第93話 触手獣
「危ない!」
レイラ、持った棒で、伸びてきた触手を、叩く。
ぐにゃっと曲がる触手。すっと引っ込む。
とりあえず撃退。でも、触手は1本じゃなくて。10本、20本……いや、どんどん伸びてくる。
「ネクリ、走るよ」
レイラは片手で棒を握り、もう一方の手でネクリの手を引いて、走る。
かなり広い空間だ。
必死に走れば、軟体の怪物と距離を取ることができた。岩の洞窟の隅へ逃れた2人、ぜいぜいと、息をつく。
巨大軟体生物は、無数の触手をニョロニョロ、グニョグニョと蠢かしながら、ピタピタ、とゆっくり動くことしかできない。
でも、大きな赤い目玉をギョロつかせながら、じりじりと2人に迫ってくる。
「ここで鬼ごっこしてたら、いつかはやられちゃう。隅を周りながら、出口を探そう。絶対、出口はある。あいつの動きは遅い。十分こっちに引きつけてから、ダッシュするよ」
レイラは、触手を蠢めかす怪物との距離を計る。相手は、のろのろとした動きだ。
落ち着いて逃げれば、かわすのは、問題ない。
ピタピタ、ヌルヌル、
嫌な音が、洞窟内に響く。
大きな赤い目玉、近づいてきた。
よし。
「さあ、ネクリ、行くよ!」
手を引いて、レイラは走る。
そこかしこに、ぼんやりとした赤い光。暗いので隅々までは見通せない。落ち着いてよく調べれば、どこかに出口はあるはずだ。
それを見つけるまで、逃げ切ればいいんだ。
が、
「あっ!」
ネクリが、転んだ。レイラの手、離れる。
「ネクリ!」
レイラが振り向いた時、
ビュッ、ビュッ、
触手が束になって伸びてきた。さっきよりも速い動きだ。
たちまち、ネクリに巻き付き、からめとる。巨大軟体生物は、触手の束で、ネクリを高々と持ち上げる。
「キャーっ!」
ネクリの悲鳴。
「ネクリ!」
レイラは助けようと駆け寄るが、
ビュッ、ビュッ、
伸びてきた触手に、自分も絡みとられてしまう。
ぐるぐる巻きになって、高々と持ち上げられてしまった。
◇
「こらーっ! 離せーっ!」
レイラは、自分に巻きついている触手を、棒でバシバシ叩く。しかし、今度は、触手は引っ込まない。ぐにゃっとした手ごたえがあるだけ。束になってるせいか、叩いてもびくともしない。
ヌルヌルした触手。拳で叩いても、引っ張ってみても、どうにもならない。
「ちょっともう、これ、何なの?」
タコだがイカだかクラゲだが。
こういうのって、人間を捕まえたらどうするんだろう。タコとかイカには確か、歯があるんだっけ? クラゲはどうなんだろう? どうやって捕まえた獲物を食べるんだろう? ああ、そんなこと考えちゃだめ!
必死なレイラ。
ふと、自分を睨んでいる大きな赤い目玉に気づく。
眼球がある。あれなら。軟体じゃないから、攻撃が効くかもしれない。
よし。あれを狙おう。すべてを懸けることにしたレイラ。
えいっと手にした棒を、赤い目玉めがけて投げつける。
◇
レイラは槍投げの経験はなかったが、奇跡的に、投げた棒は、赤い目玉に突き刺さった。そのままめり込んでいく。
グシュルルウウウ、
軟体の怪物は、なんとも不気味な音を立てた。
動きが止まる。ゆっくりと、持ち上げていたレイラとネクリを床に下ろした。
スルスルと、2人に巻きついていた触手がほどけ、縮んでいく。
グシュッ、
生ぬるい音がして、巨大軟体生物の、動きが止まった。
倒した、のかな。
目玉が弱点だったのか。
レイラとネクリは茫然と。しばらく、床に座り込んで、不気味に赤く発光する軟体の塊を見つめていた。




