第94話 お約束な罠
ぼんやり赤く光る、ひんやりした洞窟の中。
物音一つしない。
レイラは、やっと立ち上がった。
横たわる不気味な発光軟体生物の巨体。ピクリともしない。
結局、何だったんだろう。控えの間、謁見の間から、いきなり怪物館だなんて。不用意な侵入者を嵌めるための、罠だったのかな。
ともあれ、こうしちゃいられない。
「ネクリ、座って休んでて。私、出口を探してみるから」
洞窟の中を歩きまわる。入ってきた扉も、ドンドン叩いてみるが、うんともすんともいわない。開かない。
「もう、自動扉なのに、開いたり開かなかっり、いったいこれって何なの!」
レイラの金切り声が、洞窟にこだまする。
苛々したレイラは、あちこち、どんどんと岩の壁を叩いて周る。
すると。
ギイイイ、
と、音がして岩が動き、大きな穴が現れた。
◇
洞窟の壁に、ぽっかりと空いた穴。
出口?
ここを行くしかないらしいんだけど。
レイラとネクリ、さすがに躊躇する。
ちょうど、人が通れるくらいの大きさの穴の向こうは、通路になっている。ぼんやりと白く光っている。すぐ曲がり角があり、奥までは見通せない。
「ここに入ったら、またドーンって後ろで扉が閉まって、やばい奴が出てくるのかな」
巨大怪物相手に、死ぬ思いで戦うのは、さすがにもう、こりごりだ。力が抜けきっている。
宇宙大海賊でも何でも、誰が出てきて、きちんとここの事情を説明してほしい、もう、そんな投げやりな気持ちになっていた。
しかし。
しん、と静まりかえる洞窟の中。
何も現れない。
行くしかないか。
「とにかく、行ってみよう」
レイラの言葉に、ネクリも力なくうなずく。
レイラは、軟体巨大生物との戦いで、口を利く元気もないネクリの手を引いて、穴の奥の通路へと、歩き出す。
◇
一本道だ。迷ったり考えたりする必要は無い。それはそれで気楽だ。
ひょっとしたら、隠し扉とかを見落としちゃったりしてるのかもしれないけど、そんなことはもう気にならない。唯一の武器だった棒も、軟体獣に飲み込まれて無くしてしまった。また、素手だけである。水着の女の子2人で手をつないで。疲れきっている。
変な仕掛けは、おしまいだと、いいんだけど。これ以上は、ダメ。無理。
◇
「うーん、ここを造った人間て、よほど、変な趣味をしているのね」
感情のない声で、レイラがいう。
通路は、広くなっていた。
そして、通路の両側には。
ずらっと並んでいた。
棺桶だ。
棺桶。
通路の両側の壁に立てかけてある。等間隔に、並んでいる。
「なに、これ」
レイラ、足を止める。
ネクリは、軽く震えている。ずっと真っ青。心臓も、体力も、限界。
「どう見ても、罠だなあ。あはは。わかるぞ」
自分に言い聞かせるように、レイラは言う。
罠。
棺桶。空の棺桶が、なぜかずらっと並べてあるだけ?
いやいや。そんな筈はない。
これまでの趣向から、考えると。
ろくでもないものが入っているに違いない。
どうせ棺桶の列の間を通ると、いきなり中から出てきて、こっちを驚かそうっていうことなんだろう。お見通しだ。いや、こんなの、子供だってわかる。
しかし。
ここを通るしか、ない。
レイラは、ネクリの手を引き、歩く。ネクリは無言で、眼を大きく見開いている。疲れきっているのだ。限界状態。
「罠でもなんでもいいや。何でも出てきやがれ。もう、知らない!」
あれこれ考えても無駄な状況で。レイラは、やけくそ。
面倒なので、レイラは数えなかったが、棺桶は、左右に、50個ずつ並べてあった。
その列の半ばに来た時、
一斉に棺桶の蓋が開いた。
おいでなすった。
見事に予想通り。うん。これしかない。何の感情もわかない。
◇
出てくるのは、悪魔が、吸血鬼か、骸骨か、それともミイラか何かか?
レイラの予想は、全部ハズレた。
「こ、これって」
ネクリの、乾いた声。
「ゾンビってやつ?」
と、レイラ。
「ゾンビ……」
ネクリが、繰り返す。
棺桶の中にいたのは人間。いや人間の姿をした、何か。ボロボロの服に、青白いボロボロの皮膚。ぼさぼさの髪。完全に白目を剥いている。
ゆらゆらと両手を突き出し、棺桶から出てくる。
「ネクリ、走れる?」
「うん……がんばる」
「あ、無理しなくていいよ。ゾンビだし」
かなり投げやりなレイラ、ネクリの手を引いて、走る。
ネクリの体力は限界だ。そんなに速くは走れないけど。
ゾンビの動きは、遅い。ゆらゆらと、動く。
うむ。
レイラの知っているゾンビ、そのまま、その通りだ。知っているといっても、ゾンビなんて、創作物の中でしか知らない。そもそも実在するのか? ゾンビが実在しないとすると、今、目の前にいるのは、いったい何なのか? わからない。考える暇も意味もない。
確かゾンビって、人間を捕まえると、噛み付いて、噛み付かれた人もゾンビになっちゃうんだっけ。これも創作物の知識だ。
とにかく逃げればいいんだ。そういうルールなんだ。
あの、ボロボロの不気味なゾンビと素手で戦うなんて、絶対に嫌。
それにしても。
ワラワラと追いかけてくるゾンビから逃げながら、レイラは、思う。
「ここを造ったやつ、想像力が決定的に不足してる! そして何より、趣味が悪すぎるんだからっ!」




