第92話 王の間の主
真っ暗闇の中、閉じ込められた2人。
どうすることもできない。
すると。
物音がした。
ピタピタ、ピタピタ、
「な、何かいるよ」
ネクリ、さっきは調子を取り戻していたのだが、またすっかり怯え切って、レイラにしがみついている。
ピタピタ、ピタピタ、
なんだろう、この音は。何かが動いている。それもかなり大きい。いや、大勢いるのか? そして、ゆっくりこっちに近づいてくる。
匂いがした。
海の匂いだ。
海底洞窟だから、海の匂いがしても、おかしくはないんだけど、さっきの豪奢な広間では、妙な匂いは一切しなかった。
なんだ?
ピタピタ、ピタピタ、
ヌルヌル、ピチャピチャ、ヌルヌル、ピチャピチャ、
新しい音が加わった。
なんだか、粘液にまとわれた物を絡み合わせ、こすり合わせているような。
どちらにしても、あまりこういう場面で聞きたい音では、ない。
近づいてくる。音も、匂いも。
レイラは、手にした棒を構える。
突如。
ぼおっと、明かりがついた。
「キャアアアアアーッ!」
レイラとネクリ、同時に悲鳴をあげた。
急に、部屋中が、赤い光に照らされた。はっきりと周りが見えたのだ。
いや。
部屋じゃない。ゴツゴツした岩壁に囲まれた、岩の空洞だ。空間は、たっぷりある。さっきの宮殿の間よりも、広く、天井も高い。
岩壁があちこち、ぼおっと赤く光り、照らしている。
レイラとネクリの目の前に迫っているのは。
巨大な怪物。
軟体生物。
こんなの見たことない。
◇
巨大な軟体生物。
ヌメヌメした表面の全体が赤く、ぼおっと光っている。岩壁の赤い光と同時に、こちらも光り出したのだ。
「な、なにこれ」
ネクリ、口をあんぐり開けたまま。
「なんだろう」
と、レイラも。
ぼおっと光る赤いヌルヌルの円盤状の巨体。エアバスほどの大きさがある。無数の足というか、触手というかが、蠢いている。足だか、触手だかを、ピタピタ、ヌルヌル動かして、這っているのだ。
この見た目は。
レイラは、自分の知っている軟体動物、海生生物を思い出す。
タコ、イカ、クラゲ、ナマコ、えーと、それから何だったっけ。
そういうのの要素を全部ごっちゃにして、バカでかくして、最大限に気味悪くした、そんな姿だ。
これはきっと。
人造生物。それは間違いない。
生命工学、遺伝子工学の発展で、人間はありとあらゆる改造生物を生み出していた。
こういう、ありがたくない見た目のやつは、大抵、観賞用とか、遊戯用で、特別に開発されたものだ。
なんであれ。
あまり出会ったり、近寄って欲しい生き物ではない。怪物。絶対にそうとしか見えない。
まさかこれが、この地下宮殿の王? 主? そんな!
ヌルヌルした巨大軟体生物は。
巨体の中央にある大きな赤い眼球で、レイラとネクリをじっと見つめている。
そして。
スッ、と。
幾本もの細長い触手を2人めがけて伸ばしてきた。




