ。意外と何とかなるもんだから」
少女に激励すると、誓也は自分が受験生だった日々のことを思い出した。
そこには、必ずと言っていいほど、いつも歩美が傍で勉強を教えてくれていたのである。
懐かしいようなそうでないような日々のことを、目を細めながら思い出していると、気が付けば少女の顔が誓也の近くまで来ていた。
「うわっ!」
驚いた誓也は慌てて後退すると、少女は意地の悪い笑みを浮かべ腹を抱えて笑い始めた。
「あはは!絶対彼女も天然系だ!」
「…!?」
図星を指されたことと、突然の顔面接近に困惑した誓也を眺め、少女は続ける。
「“頑張れ”って…私は国立大学の付属高校を受験するんだよ?ほら、ちょうどここの巫女さんが卒業している高等部。バカ面のあなたに言われなくても、何とかしますって!」
「…ああ、ソウデスカ…」
さっきまでの真剣に参拝する姿は、影も形もなくなり、少女はリラックスしていた。
「先輩…ですよね?年齢的に。私、中学3年の鮎川希望っていいます。…先輩は?」
問われ、面倒臭そうに誓也は名乗った。
「高校2年、沢中誓也です」
11月。季節はまだ、秋。これから冬がやってきて、春が過ぎて、夏になるまでは、もう少し先。
このたった1度の出会いが、まさか2度、3度…そのうち、数えきれないほどの日々を重ねていくようになることは、まだ誓也も希望も知らない。