第23話 救済という名の善意
夜会が終った次の日の朝。なんだかいつもよりメイドさんたちが恭しい感じがする。
いつも十分すぎるほどに丁寧に扱ってくれる皆さんだけど、さらに丁寧になった気がする。
そんなメイドさんたちに行ってきますをして僕は久しぶりに学校へ行く。
「聞きましたか?、昨日の夜会の話......」
「えぇ、枢機卿の一団がシオン様に懺悔なさったとか......」
「きっとシオン様の入学式のスピーチのようなお話があったのよ!」
教室に行くまでの道中いつもよりも女子生徒からのひそひそ話が多い。
というか昨日の話がもう広まっている。そのうち尾ひれどころか背びれ胸びれまで着いた話が出回りそう。
何もしてないはずなんだけどな......
今日は学校で久しぶりにみっちりお勉強をした。授業に出ない分は自分でしっかりやらないとね。
「シオン様、昨夜の夜会の件で聖王国にもしかしたら動きがあるかもしれません」
「動き?」
アンゼリカ様と公爵邸に帰っていつもの通りお茶していると、少し真面目そうな雰囲気で注意された。
「シオン様の話が聖王国の本国に伝われば考えられる反応は2つございます」
アンゼリカ様は指を2本立てて説明してくれる。
「1つは静観。シオン様を尊いお方だと認めて何もしない穏健派ですの。2つ目はシオン様を強引に祭り上げようとする強硬派。昨日の枢機卿もこの派閥ですわ」
「う~ん......僕は聖王国に行くつもりは......」
「それはもちろんわかっていますの。そしてもう1つ気を付けていただきたいことがあります」
まだあるのか......思ったより厄介な国に目をつけられてしまったのかも。
「先ほど申し上げた派閥に属さない『個人』が大暴れする可能性もありますわ......そう、例えば聖女様......」
聖女様って言うと女神トゥルリナ様が神託で選ぶ乙女のことだけど......そんな人が悪さするかな?
「彼女は誰よりも真面目で......誰よりも不器用なのです......強硬派よりも強硬手段に出る可能性も......」
「強硬派よりも?」
「えぇ、強硬派はシオン様を利用したいだけ......ですが聖女様は......」
アンゼリカ様は一幕おいて話を続けてくれる。
「聖女様は、シオン様を『救済』なさろうとするでしょう」
『救済』......なんだかその言葉は単なる辞書の意味以上に重かった。
「聖女様は女神様の言葉を賜る存在。もし神託にてシオン様を聖王国にお連れしなさいと言われれば......」
「拉致......とかですか?」
「はい......」
困ったな......そりゃあ強硬派よりも強硬だ。悪意0の正義の味方って信じ切ってるってことだもん。
「それこそ保護という名目で強引に連れ去ることさえあり得るかもしれません」
「保護?」
「聖女様の目的はシオン様を『救済』すること......紛れもない善意なのです。彼女たちには神託は絶体です」
絶体か......神託にすべてを委ねて自分で考えないのは僕とは相容れない考えかも。
「ですがとても優しい人でもありますの......ですから、どうかシオン様を救済対象としてみないで欲しいと思ってしまいます......」
アンゼリカ様は祈るようにティーカップに視線を落とす。
「彼女は誰よりも優しく慈悲深い......誰かが泣いていたら一緒に心を痛めてくれる、そんな方ですの」
全然悪い人には聞こえない。むしろ素晴らしく尊い心の持ち主だとさえ思う。
「だからこそ、自分が正しいと思う行動を曲げず、貫く人ですの。神託で下ったことならばなおさら......」
「で、でもそんなひどい神託って下るんですか?」
僕の脳裏には顔をぐちゃぐちゃにして泣いていたあの女神様の顔が浮かぶ。そんな酷いこと言わなそうだけど......だってあんなに僕に謝ってくれて、一緒に働こうって言ってくれたあの女神様が。
「神託とは曖昧なものだと聞いています。『救いなさい』『導きなさい』のように......」
「つまりは聖女様の解釈次第ってことですか......?」
僕の言葉にアンゼリカ様はゆっくり頷く。
「神託を疑うのは不敬ですから。もし『救済せよ』と神託が下った場合、シオン様を聖王国にお連れすることが救いと、俗世から離すことが救いととらえるかもしれません」
「ぼ、僕の意思は......」
「残念ながら無視されるでしょう」
アンゼリカ様の言葉には諦めと、少しの怒りが感じ取れた。
相手の意思を無視した善意なんて本当の善意なんかじゃないと思うな......それを善だって信じ切っている人ほど厄介だ。
「シオン様、できれば今後は1人にはならないでくださいまし」
「き、気を付けます......」
冷めかけのお茶は少し苦く感じた。
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side聖女
『救いなさい』
『彼をあるべき場所へ導くのです』
彼......一体どなたのことでしょうか......?
真っ白な美しい祭壇で私は今、女神トゥルリナ様からお言葉を賜っています。
「翡翠の竜鱗。その中心にいる少年......」
『翡翠の竜鱗』......それは確か『聖男』様と呼ばれる少年のことだったはずです......確か名前は......そう、シオン様と仰ったはずです。
『救う』......きっとシオン様は辛い状況にあるのですわ。神託を賜るほどのお方......この世界にとってなくてはならないお方......
「待っていてくださいシオン様。わたくしが救って差し上げますわ」
シオン様......きっと孤独と戦っておられるのですね......
魔物の暴走を止め、ドラゴンを倒し、枢機卿たちの汚れた魂まで浄化した。
しかし彼は孤独なはず、強者故の孤独に苛まれているに違いありません。
「わたくしが......わたくしがお側に参りますわ......」
聖女として神託を賜ってからずっと考えていました。なぜわたくしなのか。何のためにわたくしが聖女になったのか。
「きっとこのためでしたのね......」
神託を賜った聖女であるわたくしが、聖男であるシオン様をお救いするため。この運命のためにわたくしは今生かされているのですね。
「トゥルリナ様、どうかお待ちくださいませ。わたくしとシオン様が2人でここに並び立つその時まで」
シオン様、待っていてください。わたくしが......必ず『幸せ』にしてみせます。
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