第3話 魔法の加護
「ウインドカッター!!」
最近の僕は公爵家の騎士団の演習場で魔法の練習に励んでいる。理由はもちろん学校に入るためだ。
魔法じゃなくても剣や弓、斧とか自分の得意で実技試験を受けることができるけど、勉強ができる人は魔法を使えることが多いから魔法の試験が多いらしい。
「シオン様の隣にいるだけでわたくしの魔法の腕が向上していくのを感じますわ♡、きっとシオン様がいいお手本になってくださっていますの♡」
僕としてはただ好き勝手に魔法を放っているだけだけど、アンゼリカ様にいい影響を与えられているならよかったかも。
この世界では女性が危険な仕事をして男性は守られる存在だけど魔法の才能に男女の優劣はない。だから僕は魔法の力で身を立てていくんだ。
そして今は魔法と並行して騎士団の人に剣を教わっている。せっかく女神様がくれた初期装備に刀があったんだもん。やってみなきゃ。
意外にも剣を振ってみると驚くほど体がスムーズに動く。次に相手がどんな動きをして来るのか、自分がどう動けばいいのかわかる。これも加護の力だろう。
「シオン殿はきっと以前剣を振っていたんだろう。体が覚えているんだ」
騎士団の中にはこの前一緒に狼退治をした女騎士のルアンさんもいる。忙しいだろうに僕の相手をよくしてくれて的確にアドバイスしてくれる。
「相手の体格が自分より大きいときや、力が強いときはこのように握って......あん♡、す、っすまない!」
ルアンさんが僕にくっついて木剣の握り方を教えてくれようとしたとき、2つの大きなふくらみがポヨンと背中に当たった。
この世界では女性から男性のセクハラにすっごく厳しい。故にちょっとの事故でも大問題だ。
「僕は大丈夫ですから、気になさらないでください」
「す、すまないな......コホン!」
気を取り直して剣術をルアンさんに教えてもらったら、模擬戦闘をして教えてもらったことを体に覚えさせる。
「シオン様♡、今日はお買い物に参りましょう♡」
「お買い物ですか?」
「えぇ♡、シオン様が公爵邸で暮らすのに必要なものを揃えましょう♡、お洋服だとか、は、肌着だとか♡」
たしかに今は借り物ばっかりで自分の服は1着しか持ってない。お金もそれなりに持ってることだし、買いに行くのもいいだろう。
安めの服屋さんで既製品の服を何着か買って肌着も購入した僕らはなぜかアンゼリカ様のお洋服も買うことになった。
「どうですの?♡、シオン様♡、似合っていて?♡」
「はい、とてもお似合いですアンゼリカ様。僕アンゼリカ様のお着替えならいくらでも待てます」
「も、もう♡、シオン様ったら♡」
素直に褒めてあげたらアンゼリカ様は照れてくねくねし始めてしまった。男女比が歪んだ世界だからちょっと加減が難しいかも。
「そして今日はシオン様の身分証を作りに冒険者ギルドにも行きますの!」
冒険者とは魔獣や魔物との戦闘、商隊の護衛、素材の採取などをする人たちのこと。お仕事の内容は結構幅広いし、登録だけして身分証をゲットする人もいる。
ギルドの中に入ると、ちょっとお酒臭くて荒っぽそうな人がたくさんいる。ちょっと怖いけど受付に進まなくっちゃ。
「シオン様のことはわたくしが守りますわ♡」
女の人の背に隠れるなんて......って思っちゃうけどこの世界ではそれが普通なのだ。
受付で説明を受けると、登録には試験を受けなくてはいけないみたいで、得意な技能で何かしら強みを見せなくちゃいけない。僕はもちろん魔法で頑張ってみる。
「この的に好きな魔法を撃ってみろ、基本は威力を考慮して合格を決める」
ギルドの庭に案内されて試験官の女の人から説明を受けたら試験開始だ。
僕は魔力を一気に昂らせて、魔法を発動させる。魔法に1番重要なのはイメージだ。今回は爆炎的を燃やし尽くして粉々にするイメージで......
「ファイアボール!!」
的に当たった瞬間大地が揺れるほどの衝撃が走って髪が爆風に靡く。的は灰になっているから僕のイメージ通りだ。
「ご、合格でしゅ......」
何故か敬語に赤ちゃん言葉だったけど、無事に冒険者のギルドカードをもらえて、今日から僕はGランクの冒険者になった。
晴れて冒険者になった僕は魔法や剣の練習をしながらちょっとずつ冒険者活動を始めた。最初は薬草の採取や小さな動物の狩猟とか。
「空間収納って便利だな~」
最近覚えた『空間収納』っていう、生き物以外なんでも入る異次元のカバンを作る魔法を駆使して素材をたくさん採ってはギルドに見せて冒険者ランクアップの査定をしてもらう。
「シオン様と冒険~♡」
アンゼリカ様も冒険者の資格を取っているからたまに一緒に冒険をする。まぁピクニックみたいな感じだ。もちろんアンゼリカ様には護衛のルアンさんが付いている。
日当たりがよくって穏やかなところを見つけたら、僕の空間収納からお弁当を取り出して3人で食べる。今日はサンドイッチだ。
「ふふ♡、何て穏やかなんでしょうか♡」
「お嬢様!、すぐに逃げてください!」
「え?」
穏やかな昼食を楽しんだ後ゆっくりしていたら、ルアンさんが急に立ち上がって剣を抜いた。
森の奥の方では腕が6本もある熊がこちらに向かってゆっくり近づいてくるのが見える。あれは魔獣ではなく魔物だ。
魔獣っていうのは動物が魔に染まった姿で、体格が1周り大きくなる。動物の大きいバージョンって感じだ。
魔物も動物が魔に染まったり、魔力溜まりから生まれたりするけど、時々通常の生物ではありえない体格になったりする。腕が多かったり頭が多かったりね。
今回のは間違いなく魔物。だって腕が6本なんて普通じゃない。
僕らはお昼ご飯を食べていたようにこの熊も僕らのことをお昼ご飯にしようというのだろうか。
「わたくしも戦います!、シオン様は逃げてください!」
アンゼリカ様はルアンさんを置いて逃げる気はないみたい。どう考えても魔法の実力は僕の方が上なのにアンゼリカ様は僕を逃がそうとしてくれる。
「僕だって......僕だって戦います!」
僕も必死に叫んで熊がのっそりと近づいてくるのを目でとらえながら両足で大地を踏みしめる。




