第20話 約束の重さ
「そうか......今君以外に頼れる者がいないというのは事実だ。『大樹』も王都にいるし、他の強豪パーティも連絡が取れない迷宮深層にいるからな......」
アネットさんたちは僕が単独でドラゴン退治に行くって聞いて、驚いているような、納得しているような感じがする。
「本来ならば私たちもドラゴン1匹に負けるようなパーティではないのですが......」
「うん。あれは地上にいる個体で言うなら古龍クラスだね」
テレシアさんとリーディアさんがドラゴンの特徴や危険性を僕に精一杯伝えようとしてくれる。
「僕が倒すついでにカミラさんの槍も取って来ますよ!」
どうやら逃げる途中でカミラさんの槍がないことに気づいたらしく、そのことを混ぜつつ冗談で場を明るくしてみる。
「ふふ、是非頼むわ♡、ケホッ......」
「ピッ!」
咳き込むカミラさんの頭の上に乗ったニジハが癒しの力を使ってあげている。これで少しは楽になりそうだ。
カミラさんのお見舞いから帰った僕らは一晩休んで、翌朝から僕単独でドラゴン退治に向かう。
宿屋でみんなとハグで行ってきますをしたら、ギルドで特別な通行許可証をもらってくる。今迷宮は浅層でのはぐれドラゴン出没によって一時的に入ることができなくなっているのだ。
「通ってよし!、お気を付けて!」
草原エリアは風魔法で空を飛んでショートカット。ミノタウロスも魔法で1撃。次の熱帯雨林エリアでもエルの鼻が利く方に進んであっという間にこの前までいたセーフエリアに戻ってきた。
今はセーフエリアの冒険者の数が極端に少ない。きっとドラゴンの出現を受けて引き返したんだろう。
僕はエルとニジハと一緒に次の砂漠エリアへと足を踏み入れた。砂漠の熱さは魔道具で防げるけど、砂の歩きにくさはどうしようもない。
僕らはまた風魔法で空を飛んでドラゴンを探す。エルなんて風魔法で空気の足場を作って空を走っているしね。
『箱舟』から聞いた話だとセーフエリアから1階層目にいるって話だったから、この階層にいるはずだ。魔物は階層を跨いで移動しないからね。
魔力探知の範囲を広げてドラゴンの場所を探っていると、高速で僕らの方に移動して来る何かを感じる。
さっきまで遠くに見える豆粒だったのがどんどん巨大な黒いドラゴンに見えてきて僕らは急いで回避する。
砂地にダイナミックに着陸したドラゴンは首をもたげて僕らを見下ろして来る。
黒い巨体に1対2本の翼。それに4本足。これが報告で聞いていたドラゴンだろう。今までに見たことない威圧感をしている。
「グルルルルル......」
ただ、何も攻撃はしてこない。もしかしてエルたちを警戒しているのかな?
「グラァァァァァァァ!」
魔力の反応が高まったと同時に僕らは散開する。さっきまで僕らがいた地面はドロドロに溶けてガラスみたいになっている。
こんなの食らったらひとたまりもない。骨すら残らず消えてしまうだろう。
雷撃を躱しながら僕らは攻撃の隙を探るけどドラゴンは雷を纏っていて、直接攻撃するとこっちが怪我しそうだ。
しかもその雷を纏ったまま噛みついたり、爪で切り裂いたりしてくる。すれすれで回避したときには僕の肌が焼けそうになるくらい熱かったし、静電気で髪が逆立つ。
「ファイアストーム!」
小手調べに炎の渦で攻撃してみると、纏っていた雷がかき消されて、地の肌が露出した。あの雷は攻防一体みたいだ。
「エル!、僕に合わせて思いっきり攻撃!、その後ニジハは全力であいつの体を貫いて!」
「ワフ!」 「ピッ!」
「行くよ!、ブリザードコフィン!」
「ワォォォォォン!!」
僕とエルの最大火力の氷魔法がドラゴンの体を包んで氷漬けにした。
「グルルォォォォ!!」
しかし氷は無残にも砕け散って、ドラゴンが雄たけびを上げる。
「ぴゅいぃぃ!!」
しかし僕らの攻撃はここで終わりじゃない。ニジハが上空からドラゴンめがけて急降下突進する。
「グラァァァァァァァ!!」
ドラゴンの体の中心には大きな風穴が開いて、さっきのドラゴンの攻撃以上の温度で地面が溶けている。
「ピッ!」
