辺境騎士団の日常 ―マルクの恋~妹への想いー
ヴォルフレッド辺境騎士団。
どこの王国にも属していない奴らは魔物討伐を主とする騎士団だ。
170名の団員を抱える彼らはバルトス騎士団長の元、真面目に働いている。
山奥にある詰所のとある部屋で二人の青年が、灯りの下、それぞれのベッドでごろごろしていた。
「煩い。床を叩くな。煩くて本が読めない」
エダルは不機嫌に、同室のマルクに文句を言った。
情熱の南風アラフ
北の夜の帝王ゴルディル
東の魔手マルク
西の三日三晩エダル。
黒髪で平凡な顔立ちのエダルは、のんびりと本を読んでいた。
だけど、隣のベッドのマルクが煩い。
床を背から生やした触手でビタンビタンと叩くのだ。
マルクは触手使い。だから東の魔手マルクと呼ばれている。
見かけは黒髪の好青年だが、触手を絡めて魔物を締め上げる姿はえげつない。
マルクは背中から触手を二本、出現させて、ビタンビタンと床を叩きながら、
「話を聞いてくれよ。エダルっーーー」
「なんだ?恋の話なら聞かないぞ」
「そんなーー。聞いてくれよ。エダルっーーー」
ビタンビタンと床を叩くマルク。
あまりにも煩いので、エダルは、
「で?なんだ?恋の話って」
視線は本に向けながら、マルクの話を仕方なく聞いてやることにした。
せっかくアル王国のギルド長が書いた、魔物討伐の本が、今、面白い所なのに、マルクの触手が煩くて集中できない。
マルクはエダルに、
「オルディウスがさ、ちっとも振り向いてくれないんだ」
オルディウスは変…辺境騎士団の情報部長である。
ワインとチョコレートを愛好する情報部の貴公子だ。
銀髪碧眼の凄い美男で、某帝国の皇族の隠し子という噂もある男性だ。
エダルは呆れて、
「無駄な事をしているな。よりによって情報部の貴公子を???言い寄る連中は多いらしいが、誰も受け付けないって噂だぞ」
マルクは触手をさらにビタンビタンと床に叩きつけながら、
「俺だって、あちこちの国に行く毎に美味しいチョコレートや美味いという噂のワインを買ってきてプレゼントしているんだ。でも、受け取ってくれるけれど、それだけ‥‥‥」
「貴公子は、貰えるものは貰う主義らしいからな」
「オルディウスが素っ裸で朝、ベッドで、おはよう。マルク だなんて微笑んで言ってくれたら、俺はっーーーー俺はぁーーーーー」
「煩い。マルク」
「だからさ。どうしたらいいか、相談に乗ってくれよ」
「だから、煩いっ」
ヴォルフレッド辺境騎士団の本業は魔物討伐である。
しかし、屑の美男をさらって、教育するという 騎士団員達の正義という名の欲の為に、彼らは本業より熱く熱く任務に当たっていた。
5年前に異世界の勇者が持ち込んだ病気のせいで、女性と関係を持てなくなった時期もあった。今は薬が開発されてそれは解決したのだが、思いっきり性癖がひん曲がった連中が増えに増えてしまい‥‥‥
現在に至る。
エダルは仕方ないので、起き上がり、冷蔵庫の中から、
「それなら、こいつをやるよ。闇竜の肉だ。珍しく手に入ったんで、こっそり食おうと思っていた。これで貴公子になんか作ってアピールしたらどうだ?」
まぁ無理だろうけど……
マルクは触手で肉を嬉しそうに受け取り、
「なんか美味そうな包みが入っていると思っていたんだ。闇竜の肉か???でも、俺、料理出来ない」
「だったら、アルトに教えて貰えばいい。俺から頼んでやる」
「ええ。いいの???アルトって騎士団長秘書のあのアルトだよね。教えてくれるかな」
「まぁ優しい男だから大丈夫だろ。無理なら、俺とお前で作ればいい」
「エダル。料理は?」
「やった事はない」
元、公爵家の息子だったエダル。
料理なんてやったことがない。
まぁなんとかなるだろ。多分、アルトに頼めばOKしてくれるだろうし。
翌日、アルトをとっ捕まえて、エダルは頼んだ。
