第96話 機械室の戦い
人だ。
人の気配。レイラは見逃さない。人影が見えたのだ。並んでいる機械の向こうに
この機械室に、人がいる。
「ネクリ、隠れてて。動かないでね」
小声で、言う。
背の高い機械がたくさん並んでいる。隠れるのは、わけなかった。
ネクリの安全を確認したレイラ、そろそろと動き出す。
立ち並ぶ機械の間を縫うように、身を隠しながら進む。エリート刑事の本領発揮である。
見つけた。
機械の影から、相手の姿を捉えた。
こっちに背中を向けている。男だ。全くこっちに気づいていない。
レイラは、目を凝らす。
男の姿。赤のTシャツ。背中に大きな黒い髑髏のプリント。ぴっちりとしたデニムのスラックス。尻のポケットから、平たい小さなウイスキーの瓶が、飛び出している。そして腰からは、だらしなく光線銃を下げていた。
やっぱり宇宙海賊か?
髑髏、ウイスキーの小瓶、光線銃、まさに、海賊の基本そのまんまだ。
ここは、どういう事情かわからないけど、宇宙海賊が巣にしているの? そして、この油断しすぎの男は、その下っ端ってことか。
レイラは、辺りの気配を伺う。大丈夫。機械室にいるのは、この男だけだ。
よし。こいつをとっつかまえて、締め上げてやろう。ここがいったい何なのか、何が行われているのか、全部喋らせてやろう。もうわけのわからんものに襲われるのはうんざりだ。全てをはっきりさせるんだ。
俄然、身体に力が漲ってくる。得体の知れない巨大軟体生物や、ゾンビが相手ではない。普通の人間が相手なのだ。しかも、相手は気づいていない。こっちが先手をとって襲うなのだ。
「やってやるぞ」
レイラの中でメラメラと炎が立ち上る。
これまで散々な目にあった。理不尽な仕打ちの分を、今、全部返してやろうじゃないか。この、目の前にいる海賊の下っ端に。
疲労も何も、全て吹っ飛んだ。決断するや、レイラは素早かった。
豹のようにしなやかに、そして物音1つ立てずに、男の背後に迫る。あっという間に距離を詰める。レイラが、男に飛び掛ろうとした瞬間、男は振り向こうとした。
「やるな」
レイラは、内心ニヤリとする。レイラの背後からの襲撃に気づくとは。いい反応速度。なかなかの相手だ。でも、遅い。
男が振り向くよりも早く、レイラは飛びかかり、両腕を男の首に回しクロスさせ締め、足をかけて、男を押し倒した。
どう、
と、男は、前へ倒れる
「よし、確保」
倒れた男の上になったレイラ。
両腕はしっかりと、男の首に食い込んでいる。相手は声も出せない。
両足で、ガッチリと男の下半身をロック。
上から男の背後に張り付いたレイラ。
これで相手は脱出不可能。そして、声を出すこともできない。警察学校で習った格闘術の勝利である。
男の腰の光線銃を奪いたかったが、相手の首に巻きつけた腕を解くのは、危険だ。このまま、すべき事はしよう。
「おい、動くな。そして、こちらの指示したことだけを喋れ。いいか、勝手な真似をしたら、首をへし折るぞ。締めるんじゃなくて、へし折るからな。一息で、お前はお陀仏だ。そうなりたくなかったら、言うことを聞け」
レイラは、低く、静かな声で言った。レイラを振り解こうと体を動かしてしていた男は、おとなしくなる。
「よし、いい子だ。さあ、海賊君、貴様たちが、ここで何をしているのか、全部話してもらうからな」
倒されて首をロックされた男、ふが、ふが、と息を吐く。
やったぜ。
レイラは、ようやく刑事の自分を取り戻した。
やっぱり、相手が人間なら、なんでもないな。
今度は、こっちの番だ。




