第1話 転生
転生した僕の装備は旅人風のお洋服にフード付きのマント。腰には剣......じゃなくって刀かな?反りがあるし。それにカバンの中には、よく研がれた小さなナイフに、お金がじゃらじゃらと......
「お手紙?、何何?、『この手紙を見ているということは無事に転生出来たということですね。この世界でのあなたはトチーヌ王国出身の13歳のハイエルフ。もし出自を聞かれることがあったら〈覚えていない、気が付いたら森に中にいた〉と答えましょう。それですべて納得してくれます』......」
たしかに今まで何して生きてきたのなんて聞かれたら確実に詰んでしまう。カバーストーリーを作ってくれたトゥルリナ様に感謝だ。
手紙にはこの世界の僕の辿るはずだった運命も記されている。ざっくりまとめると僕のいた村は敵国の侵攻にあって壊滅。逃げて旅をする最中で飢え死にしたんだってさ。
でも僕が転生する都合上トゥルリナ様がこの安全な森の中に転移させて、魂を死体に入れたみたい。
ちなみにその村のみんなはいろんな死因ですでに死んでいるらしい。何ともまぁこの世界の僕も不遇なもんだ。
「さてと!、魔法魔法!」
気を取り直してこの世界で初めて触れるものがある。それが魔法だ。火......は森の中じゃ危ないから水かな。
「出でよ水!」
僕のかっこ悪い魔法の呪文でも水が手のひらから噴き出して、あたりに虹がかかる。
「すごい!、魔法だ!、ホントに魔法だ!」
年甲斐もなく......いや、今は13歳だ。若々しくいこう......はしゃいでしまってるけど、そういえば森の中だった。安全とは聞いてるけどもしかしたら何かが潜んでいるかもしれないし、気を付けよう。
「次は風の魔法だ!」
風を起こしてかまいたちの要領で周囲の木々の枝を落としてみる。結構な切れ味が出てるからこれを攻撃手段にしよう。
「コレちょうどいいし杖にしよっと」
ちょうどいい太さの枝を切って杖にしながら森の中を歩いて行くと、だんだん景色が明るくなって森の端っこが見えてきた。
しかも運がいいことに道に出ることができた。これをどっちかに進めばどこかには通じてるはずだ。
やっぱり森の中と道じゃあ歩きやすさが全然違う。早めに道に出られてよかった。
まだまだ日は高いし、もしかしたらどこかに着ける可能性もあるね。
「あれなんだろう?」
遠くの方に何やら止まっている馬車と、それを囲う人影が見える。何かトラブルだろうか?急いで馬車に近づいていくと囲っているのは人影じゃなくって狼たちだと気づく。
「君!、逃げなさい!」
「う、うわぁ!、ウインドカッター!!」
狼は獲物が増えたと思ったのか僕の方にも向かってきて、咄嗟に覚えたての風の魔法で狼を切り刻む。
「よ、よし!、もう一回だ!、ウインドカッター!!」
僕はそのままの調子で風魔法をまき散らして狼たちに無数の傷をつけていく。
狼たちも僕の魔法に劣勢を悟ったのか森の中に退散していって、周囲は一気に静まり帰る。
「君、ありがとう」
「いえ......」
騎士の女の人が僕にお礼を言ってくれてちょっと照れてしまう。とっても綺麗な人だ。背が高くって金髪で......い、いい匂いがして......
「こんな森の浅い所に魔獣化した狼が出るとは......」
「魔獣?」
魔獣って何だろうか?、もしかしてそこに転がっている僕が倒した巨大な狼のことかな?、すっごく大きくて馬くらいある。
「魔獣を知らないのか?、うくッ......」
「あ!、怪我してるじゃないですか!」
女の騎士さんはわき腹をざっくり切られていて、血が結構出ている。きっと狼の爪にやられたんだろう。
「このくらいは問題ないさ。街までもつ」
「見せてください!、治療します!」
さっき実は森の中で手を切った時に回復魔法を使えたんだ。それをこの女の人に......