「アルト、忙しいのは解っている。サンドイッチを作りたい。マルクがオルディウスに弁当を作ってアピールしたいってさ。だからお前、サンドイッチの作り方を教えてくれ。闇竜の肉はある。それを味付けしてサンドイッチに入れたい」
アルトは黒髪のおとなしい男性だ。ケーキ作りが好きでよく、騎士団員達に差し入れしてくれる。
アルトは微笑んで、
「私でよければ、お手伝いしますよ。オルディウスにアピールしたいんですね。サンドイッチだけではなくて、他にも何か作って差し上げたらよいかと思います」
翌朝、早朝からアルトの指導の元、マルクとエダルはサンドイッチを作った。
闇竜の肉を味付けして、まずは焼く。硬いパンを二つに切って、野菜と共に挟み込む。チーズもとろりと溶かして肉の上に乗せた。
オルディウスの好きそうな、高級チョコを使ったガトーショコラも作った。
アルトが手とり足取り教えてくれて、マルクはとても嬉しそうだ。
そのいい香りに引き寄せられて、アラフとゴルディルがやってきた。
アラフは金髪美男。ゴルディルは大男だ。
「いい香りだな。闇竜の肉か?なかなか手に入らないんだよな」
マルクがアラフに向かって、
「やらないぞ。オルディウスに差し入れするんだ」
ゴルディルが、呆れたように、
「オルディウスにか???無理無理無理。あいつに思いを寄せる奴は多いが、皆、撃沈しているぞ」
マルクは丁寧にサンドイッチとガトーショコラを弁当箱に詰めながら、
「恋しているんだから仕方ないじゃん。エダル、アルト、有難う。俺、差し入れしてくるよ」
恋する男って最強だな‥‥‥
マルクが食堂から出て行こうとしたらオルディウスにぶつかった。
マルクが真っ赤になって、
「ごめん。ぶつかった。怪我ないか?」
触手でオルディウスをナデナデする。
オルディウスは平然と、
「俺に怪我はないが、マルク、隣国のアルディス王国に動きがあったら知らせてくれって言っていたな。特にフェリティシア王太子妃に。フェリティシア王太子妃が牢に入れられた。何でも、王太子の愛妾に毒を盛った証拠が出てきたらしい」
マルクは真っ青になった。
「フェリティシアが牢に???毒を盛った???」
オルディウスの胸倉を掴んで、
「貴公子っ。詳しく教えてくれ。フェリティシアが牢に?フェリティシアはどうなるんだ?」
オルディウスはマルクの手を引き離して、襟を直しながら、
「火炙りだろうな。いかに王太子妃とはいえ、毒殺を企んだんだ」
「フェリティシアっーーーー。お兄ちゃんが必ず助けるからなーーー。魔族、魔族に転移だっ」
オルディウスに弁当箱を押し付けて、マルクは走った。
エダルは慌ててアラフ達と後を追った。
前にマルクが話してくれた。
マルクには前世の記憶があるのだ。フェリティシアは前世、二度、マルクの妹だった女性だ。
一度目はマルクはマクスベルという魔導士でフェリティシアを守る為に命を落とした。二度目は花屋の娘のファリア、マルクはマクスという名で兄として生まれた。
ファリアは男達に乱暴されて、殺されてしまった。それはフェリティシアを恨んでいた怨霊のせいだった。
しかし、フェリティシアを恨んでいた怨霊はもういないはずだ。
それなのに、フェリティシアが火炙りになる。
マルクはいつも契約している魔族のブランを捕まえて、
「転移しろ。隣国のアルディス王国の…アルディス王国の…ええと、どこにフェリティシアは捕まっているんだ?」
やっとマルクに追いついた。
エダルがマルクに向かって、
「むやみに突っ込んでいくな。マルク。お前が言っていた妹だろ?前世の。人を攫うのは得意分野だ。俺達は辺境騎士団だからな」
アラフがウインクして、
「そうそう。俺達に攫えない屑の美男は、今回は違った女性だな。攫えないターゲットはいない」
ゴルディルが胸を叩いて、
「任せておけ。どんなところからでも攫って見せる」
アルトが微笑んで、
