第21話 帰る場所
「シオン様♡、お帰りなさいませ♡」
アンゼリカ様は僕が公爵邸に帰ってくると思いっきり抱きしめてお出迎えしてくれる。離さないと言わんばかりに胸に顔を擦りつけて来る。
「アンジー!、そろそろ代わって!」
ちょうどクリスティーン様もいらっしゃるみたいで、僕はクリスティーン様ともただいまのハグをする。
「あぁ♡......シオン様♡」
「僕すぐに迷宮都市に戻らなきゃなんです」
僕がそう言った後、2人が僕を抱きしめる力が強くなった気がする。
「実は......」
僕は迷宮浅層でのはぐれドラゴンの出現と、そのもしもの時の対処のために迷宮都市に残らなきゃいけないことを伝えた。
「むむむ......確かにシオン様にしかできませんわね......」
「シオン様......どうかご無事で......」
「はい。また必ず帰ってきます」
もう1回だけ2人とハグをしたら迷宮都市に戻ってドラゴン調査の報告が上がるまで待機する。
「無事でよかったよ。本当に」
今は『箱舟』の所にカミラさんの槍を届けに来ている。
「ありがとうシオン」
みんな僕のことをすっごく心配してくれてたらしく、元気な顔を見せられてよかった。
ちなみに3人はギルドの演習場で迷宮に行けなくて鬱憤が溜まった冒険者たちとひたすら訓練をしている。
僕は『休んでなさい!』って言われたから宿屋でゴロゴロだ。僕自身は戦ってないから疲れてないんだけどな......
暇だし魔道具でも作ろうか。リゼのために作るっていう約束だったし。
爆炎の魔法をこめた矢とかいいかな。刺さった後で爆発して内部から破壊するみたいな。
使い捨てっぽくなっちゃうから安めの矢に付与しよう。爆発したら矢は粉々だからね。
あとは電気ショックとかもいいかな。正確に弱点を狙えるリゼなら使いこなせるはず。
たくさんの矢に魔法を付与した僕はエルをブラッシングして一緒にお昼寝タイムにする。
「すぴ~、ぷす~」
エルの体に巻き付かれるとふわふわあったかくてすぐに眠くなってきちゃう。
「ピッ」
ニジハも僕の腕の中にもぞもぞ入り込んであったかくして寝ている。
「きゃわぃぃ♡」
「起こさないようにしようね♡」
「この寝顔は我らで守ろう♡」
瞼の向こう側から声が聞こえるような気がするけど、眠くてそれどころじゃないや。起きたくないって思っちゃうのはあったかいからかな?
「んん~っ!、結構寝ちゃった......」
窓から差し込む光はもうオレンジ色。意外と疲れてたのかもね。
「あ♡、シオン起きたんだ♡、おはよう♡」
「おはようリゼ」
「んふふ♡、かわいい♡」
水魔法で顔を洗った僕は宿屋の食堂で夜ご飯を食べてまたすぐに寝るのだった。
数日経って僕はギルドマスターに呼び出された。きっと調査隊の報告が上がったんだろう。
ギルドマスターの部屋に行くくらいじゃ、リゼたちも『ついてく!』って言ってくれなくなったのがちょっと寂しい。
「単刀直入に言う。ドラゴンは見つからなかった。迷宮は普段のあるべき姿に戻った。これで冒険者たちも食いっぱぐれないで済む」
あれ意外にもドラゴンがいたらどうしようなんて思ってたけど、1体だけだったみたい。
「ありがとうシオン。ワータラの冒険者ギルドを代表して感謝する」
ギルドマスターみたいなかっこい女の人に深々と頭を下げられて感謝されるとちょっと照れくさいな......
冒険者ランクもBランクに上げてもらった僕らは、いよいよ久しぶりに王都に帰還する。ちなみに僕もみんなも冒険の合間に勉強してたからそこはあんまり心配ない。
帰りも冒険するか転移魔法で帰っちゃうか悩んだんだけど、予期せぬ長期滞在になったから転移魔法でサクッと帰ることにした。
「ただいま帰りましたアンゼリカ様」
「おかえりなさいませ♡、シオン様♡」
またアンゼリカ様にお出迎えしてもらって、僕の方からもぎゅってする。
「さぁ♡、シオン様の冒険のお話♡、聞かせていただきますわね♡」
アンゼリカ様に手を引かれて部屋に入った僕はいつもの通りアンゼリカ様と隣同士でお茶をする。
「シオン様が『聖男』なんて呼ばれていらっしゃるのが王都まで届いていましたわよ♡、聞かせていただけます?♡」
イタズラっぽく笑うアンゼリカ様に僕は『箱舟』との出会いとニジハが頑張ってくれたことを話してあげる。
「アンジー!、シオン様がお帰りになったと......!♡、シオン様!♡」
アンゼリカ様とお話していたらクリスティーン様が風のような速さで部屋に入ってきた。
「ミャウ!」
ライも遅れて部屋に入ってきてのお膝に乗ってくれる。
「ライちょっとおっきくなったね」
「ミャウ!」
ライは今成長期真っ盛りだからしばらく見ないと体長が大きくなっているのだ。
「シオン様が『聖男』様だというお噂は王宮にも届いていましてよ♡......聖王国に取られてしまわないか少し心配ですの......」
「そうですわね......類稀なる回復魔法の使い手など聖王国が黙っているはずはありませんから......」
2人が言う聖王国っていうのは『シャラン聖王国』と言ってトチーヌ王国から遠く南西にある大国だ。
この世界の最大手宗教の『トゥルリナ女神教』の総本山で、回復魔法や光魔法なんかの神聖魔法の使い手を大陸中から集めて雇っている。
「僕の居場所はここですから。アンゼリカ様がいて、クリスティーン様がいて......『翡翠の竜鱗』のみんながいるところです。帰る場所も、守りたい人も決まってます」
「「シオン様......♡」」
「ミャウ!」
「ふふ、ライも守ってくれるの?」
「ミャウ!」
ライも『自分も頑張る!』って言うみたいに僕のお腹に顔をスリスリしてくれる。
「ですがシオン様、聖王国の方たちには本当に気を付けてくださいね。悪い方たちではないのですけれど、神聖なものを見ると後先考えられない人もいますので......」
アンゼリカ様は僕の手を握りながら心配そうに顔を曇らせている。
「大丈夫よアンジー♡、わたくし達でシオン様を守る、そうでしょう?♡」
クリスティーン様ももう片方の手を握りながら僕のことを安心させてくれる。
「そ、そういえば今度聖王国の方もいらっしゃる夜会が開かれるはずでは......」
「そ、そうだったわねアンジー......」
どうやら早速聖王国の人がトチーヌ王国に来るイベントがあるみたい。
「シオン様!、どんなに甘い言葉をかけられても靡いてはいけませんわよ!」
「そうです!、わたくし達より綺麗な女の子がたくさんのハーレムだとか!、好きに魔道具を開発できる環境があるとか......と、とにかく先ほどの言葉を忘れないでくださいまし!」
クリスティーン様とアンゼリカ様は急に僕の手をぎゅって握って不安そうにしている。
「はい、約束します、ちゃんと帰ってきます」
「ミャウ!」
ライは気まぐれに『そろそろ撫でてくれ』と言わんばかりに僕とクリスティーン様の重なった手に頬ずりして来るのだった。
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