第9話 怒り
「では行ってきますね、アンゼリカ様」
「はい♡、行ってらっしゃいませ♡」
アンゼリカ様にもらったネックレスをお守りに身に着けて、僕は今日から神獣の森に遠征する。
「本日はよろしくお願いします」
「ワフ!」
「はい♡、お願いしますわね♡、シオン様♡」
クリスティーン様にご挨拶をして、馬車に乗り込んだら早速出発だ。王都から北に進んで1日とちょっとのところにある神獣の森に入って、クリスティーン様に合う従魔探しをするのだ。
馬車の中にはクリスティーン様の護衛の人もいる。褐色肌に黒髪のクールな女性だ。何度か見たことがあるけど、こんな至近距離は初めてだ。
「彼女はヨハンナ。わたくしの従者をしていますの」
「私はヨハンナ・フォン・ヤガタ。よろしくお願い致します」
「僕はシオンです。よろしくお願いします。ヨハンナ様」
『フォン』がつくってことはヨハンナ様も貴族様だ。確か侯爵家だったかなヤガタ家は。
王族の冒険ってことでかなりの数の護衛も馬に乗って同行している。ちょっと仰々しいかも。
「先日のスタンピードの影響で皆に心配されてしまってこのような大所帯に......この従魔契約の遠征は王族に課せられた試練の側面もあり、本来は護衛は最小限にする習わしなのですが......」
クリスティーン様の話だと、元々トチーヌ王国の王族が国を建国する際に従魔術を駆使して大活躍したっていう歴史があるみたい。それでトチーヌ王国の王家には従魔術を習って神獣を従魔にして国難に立ち向かう義務があると。
「本当なら先日のスタンピードを鎮めることさえ王族の仕事なんですのよ?、それをシオン様がちゃちゃっと解決してしまうから驚きですの!」
「その節は大変ご心配を......」
またぷりぷり怒るクリスティーン様をなだめつつ、僕らはお昼ご飯を食べに馬車から降りる。
「シオン様♡、一緒にお料理頑張りましょう♡」
「はい!」
本当は僕が全部やってしまってもいいんだけど、それじゃあ試練にならないってことで基本はクリスティーン様が持ってきた調理器具や食材を使う。
薪で火を起こして鍋を温めて、スパイスで揉んだお肉を焼いて、お野菜も炒めて煮込んだら簡単栄養満点スープの完成だ。あとはもってきたパンと一緒に食べるだけ。
護衛の方たちも空間収納から食材を出して食べているから僕らは気にしない方針。基本は僕とクリスティーン様とヨハンナ様で行動する。
「こういうのもなかなかいいですね♡」
「はい!、おいしいです!」
「ワフ!」
エルの分は僕の空間収納からご飯を出してあげている。人間と同じもの食べていいかわかんないからね。
夜は直轄領の街に泊まって、明日の朝から神獣の森に入る。
「さぁシオン様!♡、参りますわよ!♡」
神獣の森は確かに神聖な魔力に満ちているのを感じる。エルと似たような気配を感じれるのだ。
「ピッ!」
森の中を進んでいると僕の方に色鮮やかな小鳥が飛んできて急に肩に止まってくれた。この子もモフモフだ。
「れ、レインボーフェニックス......」
「フェニックス?」
「し、シオン様の肩に止まっているのはレインボーフェニックスですの......お、王家の記録では確か先々代の女王はレインボーフェニックスを従えたとか......」
「ピッ!」
神獣っていうかどう見てもただの小鳥だけどこの子が国難に対抗する力になるのかな?
「ピッピ!」
「君も従魔になる?」
「ピッ!!」
「じゃあ、名前は......ニジハね!」
「きゅ~♡」
僕のほっぺたにすりすりしてくれて、名前を気に入ってくれたのが伝わって来る。まさにお空にかかる虹みたいに綺麗だ。
「わたくしも早く相棒を見つけなくては!」
クリスティーン様も僕の神獣を見てやる気をみなぎらせて森の奥に進んでいく。
「クリスティーン様、ここに人はいますか?」
「この森にですか?、この森は立ち入り禁止区域ですからわたくしたち以外には......まさか!」
「はい。人の反応があります」
僕の魔力探知には人間の反応がビンビンに引っかかっている。
「密猟者かもしれません!、すぐに追いかけましょう!」
クリスティーン様と一緒に神獣の森を駆けて人間の反応を追いかける。この森にはどうやらたびたび密猟者が出入りするらしく、まだ赤ちゃんの神獣を狙って攫って行くんだって。
「そこで止まりなさい!」
「なッ!、誰にも見られていないのに!」
見つけた人は小脇に袋を抱えていて、僕らを見た瞬間に逃げ出した。これは完全にクロだね。
「お待ちなさい!」
相手は神獣を抱えているから誰も攻撃ができない。むやみに攻撃して当たったら大変なことになる。神獣を傷つけることはできない。
森の中を駆けて密猟者を追っていると急激に大きな魔力がこちらに向かってくるのが感じられて急いでクリスティーン様の手を引く。
「きゃ!」
「のわぁぁぁ!!」
森の中から急に現れたのは青白い大きなトラ。一瞬で密猟者から袋を奪い返してぎろりと密猟者をにらみつける。
「ま、待って!、殺さないで!」
僕は密猟者の前に体を出して、神獣の怒りをなんとかして鎮めようとする。
「この人にはしっかり罰を受けさせるから!、だからお願い!」
「わたくしも誓いますわ!、王家としてこの地を2度と汚すことが無いように!」
「グルルルルル......」
「ミーッ!!」
もぞもぞと袋から出てきたトラの赤ちゃんも僕らの足元に寄ってきてくれて、親を説得しようとしてくれてるみたい。
「ミーッ!!」
「ワフ!」
「ピッ!」
エルとニジハからの説得が効いたのか神獣はその場から去っていった。あれ?、子供置いてっちゃったよ?
「もしかして託してくれたのでしょうか......?」
「ミーッ!」
「わたくしの従魔契約を受けてくださる?」
「ミーッ!」
「ではあなたの名前はライよ♡」
「ミーッ!」
ライは嬉しそうにクリスティーン様の周りを駆けまわっている。この子は何て言う種族なんだろう。
「この子はボルトタイガーの子ですわね。王家の記録で見たこともあります」
「貴様。どこへ行く」
「ひッ!!」
こっそり逃げようとしていた密猟者の首筋にヨハンナ様が剣を当てている。そういえば忘れていた。
僕の空間収納から縄を出して縛って王都まで運ぶ。この人にはしっかり罰を受けてもらわなきゃいけないからね。
「ではシオン様♡、帰りましょう♡」
「ミーッ!!」
ライはクリスティーン様に抱っこされながら王都まで帰って行くのだった。
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