Summer Sky (Aversion.より)
日曜日のため、街は賑わっていた。
「ねえねえ、そこの彼女たち!俺と一緒にお茶でもどうですか?」
趣味はナンパ、好物は美少女、の誓也の悪友の星優輝は本日も街中で美少女に声を掛けまくっていた。
後ろ姿ではあるが、この子たち二人は間違いなく可愛い子に違いない!
そんな期待に胸を躍らせ、顔をよく確認せずにお茶の誘いをした。
「へ…?ああ!星先輩だ~!」
優輝がナンパした二人の美少女のうちの一人。それは愛だった。
これには優輝も驚き、口をぽかんと開けたまま、愛を見つめる。
「あれ?愛ちゃん。…げっ…ということは…」
しかし次の瞬間、もう一人の美少女の正体を察し、優輝の背筋は凍りついた。
この若干、癖のあるポニーテール…間違いない。
「げっ…って何よ?”げっ”って?」
予想した通り、優輝が想像したその人物、真心だった。
ちくしょう!愛ちゃんは兎も角、相手が日向なんて…分が悪すぎる。
「んで?私たち二人になんの御用?」
不味い。こいつ、完璧に俺の目的を見抜いている。ここは一先ず。
「逃げるが勝ちだ!」
「あっ…こらぁ!優輝!」
そう言って、優輝は愛と真心の前から颯爽とした足取りで逃げていった。
昼下がりの喫茶店。
二人はコーヒーフロートを飲みながら、親友同士にしかできない会話をしている。
「本当にいいの?沢中君のこと。あんた、ずっと好きだったんでしょう?」
歩美の恋の話だ。彼女の想い人の誓也と彼の幼馴染の素直が恋人同士となって、一番ショックを受けていた歩美。
祈はそんな彼女に聞きづらいことではあったが、思いきって聞いてみたのだ。
しかし、祈の問いに歩美は清々しい笑みを向けていた。
「うん。もういいの!誓也くんよりももっと素敵な人を見つけて、いつか彼に見せびらかしてやるんだから!」
これは意外な反応だった。
歩美の覇気のある言葉と態度に、祈は少し戸惑いをみせたが、やがて。
「そっか…」
と、一言だけ言うと、別の内容の会話を楽しそうに語り出した。
夏の空が延々と広がり続け、雲ひとつなく太陽が輝いている。
幼い頃よく、彼と彼女は笑い合い走り回り、この海岸沿いで遊んでいた。
しかし幼少期が過ぎ去ると、不思議と行動も落ち着き、今では走り回ることもなくなる。
今日の二人もそうだった。
「素直…」
彼は彼女の名を呼ぶ。
ただ、二人きりで静かに波の音を聞き、ゆったりと歩くだけ。
たったそれだけのことだけれど、二人の心は温かかった。
「…別に話すことは何もないでしょう?」
そうだ。話すことなど何もない。けれど、好きな人の名は急に呼びたくなったり、脳裏に浮かんだりするものだ。
今、素直を呼んだ誓也もそんな心境だった。そして。
「…誓也」
彼女もまた、彼の名を呼んだ。
――これは、これはあるひと夏の景色。
日本の何処かにある、小さな島で。彼は笑い、彼女も笑う。
どこにでもあるような、ないような…夏の空の下の、思い出――。
Aversion.小野素直END Fin.