魔力の粒子になって消えていくドラゴンの中からニジハがいつもの定位置の僕の肩に帰ってきてくれる。
「よかった......」
僕はエルとニジハを抱きしめてしばらくじっとしていた。
「ワフ?」 「ピッ?」
2人とも『どうしたの?』って感じで顔を舐めたり羽で撫でたりしてくれる。
「ありがとう、もう大丈夫」
戦いが終ってから遅れて思った思ったのだ。
『もしかしたら帰れなかったんじゃないかな』って。リゼたちやアンゼリカ様たちとの日常がもしかしたらなくなるんじゃないかって。
そう感じて怖くなってしまったのだ。
スタンピードなんてなんでもないくらい。ドラゴンは強大で恐ろしかった。
「うじうじしてちゃダメだね!」
魔石と素材を回収した僕はカミラさんの槍の回収に向かう。
「う~んと、カミラさんっぽい魔力を探して......」
武器には魔力を通して戦うから、使い手の魔力が馴染んでいることがある。それを頼りに槍を探していたらあっという間に見つかった。
「コレだね!」
綺麗なラベンダー色のらせん状の槍だ。
ちゃんと約束は果たせそうで、安心した。この槍にも僕が生きる理由が詰まってる。そう感じた。
「ご、ご無事でしたか!」
迷宮の入り口の女の人は結構心配してくれてたみたいで、無事を喜んでくれた。でもまさかもう倒したんて思わなかったみたいで、角を見せてあげたら腰を抜かしていた。
「おいあれ......」
「逃げて帰って来たんじゃないの?」
「さすがにそうだよな......あんな少年に任せるのは......」
「シオン!、帰ったか!、ドラゴンは見つからなかったのか?」
ギルドマスターもソワソワしながら僕を待ってたみたいで、自分の部屋じゃなくてロビーにいた。
「倒してきました!」
僕は周りの不安そうな声を安心させてあげるためにあえて大きな声で、しかもドラゴンの巨大な角を見せびらかしながら討伐完了を宣言する。
「「「「ひぇっ......」」」」
皆ドラゴンの角を見た瞬間に変な声を出してしまうけど、気持ちはわかる。だってすっごく大きかった。怖かった。
「ま、マジじゃねぇの?、あんなにでかいもん落とすなんてドラゴンじゃないと......」
「ちょ、ちょっと誰よ......『逃げて来たんじゃないか』とか言ったの......」
「「「「お前だわ!」」」」
「さ、さすがは神獣と言ったところか......」
「はい、ニジハが倒したので!」
「ピッ!」
ニジハは僕の肩で誇らしげに『やってやった感』を出している。
「調査隊の完全な報告が上がるまではシオンにはしばらくこの街にいてもらう。もし他にもドラゴンがいた場合、シオンにしか討伐は頼めん」
「わかりました。でも一瞬だけ帰ってもいいですか?、すぐに転移魔法で帰ってくるので」
「いいだろう」
一応アンゼリカ様とクリスティーン様にもうしばらくかかるって伝えておこうと思ってね。
「今転移とか言ってた......?」
「うそでしょ?、『大樹』のクリスタやヒルダじゃないんだし......」
僕は仕事が終わった開放感でルンルンの足取りで宿屋に帰って行った。もうすぐみんなに会えるからね。
「ただいま~!」
「シオンお帰りッ!!♡」
「あ~!、リゼちゃんハグはみんなでって言ったじゃん!」
「ごめんごめん♡、みんなもおいで♡」
「シオンくん♡」 「シオン殿......♡」
みんなでぎゅ~ってしてちゃんと生きてるんだよってお互いに確かめ合う。
「もうちょっとだけ......こうさせて......」
しばらく抱き合ってた後、僕は深呼吸して3人から離れる。
「僕はちょっとだけ王都に帰るんだけど、3人はどうする?」
「あたしらはもうちょっと迷宮で修行したいから残るよ。シオンは会いに行かなきゃだもんね♡」
「うん、ちょっとだけ顔見せて来るね」
ちょっと寂しそうな3人ともう少しだけハグをした僕はアンゼリカ様とクリスティーン様が待つ王都に転移するのだった。
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