第95話 出口
両腕をダランと前に垂らしながら、ゆらゆら、わさわさ、追いかけてくるゾンビの群れから。
レイラとネクリ、必死に逃げる。
相手の動きは、遅い。とりあえずは、逃げられる。でも、ずっと走っているわけにはいない。ゾンビのほうは、どうなのか? ゾンビのスタミナ事情について、レイラはいくら考えてもわからない。いや、もう考えるのも放棄した。
目の前が。
十字路になっていた。先が暗くて、見えない。
一旦、十字路の中心で立ち止まる。どっちに行けばいいんだ?
その時、十字路の先まで、通路に、ぼおっと白い光が灯った。
「あ」
レイラ、息をのむ。
十字路。どっちに行っても。さっきと同じ棺桶の列が、並んでいる。整然と、きれいに並ぶ棺桶たち。
「これって」
あれこれ考える必要はなかった。棺桶が一斉にガタガタと動き出した。そして、蓋が開くと、ボロボロの青白い腕がつき出されてきた。あっちの棺桶からも、こっちの棺桶からも。全部から。
ぐしょぐしょの顔に白目を剥いたゾンビたち、次々と姿を現す。
囲まれた。
「ああ、もう」
ネクリは、かすれた声で言うと、ペタンと座り込んだ。
「私……だめ。動けない。レイラ、1人で逃げて」
「大丈夫よ」
レイラは、ネクリに笑顔を見せる。
「あんなボロボロの腐って崩れる寸前の奴らなんて、束になってかかってきたって、なんてことないから! 任せといて」
そうはいうものの。
ゾンビと戦うって。
何しろ武器は何もない。素手で殴ったりしたら、どうなる?
拳が、ゾンビの、ボロボロの衣服と体に、ぐしゅっと、めり込みそうだ。なんだかドロドロした体液とか出てくるの? それって洗えばちゃんと落ちるの? ゾンビたちのボロボロ、ぐしょぐしょの体に囲まれて、ガブッと噛まれちゃったりするの?
「そんなの、嫌!」
想像するだけで、震える。これまで、数々の悪党と対峙してきた刑事レイラである。でも、ゾンビなんて想定したことはない。
ああ、せめて、棒でもあればいいのに。
ゾンビの群れは、十字路の4方向から、ゆっくりと近づいてくる。
死んだ白目、白目、白目、白目、白目、こっちを不気味に見つめている。
レイラ、両の拳を突き出して構える。
何十体いようが、関係ない。所詮、ボロ雑巾みたいなものだ。うん、そう思って戦おう。とにかく、ネクリを守らなくちゃ。
覚悟をしたレイラだが、その時、気付いた。
十字路のすぐ先に。
赤く光る時で、何か書いてある。
『関係者以外、立ち入り禁止』
◇
「これは」
レイラ、ネクリの手を引く。
「ネクリ、扉があるよ。あそこへ逃げ込もう。助かるかもしれない。ほんの数歩だから、頑張って」
ネクリも立ち上がる。
「行くよ」
しっかりとネクリを抱えて、レイラは、急ぐ。
『関係者以外、立ち入り禁止』と書かれた赤い文字の表示。扉だ。扉があった。ノブもある。
レイラ、ノブをつかんで、押す。
扉が開いた。
「さあ、ネクリ、入るよ」
中に何があるのか、何が待っているのか、わからない。でも、ゾンビの大群よりはマシだろう。今より最悪なことなんて、考えられない!
中は。
明るい照明の空間だった。白く輝いている。
かなりの広さがある。
そして。
大小の機械が、ぎっしり、いっぱい並んでいた。
稼働中らしく、ランプが点滅したり、モニターに表示が出ていたりしている。
機械室?
この謎の大規模地下施設は、何の目的で造られたかはさておき、現在も稼働中である。これだけの施設を動かすんだから、それなりの機械制御が必要である。
「ここがその、制御室ってことかな?」
キョトンとするレイラとネクリだったが、今はとにかく、ゾンビの追撃をかわさなくてはいけない。この機械室は、怪物が出てくる雰囲気ではない。
レイラは、しっかりと扉を背中で抑える。ゾンビを、こっちに入れてはいけない。
扉の向こうの通路。ゴソゴソ、音がする。ゾンビの群れが、通っているんだ。しかし、ゾンビたちは、こっちに入ってこようとはしない。やはり、決められたプログラムで動く仕様なのかな。やがて、外の音は、消えた。
「よし、やった。とりあえず助かったみたい」
ほっとするレイラ。ゾンビとは、もう絶対に関わりたくない。
ネクリ、床に座り込む。
「おや」
レイラは、気づいた。
人だ。
機械室に、人がいる。