「皆さん、頑張って下さい。美味しい物でも用意してお待ちしております」
オルディウスがマルクに向かって、
「情報なら任せて欲しい。フェリティシア王太子妃がどの牢に入っているか、情報部の総力を持って調べ上げる」
マルクは涙を流して、
「皆、有難う。俺、俺‥‥‥フェリティシアに何かあったらどうしようかと」
エダルはマルクを抱き締めて、
「ヨシヨシ。大丈夫だから、な。皆でフェリティシアを助けだそう」
フェリティシア王太子妃は簡素なドレス一枚で、牢に入れられていた。
それも、王宮にある冷たい地下牢である。
いきなり、エリック王太子の愛妾イレーヌに毒を盛ったという嫌疑で捕らえられたのだ。部屋から毒薬の瓶も見つかった。イレーヌは命はとりとめたらしい。
でも、毒薬なんて知らない。
フェリティシアは公爵令嬢として生まれた。
幼い頃から王太子妃になることが決められていて、厳しい教育を受けながら過ごしてきた。
エリック王太子の間に愛なんてない。
エリック王太子はそれはもう金髪碧眼の美男だけれども、イレーヌ・セレス男爵令嬢に貴族なら誰しも行く王立学園に居た頃から夢中だった。
だから、仕事も婚約者であるフェリティシアに押し付けて、自分はイレーヌと遊び歩いていたのだ。
フェリティシアは婚約者なのだから、エリック王太子の仕事をやるのは当然だと、押し付けられたら押し付けられただけ、仕事をやった。
フェリティシア自身は大人しい令嬢だ。
幼い頃から、親が敷いたレールの上を歩いていて、反抗するだなんて考えられなかった。
ひたすら勉強して、ひたすら婚約者の為に尽くし、ひたすら、命じられた事をやり遂げる。
それがフェリティシアの生きる道だった。
結婚してもそれは変わらず、遊び呆けるエリック王太子と、愛妾のイレーヌ。
エリック王太子の執務もフェリティシアが肩代わりして、エリック王太子の為に尽くした。
尽くすのが当たり前。
もっともっと尽くさなくては。
それなのに、毒を盛ったという容疑で牢に入れられたのだ。
わたくしは知らない。
毒なんて盛っていない。
エリック王太子にせせら笑われた。
「私がイレーヌばかり構うものだから、お前は嫉妬したのだな。なんて愚かな。毒でイレーヌを殺そうとしたのだ。お前は裁判の末、火炙りになるだろう。いい気味だな」
ただただ、働いてきた。
エリック王太子の為に、王家の為に。
イレーヌに嫉妬した?
嫉妬って何?
愛するって何?
わたくしは何も解らないわ。
ただただ、敷かれてきたレールに沿って生きてきたのですもの。
もう疲れ果てたわ。
火炙りは怖い。怖いけれども、わたくしの言う事なんて誰も信じない。
ただ、死ぬのを待つだけ‥‥‥
フェリティシアは涙した。
牢のカギが開けられた。
牢番が食事を持って来たのか。
硬いカビの生えたパンとスープを一日、二回運ばれてくる。
フェリティシアはそれでもお腹がすいて、そのパンとスープをむさぼるように食べてしまうのだ。
顔を上げると、一人の青年が目を輝かせて、
「フェリティシア。迎えに来た。さあ、ここから逃げよう」
背中から触手がウネウネと二本、飛び出している。
フェリティシアは悲鳴を上げて、気を失った‥‥‥
フェリティシアが気が付いたら、四人の男達が覗き込んでいた。
「目が覚めたみたいだ」
「おおおおっ。良かった良かった」
「フェリティシア。心配したよっ」
「ともかく、お腹はすいていないか?何か食べるか?」
一人の男性は牢に助けに来てくれた男性だった。
触手が背から二本ウネウネしている。
フェリティシアは怖くなって震えた。
そこへ一人の中年女性がやってきて。
「ちょっとアンタたち。屑の美男じゃなくて、今度は女性を攫ってきたのかい?こんなに震えて。可哀そうじゃないか」
彼女はアマンダと言って、最近、食堂に配属になった女性だ。
サバサバしていて、団員達に慕われ、この変…辺境騎士団にあっという間に溶け込んでいた。