「すごいな......回復魔法も使えるのか......」
「お待ちくださいお嬢様!、まだ周囲の安全がとれたわけでは!」
騎士さんが僕の回復魔法に驚いている間に、馬車の中から綺麗な紫髪の女の子が出てきた。年のころは僕と同じくらいかな。
「まぁ!、恩人様はエルフの方でいらっしゃるのですね!」
「お、恩人だなんて......」
「いや、君がいなかったら持たなかった。君は恩人だ」
騎士さんにわしゃわしゃと頭を撫でてもらって照れくさくなる。そっか、僕はこの人たちを守れたんだ。
「恩人様のお名前を聞かせていただけますか?」
「し、シオンと言います」
普通に話しているけれど、馬車におっきな紋章が入っていて、やんごとなき身分の方だっていうのがひしひし伝わってくる。膝とかついた方がよかったかな。
「シオン様、どうか我が家でお礼をさせてくださらないかしら?」
「えっと......」
さすがに初対面でお家にお邪魔は......でもお貴族様ならお客さんの1人や2人当たり前なのかな?
「恩人様に何もお礼をしないなんて公爵家の名折れですわ。どうか来てくださらない?」
こ、公爵家......断る方が逆に失礼まである......かな?
街にも行きたかったし、今日はご厄介になろうかな。なんか悪そうな人だったら魔法で逃げよう。
「お、お邪魔します......」
「では決まりですわね♡、さぁお乗りになって♡」
女の子の手を引かれて馬車に入ると、中には執事服を着た綺麗なお姉さんが座っていた。
「わたくしはアンゼリカ・フォン・キバラ。キバラ公爵家の嫡子ですの」
「よ、よろしくお願いします。アンゼリカ様......」
「シオン様はどちらに行かれるご予定でしたの?、行く方向は同じとみてお誘いいたしましたが......」
これは早速トゥルリナ様が考えてくれたカバーストーリーをお話しするところだ。
「実は温かな光に包まれて気が付いたらあの森の中にいたんです。それまでの記憶がなくって......でも何か辛いことがあったような気がして......」
「申し訳ありませんわ。辛いことを聞いてしまいましたわね......」
本当に女神様のカバーストーリーで2人は悲しそうな顔で納得してくれて、それ以上の追求はして来なくなった。なんで妙にすぐ納得してくれるんだろうか?、その辺も後で調べてみようかな。
「ですがアンゼリカ様にお会いできてよかったです。僕も道がわからなくて困っていたところでしたから」
これはカバーストーリーじゃなくて本当の話。でもきっとこれもトゥルリナ様が決めてくれた運命なのかもね。
「ふふ♡、それは渡りに船ですわね♡、これから向かうのはキバラ公爵領の領都『ミーディア』ですわ♡」
どうやらアンゼリカ様のご実家に向かって僕らは移動しているみたい。どんな街なんだろうか?、馬車が使われてるってことはやっぱりヨーロピアンな感じだろうか。ヨーロッパ旅行なんて前世じゃ行ったことないけどさ。
「アンゼリカ様はどちらからいらしたんですか?」
「わたくしは王都で社交界に出席してきましたの」
「しゃ、社交界......」
「ふふ♡、ただのお誕生日パーティですわ♡、今のは少し恰好を付けただけですの♡」
ちょっとお茶目なアンゼリカ様と一緒に馬車にしばらく揺られていると、道の真ん中で馬車が停車した。もしかしてまたトラブルだろうか?
「領都に送った使いが戻って来たようですわ」
どうやらさっき襲われてた時に応援を呼んでたみたい。その人たちが今合流してきたのだ。トラブルじゃなくてよかった。
「お嬢様、ご無事で何よりです」
「えぇ、こちらのシオン様が助けてくださったのです」
「感謝する。シオン殿」
そういえば応援に駆け付けた人もずっと一緒にいた人もみんな女の人だ。偶然かな?、アンゼリカ様が女性だから、同じ女性を傍に置いているとか?
「さぁシオン様♡、ミーディアに向かいましょう♡」
手厚い護衛が加わった僕ら一行はキバラ公爵領の領都に向かってまた馬車を進めていくのだった。
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