フェリティシアに向かって、
「怖くないからさ。こいつら悪い奴等じゃない。ただ性癖はひん曲がっている奴らが多いみたいだけどね。着替えた方がいいかい?それとも何か食べるかい?消化のいいものを用意してあるから」
アルトがトレーに温かい肉が入ったスープと柔らかいパンとチーズを乗せた器を持って来た。
フェリティシアはお腹がすいていたので、食事を頂くことにした。
食べながら涙が零れる。
近くでさっきの触手を生やした男がじいいいっと見ているのが薄気味悪い。
男は自己紹介をした。
「俺、マルクって言うんだ。触手を持っているけど怖くないっ。怖くないからね」
金髪碧眼の美男が、
「俺はアラフ、そっちの大男はゴルディル。黒髪の男はエダル。よろしくな。フェリティシア様」
フェリティシアは食事をしながら、
「わたくしはどうなるのでしょうか?」
アマンダが笑って、
「ここにいなよ。どうせ行くところがないんだろ?女性が入れる寮もあるから。規律が厳しいから手出しされる心配もないし。アタシがしっかりと面倒を見てあげるよ」
フェリティシアは有難かった。好意に甘えることにした。
エダルはマルクに、
「よかったな。お前の妹、助け出すことが出来て」
マルクは頷いて、
「有難う。皆の協力のお陰だよ。本当に良かった。俺、フェリティシアの幸せだけを考えて前世から生きてきたんだ。フェリティシアは今世は絶対に幸せになって欲しい」
皆でしんみりした。
アラフが、
「何か忘れていないか?屑の美男だぞ。あの王国のエリック王太子。極上の美男だ」
ゴルディルが指をぽきぽき鳴らして、
「それじゃ極上の仕置きコースを用意しねえとな。四天王フルコースでいくか?」
マルクが首を振って、
「生かしておけない。俺の妹を殺そうとしたんだ。それにフェリティシアがあの王太子の顔をここで見たら怖がるだろ?」
エダルが宥めて、
「俺達は人殺しじゃない。そりゃ過去には人も殺した事はあるだろうが」
マルクが触手をウネウネしながら、
「でもこのままにしておけないよ」
四人は相談した。そうして決めた事を決行した。
エリック王太子は騎士団に命じて、フェリティシアを血眼になって探させた。
イレーヌが許せないと言っているのだ。
愛しいイレーヌ。殺されようとしたのだ。
「イレーヌ。怖かっただろう。騎士団に探させているからあの悪女はすぐに見つかる」
「怖かったですわ。エリック様ぁ。早くあの悪女を見つけて下さいませ」
「あの女を火炙りにしたら、お前を王太子妃にしてやる。愛しいイレーヌ」
そこへ国王陛下と王妃がやってきて、
「エリック。お前の執務が滞っているようだが?」
「そ、それは‥‥‥」
今までフェリティシアに全て押し付けてきたのだ。
エリックはイレーヌと遊び回っているだけだった。
王妃が冷たく、
「ちゃんと貴方、執務をやっていたのでしょうね?エリック」
「勿論です。母上」
その時、天井から書類が降って来た。
宮廷の医師が毒薬を仕入れた証拠の書類が。
国王が書類を見て、すぐに近衛騎士に命じた。
「ハレール医師を連れて来い」
ハレール医師は証拠の書類を見て真っ蒼になった。
「この書類はっ。私はイレーヌ様に頼まれただけです」
イレーヌは首を振って、
「嘘嘘嘘っ。私は知らないわ。私は毒を盛られたかわいそうな女よ。貴方が私をはめようと。貴方がフェリティシア様に頼まれて私に毒をっ」
思いっきりイレーヌはフェリティシアに罪を再び擦り付けようとした。
天井から怒り狂ったマルクがイレーヌの前に飛び降りて、
「お前みたいな屑は生きている価値はないっ。どうしてだ?どうしてフェリティシアをっ」
近衛兵がマルクを捕まえようとする。
アラフとゴルディルとエダルが天井から飛び降りて、
アラフが叫んだ。
「近づくな。近づくとこいつの命はないぞ」
エリック王太子の首筋に刀を押し当てる。
皆、その場に固まった。
イレーヌは叫んだ。
「私は王太子妃になりたかったのよ。私は王太子妃になっていずれ王妃になるの。そして贅沢をするのよ。あの女は気の毒な女。仕事を押し付けられて愛されずに。まぁ今までは役に立ってきたからよかったけど。でも、王妃になるには邪魔だから、思いっきり罪を擦り付けたわ」
マルクがギリっと唇を噛んでイレーヌを睨みつける。
イレーヌは笑いながら、
「私は可哀そうな可愛そうな女なの。身分が低いだけで愛妾どまりなんて嫌よ。ねぇ。国王陛下。フェリティシア様が私を殺そうとしたのよ。だから可哀そうな私を王太子妃にして。いずれ王妃にして。ねぇねぇねぇお願いだから。うふふふふふふふふふふふ」
マルクが叫んだ。
「だからってフェリティシアを。フェリティシアを殺そうだなんて」
マルクの触手が背から無数に広がる。
イレーヌに向かって、凶悪に伸びていく。
エダルがマルクの肩に手をやって、
「殺すな。気持ちは解るが、な?この女の始末は国王に任せよう」
アラフもゴルディルもマルクに向かって頷く。
マルクは触手をシュルシュルシュルと背に収めて国王を見た。
国王陛下は、
「この女を牢へ。それからお前達は変…辺境騎士団だな。エリックを攫いにきたのか?」
アラフは首に刀を当てていたエリックを突き飛ばして、
「フェリティシア様が怖がるから、今回は攫わない。だが、こいつは屑だ。こいつが王太子でいる限り、この王国に未来はないだろうよ」
マルクも頷いて、
「フェリティシアは我が騎士団で貰い受けた。もう二度とこんな国に返さない」
四人は背を向けて、姿を消した。
フェリティシアはアマンダや他の女性達の元、食堂で働いている。
お手伝いしたいとフェリティシアから言い出したのだ。
既婚者以外の若い女性はこの騎士団で働いていないので、バルトス騎士団長が、
「フェリティシア嬢にはふさわしい場所へ行って貰った方が良いのでは?マルディトス公爵家に私の身内がいる。そこの養女になって貴族令嬢としてふさわしい未来を。なぁに。アルディス王国も我が騎士団の関係の身内には手出しはしないだろうからな」
と言ってくれた。
フェリティシアはマルディトス公爵家に養女として引き取られることになった。
騎士団長の娘、シュラディアが夫のカディスと共に迎えに来た。
「貴方がわたくしの妹になるお方ね。わたくしの元へくれば大丈夫。安心だわ」
フェリティシアはシュラディアに抱き締められて涙を流していた。
マルクは安堵したように、馬車に乗るフェリティシアを見送った。
フェリティシアは前世の事は覚えていない。
ただただ、マルクはフェリティシアの幸せを願った。
エリック王太子は王太子の位を下ろされて、離宮に隔離されているそうだ。
そのうち、病になって亡くなることになるだろう。
子に甘い国王や王妃も、今回の事が、何故か新聞社にすっぱ抜かれて記事になったので、エリックを王太子の位から降ろすしかなかった。
新聞にはエリック王太子が今まで仕事をしてこないで遊び惚けていたこと。
愛妾イレーヌがフェリティシア王太子妃を陥れて火炙りにしようとしたことが書かれていた。
イレーヌは火炙りになった。
最後まで抵抗して醜く、喚きたてていた。
― 私は悪くないっ。悪いのはフェリティシアよっーーー 私は無実よ ―
マルクはその新聞記事がテーブルに置いてあるのを見て、
フェリティシアに害を及ぼす者がいなくなったことに安堵した。
そして、冒頭に戻る。
ビタンビタンビタン。
エダルはベッドで魔物の討伐記を読んでいる。
またマルクの触手が煩い。
マルクの声がした。
「なぁ、エダル。聞いてくれよーー。オルディウスがさぁ」
「なんだ。恋愛の話なら聞かないぞ。時間の無駄だ」
「酷いな。聞いてくれよーーー」
今日も平和に変…辺境騎士団の日常は過ぎていくのであった。




